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鳴子たる森  作者: 花美輪 乃霧
第一章
11/20

11 芳醇な香り

 食の間は四十畳ほどの畳張りの部屋で、中央部に縦長の食台が設置されていた。食の間入り口にはかまちがあり段差となっている。框前に淡青のスリッパが二足置いてあった。


 私たちは座敷食台の中央付近へと老婆に案内され、座布団に座った。目の前には、浴衣を着た四十代半ばと見られる男女が寄り添って、何やら楽しそうに会話をしている。男は白髪交じりの面長な顔で、女は後ろで一つに髪を結わき眼鏡を掛けている。

 まだ料理が揃っていないようで、手を着けていない。


 老婆はもう一組の宿泊客がいると言い残し、背を丸め赤い絨毯の廊下に消えた。


 食台には料理のセットが用意されている。箸や茶碗、小皿、大皿に盛り付けられた刺身があり、弱火に着火された卓上焜炉の上に小さな鍋が載せてある。

 鍋の中には椎茸、蒲鉾かまぼこ、人参、さらに初めて見る大きさの白子が出し汁と思われる液体に浸っていた。

 切り分けられているので、白子の大きさ自体は普通であるが、全体の大きさではなく、白子特有の乳白色の筋皺が通常より太く深い。また、薄っすらと桜色の筋も入っている。その鍋からは、椎茸と昆布出汁、微かに醤油の良い香りが漂っている。香りだけで唾液が口内に侵食してくる。

 しかし、食台には刺身のセットと芳醇なる御吸物のみであり、米も装われていない。宿泊客全員揃ったら残りの料理を持ってくるのだろう。


 彼女は私に微笑み掛け、耳元で囁いた。彼女も私と同様、芳醇な香りを放つ御吸物が気になっているらしい。


 目の前の二人組みが私たちに話しかけてきた。


 「カップルですか? 」40代の白髪交じりの男が私たちに話し掛ける。

 「はい、付き合い始めたばかりです」と私は照れ臭かったが答えた。

 白髪の男は続ける。

 「この宿は安いし、静かで良いですね。ゆっくりできそうですよ。一階の剥製は不気味ですがね」隣に座る眼鏡の女が頷いた。

 「私たちも見ました。ちょっと気持ち悪いですよね」私の彼女が答え、私は大きく頷いた。

 男は言う。

 「私たちはね、インターネットでここを見つけたんですよ。あまりの安さにビックリしましてね。思わず予約してしまいました。私たちは旅行が趣味でしてね、色々な旅館や温泉宿に泊まってますが、ここまで安い温泉宿は初めてですね。客室温泉食事つきで一泊六千円とは、お買い得ですよ。本当に」男は笑みを浮かべながら語った。私たちも同様の理由で予約したことを告げた。

 白髪男が面長な顔を眼前の鍋に近づける。

 「う~ん。良い香りですね、御吸物かな? このような白子は初めて見るね」男は隣の女に質問した。

 「初めて見るわね。何かしら? 」

 私たちも同様、首を傾げていた。


 そんな会話をしていると老婆が現れ、老婆と二人の影が食の間に伸びた。一人は三十代後半の痩体系の短髪の男、もう一人は女で髪は長く金髪、少々肥満体系で二十代半ばに見える。二人とも浴衣を着用していた。

 二人が食台に案内されると、仲居が残りの香ばしい香りを放つ料理を持ってきたのであった。

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これは実際の呪術を使用して執筆された手記です。
精神疾患等の発病については著者は一切の責任をおいません

※すでに心臓疾患・精神疾患のある方は絶対に読まないで下さい
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