井島二巳のぼやき
二卵性双生児である俺の片割れ、井島 一己は、局所的に女にモテる。
局所的にということは、つまり誰にでもモテるというわけじゃない。
何しろヤツの見た目は至って平々凡々、いわゆるイケメンだとか学園のアイドルとかファンクラブだとか、靴箱開けたらラブレターがあふれだすとか、その手のものには無縁の、ごくありふれた高校生男子だ。少なくとも、外見上は。
それでも一己は女にモテる。
あいつを知ってる奴で、これを否定する奴はいない。
そこには条件が二つある。
一つは、相手が並外れた美少女であること。
もう一つは、惚れられるまでに死にそうな目に遭うこと、だ。
幼稚園の頃から現在に至るまで、失踪だの誘拐だの強盗だの、巻きこまれた事件の数はもはや両手の指を制覇するレベルだ。半端じゃない。
両親など非日常の襲来にすっかり慣れきってしまって、このあいだアルゼンチンに拉致されたときでさえ「あら、またなの」なんて台詞で流していた。
――まあ事実、ヤツは三週間ほどで当たり前のように帰宅してきたのだが。
今後はもうとにかく日本にいようが肌身離さずパスポートを持っていろと、口を酸っぱくして説教したのが俺一人というあたりに、うちの家族のズレっぷりを察していただきたい。よく帰国できたもんだ。
そんな感じで、一己の体験をこと細かに話し始めれば、とんでもないネタ話の出来上がりだ。信じてもらうのは至難の技だろうが、たぶん笑いは取れると思う。
ただ、申し訳ないのだが、これは一己の物語じゃない。
双子の片割れである、この俺、井島 二巳の話だ。
……まったくもって、俺には不本意なことに。




