予定帳
ポッキーが食べたい。
ポッキーによる糖分摂取がしたい。ただ糖分を補給したいのではない。ポッキーによって補給したいのだ。
もういっそのこと先刻からずっと騒いでいるあの女に言ってしまおうか。
「あのー、ごめん。さっきのお金返してくれない?」
言えるかぁぁぁあ!!!!
今度は溝打ちじゃ済まない。奥歯を二、三本引っこ抜かれて売られてしまうかもしれない。しかしそれでポッキーが食べれるのだったら惜しくはないかも.....っ。
いやいやいや、何を考えているのだ。ダメだ。ロクに頭が回らないし禁断症状である貧乏揺すりが止まらない。
ひとまず落ち着くためにトイレに行くことにした。
自分の席は前の方なので、必然的に前の扉から出る。すると同じタイミングで後ろの扉から女子生徒が廊下へ出てきた。
さして気にせずにトイレに向かうと、その女子生徒は前を向いて歩いてなかったのか、フラフラと俺の方に向かってきて、気付いた時にはぶつかっていた。
「おっと」
「きゃっ」
ポッキーによる糖分摂取が十分であったなら華麗に躱していたが、それが済んでない状態の俺は身体能力が本調子の90%ダウンだからな。当然避けられない。
衝突の原因の大半は向こう側にあるのだが、ここは形だけでも謝っておく。
「すまんな。大丈夫か?」「すみません。予定があるので」スタスタスタ。
ふむ、礼儀知らずな奴だ。不思議と、あまり憤慨はしないが。
ふと、その場に黒い手帳のようなものを発見した。先程の女子生徒(礼儀知らず)が落としていったものだろうか。
ぶつかったよしみだ。帰ってきたら渡してやるか。そう思い手帳を拾い、自分の席で彼女を待った。
結果、彼女は放課後になっても帰って来なかった。
「..........何故だ」
家に帰る途中、何やら言い争っている二人組を見かけた。なにやら、科学的にあり得ない、だのそんなつもりで言ってない、だの、不毛なやりとりが繰り広げられている。
やはり、人間関係など必要ないのだと再認識できる光景だった。挙げ句の果てには怒ってるだの怒ってないだの。実に下らない。
そんなことよりもこの持って帰ってしまった手帳をどうするかが問題だ。
これで後日返せたとしても、中身を見られたとイチャモンをつけられるかもしれない。言い触らされたくなければ金を寄越せと脅され、今後ずっと搾り取られ続けるかもしれない。
あの女子生徒(礼儀知らず)なら、やりかねない。いいや、絶対脅してくるだろう!
どうすれば、どうすればいい!と考えている間に家に着き風呂に入って飯を食って、気付けば日をまたいでいた。
このままでは悩んでいるうちに朝が来る。
「かくなる上は.....ええいっ!」
意を決して机の上で手帳を広げた。
瞬間、目に飛び込んできたのは、気味が悪い程ビッシリとページを埋め尽くす文字だった。
夜中に見ると寝れなくなりそうな、(俺は夜中に見たから明日は多分寝不足)そんなホラーのようなものだった。
しかし、ここまで来たからには引き返せない。
注意深く内容を読んでみる。
「えーっと、六時半起床、洗面→朝食→着替え→時間割→出発。順番が決まってるってことか?」
よくわからないが、日付も付けられてることから、1日ごとに書かれているとわかった。几帳面だなーと能天気に思っていた俺はとてつもないバカだった。
そのまま流し読みし、ページをめくった瞬間、予感めいたものが頭の中を駆け巡り、同時に背筋が凍った。
あり得ない、あり得ない、あり得ない、あり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ない。
ページをめくり、めくり、めくり、めくり、めくり、めくり..............................................................................................................。
冷や汗が、止まらない。
メモ帳に書かれていたのは、秒刻みで記された、彼女の死ぬまでの予定だった