富岡高校七不思議
「もう最っ低!」
昼休みも後半になった2ーBの教室に、桜真菜の声が響いた。先程の出来事について友人に愚痴っているのだが、その友人は、
「あはははっ!だからやめときなって言ったじゃん」
と、腹を抱えて笑っている。
笑い事じゃない、と桜が事の大きさを伝えるが、聞く耳も持たずに笑い転げている友人の態度も、不機嫌を加速させていた。
「それで、いくらもらったの?」
「.....326円」
一度収まった笑いが再び爆発した。
このよく笑う桜真菜の友人の名前は、相葉かおりという。
「全財産が326円てっ!小学生かっつーのっ!!」
どうやらツボにはまったらしく、到底おちつきそうにない。この状態で溝打ちをかました事も話したら笑い死ぬんじゃないだろうか。
ヒーッヒッヒッ、やら、クックックッ、ブハッ、やら、間にゼェゼェと荒い呼吸を挟んで目尻に涙を浮かべて、思い出したようにあっははははっ。なんて笑い方が豊富なのだろう。まるでバリエーションのある笑い袋みたいだ。
笑い袋とは、巾着袋の中にスイッチのついた機械が入っており、そのスイッチを押すとスピーカーからバカみたいな笑い声が流れ出す、アホっぽい玩具のことだ。
これがまた不思議なもので、このなんとも頭の悪そうな代物であるが、どんなに機嫌が悪い時でも、一度スイッチを押すと必ず釣られて笑ってしまうのだ。
笑い方が一通りしかない袋でこの有様なのだ。
ましてやいま桜真菜の目の前でスイッチが入っている袋は、多様な笑い方を駆使し、さらに表情付きなのだ。
こんなに高性能なのだ。
不本意ではあるが、ついつい釣られて、一緒になって笑ってしまった。
一通り笑って、ようやく収まったところで相葉かおりが口を開いた。
「しっかし、富岡高校七不思議の1人を好きになるなんて、あんたも面倒くさいわねー」
「うるさいなぁ。てゆーか、七不思議ってことはあと6人いるんだよね?同じクラスの2人と賭けに異常に強い一個下の女の子しか知らないんだけど」
「えっとね、新入生で物凄いアホの子と、3年間留年してる先輩、それとマッドサイエンティストって呼ばれてるタメの人かな。最後は新聞部の部長とその部員だね」
「うわー、言葉だけで個性的な奴らだってわかるなー。あれ?でもそれで六つじゃん」
「後の一つは誰も知らないって言われてるなぁ。この七不思議が話題になる時、六つ目まではみんな共通なのに、最後は人それぞれなんだ」
「それ自体が不思議だったりして.....」
「あるかもー!」「きゃー!」
女子は大体この手の話で盛り上がる。典型である。
「あれ?ほら見てっ!廊下で七不思議同士がぶつかってる」
「ん?あ本当だ」
かおりが興奮気味に廊下を指差すので、真菜も見てみたら確かに2人が向き合っていた。と思ったら女子生徒の方がさっさとどこかへ行ってしまった。
「ねぇねぇ、なにかあったのかなっ?」
「.....さぁ?」