拝啓クソババア
プロローグ
昔は純粋な心の持ち主だったものだ。
どの程度そうであったかというと、右に有名人が歩いていると言われれば右を向き、左に未来のネコ型ロボットが出てきたぞと言われれば左を向き、上にUFOが飛んでるぞと言われればアホみたいに上を見上げた。
今の自分と比べてどちらの性格が良いかと問われると、答えを出すのは中々に難しい。
騙されることがない反面、神経がすり減るのだ。
人間不信というやつは。
何故俺が人を信じることができなくなったのか。それは、小学校一年生の冬に起き事件が深く関わってくる。
そういえば、あの頃はまだ自分の母親のことをママって呼んでたっけ。
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クリスマスの季節だった。
並木はイルミネーションで飾られ、街にはバイトなのか趣味なのか、サンタコスの人間がチラホラ目に付いた。
当時6歳の少年にとってこの季節は、数ある楽しみな行事の中でもダントツに待ちわびた日である。
そう、サンタが街にやって来るのだ。
「ママ、今年のクリスマスプレゼントはゲーム機が欲しいな。あの最近出たやつ!サンタさんにお願いしといてよ!」
無邪気に笑いながら母親にサンタへの伝言を頼んだが、母親はどういうわけか険しい顔をしていた。
「.........あんたにも話すときが来たようね」
「.........どーしたの、ママ?」
ただならぬ雰囲気を感じた俺は、次の言葉を恐る恐る促した。
「サンタは死んだわ!」
そんな馬鹿な!去年も一昨年もサンタはプレゼントを置いていってくれたではないか。
それなのに、何故急に。
「去年のクリスマスの時よ。プレゼントを配り終えたサンタは家に帰ろうとソリで高速道路を走っていたら追い越しトラックと接触して......即死だったそうよ」
まだ幼かった俺は愕然とした。
もうこの世にサンタはいない。そう思ったら、心にぽっかりと穴が開いたみたいだった。
そうして、俺のクリスマスが終わった。
しかし次の日、近所の友達にサンタに貰ったというプレゼントを自慢された。
これは一体どういうことなのか。母親の話ではサンタは死んだのではなかったか。
事の真偽を確かめるべく、母親に問いただすと、悪びれもせず開き直って言いやがった。
「そもそもサンタなんておらん」
それから、10年がたった。
この事件以来、俺は人が信じられなくなり、この事件以来、俺は母親のことをクソババアと呼ぶようになった。