怒り
そんなやりとりを幕の後ろで聞いた私は、心から安堵した。
(よかった…)
手の甲で額の汗をぬぐっていると、後ろから使用人に声をかけられた。
「突然のことでしたのに、ありがとうございました」
「いえ、そんな…」
「こちらにお荷物をお持ちしました」
私はお礼を言いながら自分のリュックを受け取ると、
中に瓶入りの傷薬が入っていることを確認した。
「それと、ご主人様から、今回身に着けた物はすべて報酬として授与する、と言付かっています」
私は驚いて目を見開いた。
「そんな、こんな高価なものを…」
咄嗟に断ろうとしたが、そんなことをすればかえって失礼だということに思い至る。
使用人は微笑んで頷くと、出口へと案内してくれた。
私は見送ってくれる使用人にぺこぺこしながらテントを出た。
途端に、強い日差しが体を突き刺す。
(ジーク、大丈夫かしら…
椰子の木陰にいてくれるといいんだけど…)
そしてジークの元へと帰ろうとした、その矢先。
私は、少し足を引きずりながら街へ入っていこうとする人影に気付いた。
(あれは…)
「ジーク!」
私の声に気付いたジークはこちらへ振り向き、
走り寄ってくる私の姿を見ると、みるみるうちに顔が険しくなった。
そして近くまで来た私の腕をものすごい力で掴むと、
壊さんばかりの勢いで腕輪を外し始めた。
「ちょっと、ジーク! 落ち着いて!」
しかし彼の怒りはとどまるところをしらず、腕をつかむ力はさらに強くなった。
「いたッ…」
すると、私が苦しいと感じたことを感じ取ったのだろう。
彼はパッと私の腕を掴む手を放し、
申し訳なさそうな、それでいて私を咎めるようなまなざしで見つめてきた。
彼の言いたいことは分かる。
私にこの格好をさせること……私を踊り子にさせることが、彼にとってどんな意味を持つのか、ということも。
彼の怒りが大きいのは、それだけ私を大切に思っていてくれている、ということ。
悪気はなかったとはいえ、彼の心を乱してしまって、本当に申し訳なかった。
私はそっと、心を込めて、背の高い彼の胴を抱きしめた。
「ごめんなさい…
でも、私は大丈夫、大丈夫だから……」
(…あれ?)
目から零れ落ちる涙が、頬を伝った。
思わず手で拭おうとすると、
それよりも先にジークが私を力強く抱きしめてきて、身動きがとれなくなる。
けれどもそれは、さっきと違って、とっても優しい力強さだったから。
涙なんて、止まってしまった。
幸せで、しかたがなかったから………




