傷薬
私は色とりどりの織布や、きらめく装飾品が並ぶ中をぬうようにすすんだ。
行き交う人々のほとんどは銀髪だが、ちらほら他の色も。目の色も様々。
薬を売っている人の居場所を尋ね歩き、ひとつのテントへとたどり着いた。
入口の布は、左右にたくし上げられていた。
中を覗くと、外でもよく見かけた服装の男の後ろ姿と、その奥に腰かけている黒髪の女性が見えた。
男は女性に何かを頼み込んでいる様子で、女性は困り顔をして、それを断ろうとしている。
と、入口から伸びる私の影に気付いた女性と目が合った。
「すみません、傷薬を買いたいのですが…」
切羽詰まった調子で言う私に、女性は「どうぞお入りになって」と微笑んだ。
私がテントに入ると、こちらを振り返った男と目が合う。
頭に巻いた布から覗く耳・首元・手首、そのすべてに金の装飾品。
指にはめた指輪の宝石のきらめきも眩しい。
思わず私が目を見開くと、その三〇歳くらいの男もまた目を見開いた。
「君…」
「はい?」
「もしかして、踊れるかい?」
予想だにしない質問に、私は身を固くした
「ちょっと、ミルバ」
女性が咎めるのを気にせず、男は尚も言う。
「どうなんだい? 踊れるのかい?」
そのあまりの勢いに、私は思わず頷いた。
「そうか! それじゃあ、どうか頼まれてくれないか。
もうすぐ遠方から、はるばる大事な客人がやって来るんだ。
歓迎の宴に踊りがないなんてことになったら、私の面目が丸潰れになってしまう…」
―― 宴で、踊る。
たくさんの断片的な記憶が、一気に脳裏を駆け抜けた。
心がすこし、苦しくなる。
顔をしかめた私が断ると思ったのだろう。
「もちろん、報酬はたっぷり払う。頼むよ。
このあたりで黒髪の女は少ない」
私は報酬という言葉に反応した。
慌てて財布を取り出し中身を全部掌に出すと、それを女性に見せる。
「これで、傷薬は買えますか?」
彼女は私の掌に乗った数枚のコインを見ると、申し訳なさそうな顔をした。
「ほんのすこし、なら……」
やはり。
それならば。ジークのために薬を手に入れるため、ならば。
今一度私は、踊り子に…
私が男に向かって口を開こうとすると、それよりも先に
「これで薬を買えるかい?」
男は自分の指からひとつ、豪華な指輪を外し、女性に向かって差し出した。
「え、ええ… 十分すぎるくらいよ」
男はその答えを聞いて満足そうに頷くと、私に向き直った。
「薬とは別にも、報酬は払うよ。だから…」
私は勢いよく頭を下げた。
「ありがとうございます! 私、お引き受け致します!」




