出会いとはじまり
〈 その日、私はいつものように踊っていた。
サーカス団の公演の、前座として。
鮮やかな彩色の施された、大きな大きなテント。
天井は遥か、遥か上にある。
舞台に立つ私を無遠慮に見つめる、大勢の観衆。
今日は特に、大入りだ。
踊る私のすぐ後ろ、布で覆われた大きな檻に入っている、
今日の目玉の出し物が目当てなのだろう。
舞台裏からは、出演者や動物たちの声が聞こえてくる。
華奢な手足に重ねてつけた金メッキの輪が、動くたび互いにぶつかって音を立てる。
私の、この黒髪がなければ、今も私は、奴隷として酷使されていただろう。
奴隷と踊り子に、大差はないけれど……
物心がついた時、私はもうすでに“売られて”いた。
親の顔は覚えていない。
今から数年前、ここの団長が私を… “買い取った”。
それだけが、確かなこと。
「あ…!」
突然、目がくらんだ。
思い当たる理由は数えきれないほどある。
目眩は、日常茶飯事だった。
問題は、今、私が踊らなければいけない時だということ………
思わず倒れた私に、一斉に観客から罵声が飛ぶ。
舞台袖から出てきた団長が、私を鞭で叩く。
太い鞭が風を切る音がうなる。
叩かれたところが燃えるように熱くなる。
「いいぞ!」「もっとやれ!」
団長を煽る群衆の叫びの渦。
頭を抱えて縮こまり、あふれる涙を、必死にこらえる。
(これは現実じゃない、現実じゃない……)
いつものように、私は痛みを忘れるため、自分に言い聞かせる。
そう、これは全部、夢………
――― 耳をつんざく、怒りに満ちた咆哮。
その場にいた人々が、水を打ったように静まりかえる。
そして皆の視線は、私の後ろの大きな檻へ。
なおも続く咆哮に加え、
何か大きくて重いものが、ものすごい力で檻に向かって中から体当たりする音が響き始め、
我に返った団長が慌てて指示を出す。
「おい、静かにさせろ!」
係の者が袖から飛び出してきて、檻の中のモノをなだめようとする。
そのとき。
布の間から、大きな金色の瞳がきらめくのが、見えた。
次の瞬間。
少しひしゃげてできた、檻の隙間から。
布を被って何かが、私のもとへと駆け寄ってき、て。
人間の大きさのそれが私に触れ、て……
気が付くと私は、大きな竜の背中に、うつ伏せになっていた。
視線を上げると、目の前には立派な鬣と、二本の角。
何が何だかわからず目を白黒させていた私に。
私の、心に。
(つかまれ)
そう、力強い声が呼びかけてくれた。
そんな、気がした。
私が半ば無意識に二本の角を握ると、
“彼”は勢いよく飛び立った。
私が捕われていた巨大なテントを、ぶち壊して。
星のきらめく、漆黒の夜空へ。
“彼”のぬくもりが、
夢みたいなその状況が、夢ではないと、思わせてくれて……
凍えるように冷たい夜風さえ、心地よく、感じられたの、だったーーー 〉




