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びーだま

作者: ひよこ豆

いったい誰が胸のうちを表しめることができるのだろう。この言いようもない寂寥と虚しさを、どうして表せるというのだろう。

人の心は色のようなもので、同じ色など存在しない。呆れるほどの色彩が混ざりあい渦をなして混沌を極める。これを、言葉に、或いは絵に、彫像に、形にして表すのは到底不可能だろう。自分の胸中すらままならぬというのに、ましてや他人の心などわかるはずがない。伝えようも伝わりようもないもの、理解できるはずがないもの。けして無くなることないもの。それでいて、避けることの出来ないひとつのもの。ゆえに、恐ろしい。自分の抱くものが恐ろしい。もたらされる不安もまた色となり、渦の中に融け合って、混沌は止まるところを知らない。いつか、自分も呑み込まれるのかと思うと、恐ろしい。この目に見えないものが、怖い。




そんなことをひとしきり捲し立てると彼女は暫く黙って耳を傾けていたが、顔を俯けたまま動かなくなった。

私はいぶかしんで、具合でも悪いのかと、もしくは私の話が彼女に何らかの悪影響を及ぼしたのかと―何しろ私の話は支離滅裂で、鬱々と落ち込んだことしか語っていない―思い、顔を覗きこんだ。


するとその顔は明らかに滲み出る可笑しさを圧し殺そうとしているもので、結局はお腹を抱えて笑い出してしまった。


彼女は次のように語った。



うわぁ、随分と難しいことを考えて生きてるんだね、キミは。詩人だねぇ、哲学だねぇ!いいよいいよ、若いっていいよね!くだらないことで悩むのも経験だ、大いに楽しむがいいよ!


しかしまあ、僕に言わせてもらうとだね。キミは色は色々ある…あ、狙ってないよ!?違うったら!あー、ごほん。ん、沢山…そう、膨大にあって、同じ色なんて無くて、言葉じゃ表せないなんて言うけどさぁ。僕にしてみれば、群青だって紺色だって水色だってみぃーんな青だね!緑だって青だよ!そういうことじゃないのかな?わさわざ複雑にしなくたっていいじゃんか。大体さ、キミ杜若色と瑠璃色と縹色の違い知ってるのかい?ああ、ねえ勿忘草色ってわかるかな?名前からして素敵だよねぇ。…おっと脱線したね!うんうん、知らないんじゃ意味がない。たとえキミの持つ色にピッタリばっちり120%合致するスペシャルな色があったとしても、それがどんなものかわからないのなら知らないのと同じだね。わかりる?

つまりだよ、僕の言いたいのは、えぇーと、何だ?まいったね、普段説教なんてしないからまとめられないったら…。

まあ、そういうことだよ、うん。誤魔化してる?とんでもない!物事には正解なんてないとキミは思うんだろ?じゃあ僕のお話を聞いたって意味はないよね。それにどうせ納得なんてしないんだろうさ?もうね、自分の目で確かめておいでよ。若い身空で部屋にとじ込もってうじうじ悩んでるなんて勿体ないったら!とりあえず、そうだなぁ。三重県行こうか!赤福食べよう!…なんだい不服かい?良いだろう、どうせ暇に決まってるんだから。美味しいものを食べれば幸せになるってもんだよ。ほらほら、善は急げだ!立った立った!


長々と捲し立てた後、彼女は引き出しをあけ車のキーを取り出した。まさかほんとに行くつもりなのかと慌てる私を尻目に、彼女は意気揚々と立ち上がる。腕を引く思ったより強い力に引きずられ思い腰を上げた。大体、真面目に相談してみればこれだ。全くなにも解決していないではないか。

抗議しようと顔を向き合わせればきらきらと輝く笑みに、憤りも何処かへいってしまう。これだから敵わないのだ。

まあしょうがない、ひとつ言い訳をおとして彼女についていく。訊きたいことがあるとすれば、ここ北海道からどうやって車で三重まで行くつもりなのかということ、何日かけるつもりなのか、ということだ。









案外ねぇ、単純なもんだよ。色々全部。

だからさ、素直に、一人で寂しくなっちゃった!ってお言いよ。

















つまらないことほど、心に引っ掛かって取れないものです。だけど、自分で取れないならとってもらえばいいんじゃないでしょうかとかなんとか。

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