嫉妬が理由ではありません
婚約者の幼馴染からマウントされるお話です。
「もう、ルシアンったら相変わらずね!」
「ホビーに言われたくないけどね。」
「…。」
シェリル・マルディア子爵令嬢は婚約者であるルシアン・ハーバール子爵令息と、ルシアンの幼馴染であるホビー・ザルバ子爵令嬢の仲睦まじい様子を無言で眺めていた。
シェリルとルシアンは政略結婚の為に両家で結ばれた婚約者だ。シェリルはルシアンに対して愛情はないが、他の誰かを慕っている訳ではなかったので仕方がないと割り切っていた。
「…あ、ごめんなさいねマルディア令嬢。私達だけで話をしてしまって。」
話に入ってこないシェリルに気が付いたホビーは申し訳無さそうに謝ってきた。
「いえ、お気になさらず。」
シェリルは心の底からそう思って首を振ったが、ホビーは気不味そうな顔をした。
「私、本当に悪気はないのですがルシアンとは仲が良いのでつい…。」
「大丈夫だよホビー。シェリルはちゃんと分かってくれているから。」
「ほ、本当に怒っていないのですかマルディア令嬢…?」
「…ええ。」
ルシアンの言葉を聞いて、恐る恐るというようにシェリルに確認してくるホビーに、シェリルは頷いた。
「よ、良かったです! でも、そうですよね…私とルシアンは幼馴染として話をしているだけですもの! 許して下さいますよね!」
そう言って嬉しそうに笑うホビーに、ルシアンも当然だと言わんばかりに頷いた。
…このやり取りは何度目になるかも分からない。少なくともシェリルがルシアンの婚約者になった時から始まった事は確かだ。
シェリルとルシアンが2人で居ると、必ずと言っていい程のタイミングでホビーが現れた。そしてシェリルの存在を忘れたかのようにルシアンと楽しそうに会話をするのだ。
そして暫く話をした後、ホビーはシェリルに気不味そうに謝罪をする。その繰り返しだった。
謝罪をするのに結局同じ事を繰り返すホビーに、態とシェリルの前で仲睦まじい2人の姿を見せつけようとしているとしか、シェリルには思えなかった。
「ですが、1つだけ言わせて下さい。」
いい加減うんざりしてきたシェリルはホビーに面と向かって、今まで言わなかった事を話すと決めたのだった。
「ザルバ令嬢、出来るだけ私の前に現れないで頂けませんか?」
率直な、ホビーを拒絶するシェリルの言葉にホビーとルシアンは固まった。
「な、シェリルッ! 何でそんな事を言うんだっ!?」
「マ、マルディア令嬢…っ。」
ルシアンはシェリルを非難し、ホビーは驚きながらも何処か楽しそうな様子をシェリルにだけ見せて瞳を潤ませた。
「や、やっぱり…私がルシアンと仲が良いから嫉妬してしまったのですね…!」
「え…そ、そうなのか、シェリル?」
シェリルはルシアンと仲が良いホビーに嫉妬しているという、予想通りの言葉にシェリルは溜息を吐いた。
「ご、ごめんなさい! でも、私達はこれからもずっと幼馴染なんですっ! だから、マルディア令嬢に嫉妬されても、私はルシアンと仲良くしていたのですっ! ど、どうか嫉妬せずに許して下さいっ!!」
「別に構いませんよ。好きなだけルシアンと仲良くなさって下さい。」
「…え?」
シェリルの返答にホビーは泣き真似をやめて、目を丸くした。
「私は別にルシアンを愛しておりません。家の利益の為に仕方なく結ばれただけですから、理由は嫉妬ではありません。」
「なっ…!?」
シェリルの言葉に、ルシアンは驚きとショックを受けた様子でシェリルを見た。
「っ、そ、そんな強がりを言わないで下さいっ! わ、私がルシアンと仲が良い事が原因なのは分かっておりますから!」
シェリルは嫉妬心からホビーを非難したと思い込みたいのか、ホビーは再び瞳を潤ませて口を挟んできた。
「ルシアンの事は愛しておりませんが、婚約者として不満はありませんよ。私は貴方の未来の妻とし、手を取り合える関係になれるように努力するつもりです。」
だがシェリルはホビーを無視してルシアンを見た。
「…そ、そうかっ!」
シェリルの言葉に、ルシアンは気を取り直した様子でホッとしながら笑みを浮かべた。
「ただ単に、私はザルバ令嬢の事が嫌いなのです。」
シェリルはルシアンとホビーの2人を見ながら話し始めた。
「実は、ルシアンの幼馴染がザルバ令嬢だと知った時、それだけでルシアンとの婚約を無かった事にしたいと思ってしまいました。」
「えっ…。」
「そ、それほどまでにホビーが嫌いなのか?! どうしてホビーの事が嫌いになったんだ?」
あまりにも直球すぎるシェリルの告白に、ルシアンとホビーは困惑する。
シェリルとホビーに交流はなく、シェリルとルシアンが婚約者になる前はお互いの存在を知っている程度の仲だった筈だ。それなのに何故シェリルはホビーを嫌っているのかと、ルシアンとホビーが疑問に思うのは当然だろう。
「単純に、ザルバ令嬢の人柄と立ち振る舞いが嫌いなだけです。ザルバ令嬢は相手に配慮せずに自分の都合ばかり押し付ける事が多くありませんか? 例えば今も、私とルシアンという婚約者同士の会話に割り込んで、幼馴染なんだから仕方がないと言って私の意見は聞かない。そんな感じの事を実際に目の当たりにしたり、人伝に聞いた事が今までもずっとありましたの。私に直接、害はありませんでしたけどね。」
「なっ、何ですって?!」
態とらしく困ったようにシェリルが言うと、ホビーはわなわなと怒りからか身体を小刻みに震わせながらシェリルを睨み付けた。
「ルシアンは気が付かなかったかもしれませんが、私達令嬢の間ではそこそこ有名な話なんですよ。ザルバ令嬢、失礼を承知でお尋ねしますが、ザルバ令嬢には親しいご友人はいらっしゃいますか?」
「〜っ、!?」
シェリルの質問に返答出来ず、表情を歪めるホビーをシェリルはただ無表情で見つめる。ルシアンは2人の様子を何とも言えない顔で眺めた。
「…失礼しました。友人がいなくても恥ずべき事ではございませんよね。でも、これで分かって頂けましたかルシアン?」
「えっ!?」
ルシアンは話を振られるとは思わなかったのか、ビクッと体を反応させた。
「私がザルバ令嬢を嫌っているからと言って、お二人の仲を邪魔するつもりはございません。ですが、私はザルバ令嬢と出来る限り関わりたくはありませんので配慮して頂きたいのです。…仮にも、私は貴方の婚約者なのですから。」
「あ…あぁ、分かった。」
何処か凄みのある笑みをシェリルに向けられたルシアンは、頷かなければ不味い事になると理解して迷う事なく頷いた。
「…なっ、ルシアンッ!?」
ホビーが酷い事を言われたのに、庇おうとしないルシアンにショックを受けた様子のホビーが叫んだ。ルシアンは少し気不味そうにホビーを見るが、シェリルとホビーの仲を取り持つつもりはない様子だ。
「後は幼馴染のお二人でゆっくりとお話し下さい。では、私はこれで失礼しますね。」
シェリルはルシアンの様子に満足し、伝えるべき事は伝えたので礼をすると2人に背を向けてその場を去って行った…。
婚約者の幼馴染としてマウントを取られたから嫌になったのではなく、元々嫌いな人だったという設定のお話でした。シェリルはルシアンに対して良くも悪くも無関心に近い状態です。婚約者として問題のある行動(婚約者を見下す、浮気など)をすればアウトですが、今回は全く問題なくセーフでした。
ホビーは何を言われても「私に嫉妬して〜」とマウントを取る気満々でしたが、あまりにも具体的に悪口を言われてしまい怒りとショックで反論出来ませんでした 笑
読んで下さり有難うございました!!




