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アルナとエドガーは互いに見つめあって固まった。

少女は青ざめ、青年は顔を赤らめて少女に見入っていた。


「エドガー様…?」


ぼそっとアルナが呟くと、はっとしたエドガーはキッとアルナを睨んだ。


「お前…俺を寝かせてよくも逃げてくれたな?」

「やっぱり!呪いをかけられた子息ってエドガー様じゃない!なんでお父さん達先に言ってくれなかったの?」


アルナはハリスとヴァンを交互に見た。

ハリスは困った顔をするとヴァンをチラリと見た。


「ハリス院長はお嬢様には本当に甘いですね。

私が黙っておいて欲しいとお願いしました。

アルナお嬢様に先に伝えると体調不良だと言って逃げる可能性があったので。あと罰も兼ねてます。」


「ヴァン酷い!私そんな信用ない?」

「無視するとはいい度胸だな…。俺に何を隠してるのかいい加減話せ!」

「これにはいろいろ事情があって…。説明するから、とりあえず落ち着いてください!深呼吸を...。」

「俺は落ち着いてる!バカなのか?」


バカと言われ思わずアルナはカチンときてしまった。ゆらっとアルナは立ち上がった。


「バカですって?それなら私も聞きますけど、黙って自分の部屋に拉致って尋問するって騎士のすることなの?私も悪いけど初対面の女性への対応とは思えないわ!結構怖かったのよ!いきなり抱いてくるし、謝罪しても離さないし!」

「なっ…お前言い方!少し黙ってろ!」


ぎゃあぎゃあ言い合う2人を見て双方の親は青ざめた。


「エドガー!抱いたってこんな可憐なお嬢さんになんてことを!」と叱るレニーと

「アルナ、落ち着きなさい!真摯に謝罪すると約束しただろう?レニー先輩、私のお転婆娘が本当に申し訳ない!」と謝罪するハリス。


「…やっぱり話が拗れましたね。」

ヴァンはため息をついて事態を眺めていた。

「ほっほっほ!坊ちゃんとアルナ嬢はもう会ってたんじゃな。仲が良くて良い事じゃな!」

「ハーモン先生?笑っている場合ではないですよ。この場を収めていただけませんか?」

「ヴァン君、わしは治療は得意じゃが、仲裁とかは不向きなんじゃ。ヴァン君の方が適任じゃよ。」

「やっぱり私ですか。仕方ないですね。」


ヴァンはそう言うと温和な態度で双方の親を宥めた。

アルナには無言の圧をかけ黙らせ、そんな2人のやり取りを見たエドガーがドン引いてやっと場は落ち着いたのだっだ。


両家はソファーに座って向かい合った。

「うちのバカ息子がすまなかった。口の悪さを直すように日頃から言ってるのだかこの有様で…。軽率な行動も申し訳ない。」

「いえ、こちらこそ助けてもらったのに娘の態度が悪く、本当にすみません。アルナ?」

「私の浄化スキルをバラすわけにもいかず、ちゃんと謝罪と説明ができずにごめんなさい。」


アルナは冷静になり頭を下げるとエドガーは気まずそうに顔を背けた。


「お…俺も呪いをなんとかしたくて焦って騎士としてあるまじき対応だった。すまない。」

「まあ、先んじて出会ったのは幸いだったのではないか?アルナ嬢なら坊ちゃんの呪いを浄化できるのが分かったのじゃから。」

「さすがハーモン先生が認めるだけあるね。アルナ嬢なら解呪魔法もできるのかい?」

「それは1度やってみないと分かりません。もし娘ができなくても1つ解決策はありますので安心してください。」


ヴァンは場が落ち着いたことを再確認すると、1枚の契約書をハリスに渡して話しだした。


「では私の方で一度話を整理しますね。

ペンドルトン公爵家としては邪龍退治でかけられたエドガー様の呪いを解くことをハーストン大病院に依頼したい。

エドガー様が呪い持ちだと世間にバレないように表向きは火傷の治療の依頼として受けてほしい。これであっていますか?」


レニーはうなづいた。


「そしてハーストン子爵家は今回の依頼を受けても良いが、浄化•解呪の依頼の内容とアルナ様の浄化スキルを外部に一切漏らさないことが絶対条件である。ハリス院長そうですね?」


「ああ。そもそもうちの病院は神殿に目をつけられないように、呪いをとく依頼は秘匿に受けてます。なので、基本的に依頼主と秘密保持の契約を結んでいます。

今回は特に情報が漏れると娘の人生に影響を受けるので、親心としてこの条件は譲れません。」


「もちろん、こちらも秘密保持はお願いしたい。呪いの件はうちの息子の名誉のために明るみにしたくないからね。」

「では契約を進めましょう。」


ハリスはヴァンから受け取った1枚の契約書を取り出した。ハリスとレニーがサインすると、契約書が光りを放った。


「契約は完了です。魔法で縛られているので、両家共に安心でしょう。」

「では早速処置してみましょう。呪いの進行も早いようですし。ご子息が嫌ではなければ呪いを受けた火傷をこの場で見せてもらえますか?」


レニーはエドガーを見ると、エドガーは頷き服を脱ぎ始め上半身裸になり、背中がハリス達に見えるように後ろを向いて座った。

アルナは悲鳴をあげそうになった。

背中全体に火傷が広がり火傷からは毒々しい瘴気が漏れでてる。瘴気は浄化スキル持ちじゃないと見えないので、レニー達はこの毒々しさが理解できないのだろう。

ハリスは眉をひそめ火傷を見つめた。


「これは酷いな…。一度娘ではなく私が浄化してみても良いですか?」


エドガーはうなづくと、ハリスはエドガーに近づき火傷部分に手をあてて浄化魔法をかけ始めた。しかし、ハリスの額に汗が滲み顔を歪ませたかと思うと浄化魔法を中断した。


「すみません。私には無理なようです。アルナお願いできるか?」

「うん。エドガー様失礼しますね。」


アルナは早速火傷の患部に手をあてて浄化魔法をかけ始めた。

瘴気は毒毒しくアルナの手にチリチリと痛みが感じられた。

酷い瘴気だ。これはハーモン先生も父もお手上げだったわけをアルナは納得した。

浄化を扱う資質だけじゃなく魔力の強さもなければ、瘴気に呑まれて即昏倒してもおかしくない。

アルナは浄化に意識を集中させる。

全身の瘴気を取り除けた時には既に15分程経っていた。


「終わりです。」

「さすがアルナ嬢じゃな。これなら呪いをとく解呪魔法をかけることも可能かもしれん。」

「じゃあ早速やってみますね!」

「アルナ、その前に念の為これを飲んでおきなさい。この呪いは厄介だ。心してかかった方が良い。」


ハリスは魔力回復薬をアルナに手渡した。

アルナは大丈夫と言いたかったが、さっきの浄化で魔力をかなり使っていたようだ。

解呪となると浄化以上に魔力を使う。

確かに飲んだ方が良いと判断したアルナはごくりと薬を飲み干し、再度火傷部分に手をあてて解呪魔法を発動した。

解呪魔法は呪いの魔法陣を読み解き解除する。

そのため、術者であるアルナには魔法陣が見えるのだか、アルナは混乱していた。


(なにこの魔法陣?魔法陣が何重にも重なって絡まりあってる!こんな複雑な呪い初めてだわ。これ解除できる?いや、何とかする!)


アルナはまず魔法陣の絡まりをほどこうと魔力を強く込めた時だった。

魔法陣が震えだし、ぐにゃぐにゃ形を変えてていく。

すると同時にドクンとアルナの身体に痛みが走り、口から何かがでた。

足元も見ると赤い血溜まりが見えた。


(私血吐いた?あーこれはやばいかも。早く治癒魔法をかけないと…。)


誰かが抱きとめてくれた気がしたが、確かめる余裕もなくアルナは意識を失った。


しばらくしてアルナは目を覚ました。

アルナは応接間の簡易ベッドに寝かされていた。

意識を失う前の体の痛みはなくなっていることから、誰かが治癒魔法をかけてくれたのだろう。

ベットからがばっと体を起こすとエドガーが傍にいた。

エドガーは驚きつつ意識を取り戻したことに安堵したようだった。


「お前、大丈夫か?もうちょっと寝とけよ。」

「私、解呪魔法失敗した?どれくらい寝てた?」

「そんなに経ってない。お前の父親がすぐ治癒魔法をかけたから大丈夫って言ってたけど、安静にしとけ。」

「くやしー!限界まで魔力込めればいけたかも?エドガー様、背中見せてください!もう1回やってみます!」

「お前バカなの?安静の意味分かってる?」


「アルナ、エドガー様の言う通りだ。お前呪いが暴走した影響で内蔵がやられて吐血したんだ。

私がいたから何とかなったが死んでもおかしくなかったぞ。

アルナで解呪が無理なら神殿もお手上げだろう。あれは人がどうこうできる呪いじゃない。」


ハリスはそう言うとアルナの手をとると体の異常がないか、分析魔法をかけた。

問題はなかったようで、ほっと息を吐いた。


「お嬢ちゃん、無理させてすまんかった。儂が止めるべきじゃった。」

「いえ、私の力不足ですみません…。けどそれならどうやって呪いをとくの?」

「アルナ、お母さんの薬レシピ本を思い出しなさい。最上級の解呪薬『妖精の救済』。」


「お前その薬を持ってるのか!」

「師匠。持ってたら大事な娘にこんな無茶させてませんよ。ストックはないのでこれから作るんです。」

「じゃがその薬にはフェアリーフラワーが必要じゃろ?あの花は希少で簡単には手に入らんぞ。薬の作り方も周知されておらんし、儂も知りたいぐらいで…。」


「その花の球根をうちの病院で保管してます。これから栽培して薬を作ることは可能です。ただ花の開花条件が特殊なので最低半年は栽培にかかるのがデメリットですが...。

作り方は私の妻が遺してくれたので問題ないです。」


「ハーモン先生?すまないのだが、私達は薬に疎く簡単に説明をお願いしたいのだが…。」

「ああ、すまん。レニー様、エドガー坊ちゃん、置いてけぼりですまんかったの。

『妖精の救済』という解呪薬はどんな呪いもとけるという薬じゃ。材料の希少さやレシピが知られていないことから、市場には出回らず幻の薬と言われてる。」


「その幻の薬が完成するまでは瘴気をアルナに浄化してもらい、薬が完成次第呪いをとく。これが私の病院でできる唯一の方法です。もし半年も待てないというのであれば神殿に相談してください。」


レニーとハーモンは顔を見あわせ、どうするかを話し合おうとしたときだった。


「父上、俺は半年ぐらい待てるぜ。ほら。」


エドガーは手のひらで火を鳥の形に変化させぐるぐると旋回させる。


「この通り魔法も使えるようになったし、体のだるさもない。これなら学園の授業も問題なく参加できるし、魔法騎士団にも復帰出来ると思う。あいつ…じゃなくてアルナ嬢の浄化の腕は確かだ。」


ハーモンはその様子見て、長い髭をいじりつつ、にこりと笑った。


「レニー様。このままハーストン大病院に依頼してみてはどうじゃろう?

アルナ嬢の先程の様子をみると大聖女でも対応できるか怪しい。幻の薬を神殿が保有していると儂も聞いた事がないしな..。」


レニーは腕を組み、目をつぶり少し悩んだ。

心が決まったのか、「よし!」と叫ぶと目を開けた。


「騎士団の英雄なら信用できるし、お願いしようか。ハリス子爵、息子を頼んだ!」

「今は英雄ではないですが魔法医として仕事はやり遂げます。ご依頼は受けました。」


レニーとハリスは互いに手を取り握手をした。


「アルナ嬢。このバカ息子が既に迷惑掛けてしまったわけだが、君さえ良ければこのまま息子のことをお願いしたい。嫌なら断ってもらって構わないよ。」


「全然大丈夫です。危険を感じたらまた眠らせるので!」

「お前、俺に遠慮はないわけ?患者様なんだが?」

「エドガー様。患者様はいきなり抱きついて来ないんですよ。」

「お前まだ根に持ってるな?お前が逃げようとしなければもうしねえよ!」

「そこは安心してください。私が責任をもってエドガー様の呪いを解きます!それまでは逃げずに魔法医として傍にいますから。よろしくお願いしますね!エドガー様!」


そう言うとアルナはにっこり笑ってエドガーに手を差し出した。

エドガーはアルナの笑顔を見ると真顔で固まった。


「あの、エドガー様?」


はっとしたエドガーはアルナの手を握りかえし、握手した。


「…ああ。よろしく頼む。」


エドガーの耳は赤くなっており、その様子をみたレニーはニヤッと笑った。


「なるほど。アルナ嬢にはいろいろ期待できそうだ。息子のことよろしくね。」

「はい!ん?いろいろ?」

「アルナ、お前は呪いを解くことだけに集中すれば良いからね。」

「ハリス子爵、子離れも大事だよ。こういうのは親が温かく見守ってあげるべきだよ。」

「…レニー先輩は黙っててください。」

「もー『不滅の騎士』様はお堅いねえ。」

「は?まさか『不滅の騎士』ってお前の父親?。」

「昔そう呼ばれていたらしいです。お父さんにいくら聞いても詳細は教えてくれないんですけど…。」

「アルナ嬢、じゃあ私が話してあげようか?『不滅の騎士』って言うのは…。」

「レニー先輩。それ以上話すなら先輩の黒歴史を話しますよ。」

「昔から本当に容赦ないなあ。ハリスは。」

「先輩は口が軽いですからこれぐらい言っておかないと。」


2人の大人のやり取りを見つめるアルナはふとエドガーを見た。すると目を見開いたかと思うとエドガーに近づいてしゃがみ込んだ。


「エドガー様、少し失礼しますね…。やっぱり!制服のズボンが血でべったり!まさか解呪魔法の反動でエドガー様も怪我したの?」

「お前、膝触んな!これはなんでもねえよ。」


顔を赤くしたエドガーはアルナの手をはらおうとするが、アルナは離れない。


「なんでもないわけないですよ。よく見たらこれすごい出血量…。うわ!ここにも血が!」

「そんなベタベタ触んなって…あーもう!俺じゃねえ!お前の血だよ!さっき抱きとめたときについたんだよ!」

「え?そういえば意識失う前に誰かに支えてもらった気が…。あれエドガー様だったの?」

「いい加減離せ!それともまた抱きつかれたいわけ?」

「それは結構です!支えてくださってありがとうございます!お詫びに服の洗浄魔法かけときますね。」


洗浄魔法をかけ終わると、ぱっとアルナはエドガーから距離をとった。


「ほんとにお前は…。まじ調子狂う。」


顔を赤らめたエドガーはぼそっと呟いた。


こうしてアルナはエドガーの呪いをとくことに専念することになったのだった。

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