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アルナはエドガーの部屋を出て問題に気がついた。

男子寮の棟に転移魔法連れてこられたため、アルナが今いる場所は未知のエリアだ。

なので帰り道が全く分からない。

だだっ広い寮内を歩き回って出口を探すのは大変だし、男子寮に女生徒がいるのを見られたら、良からぬ疑惑をかけられるかもしれない。


アルナは自分の部屋まで転移魔法を使うことも考えた。

しかし、基本的に転移魔法は移動距離の長さに比例して魔力が消費される。

移動距離が分からない状態で転移魔法を使えば魔力がどれだけ消費されるか未知である。大量の魔力消費によって魔力欠乏症で意識を失うリスクもあるので、転移魔法を使うのは賢明ではない。

困ったアルナはキョロキョロ辺りを見渡し、ヴァンに魔法通信機で助けを呼ぼうとしたときだった。


「君何か困ってる?」


アルナはビクッとして声が聞こえた後ろを振り返った。

そこには白銀色の短髪の美しい青年が優しい眼差しでこちらを見つめていた。

目撃されたことに動揺しつつ青年の優しそうな雰囲気にアルナは少し安心した。


「困ってまして…。あの、この寮から脱出したいんですけど…。」

「脱出?迷子ってこと?制服着てるし使用人ではないよね?ちなみにここ男子学生専用の棟だから女子生徒は入れないはずだよ。」

「これには少し事情がありまして…。」

「俺には言えないこと?悪いことでもしたの?」

「…どうか何も聞かず見逃してもらえないですか?」


青年はアルナの慌てた様子を見て笑いだした。


「じゃあここで出会ったことは俺達の秘密ってことにしようか。君には嫌われたくないしね。」

「いいんですか?」

「いいよ。その代わり俺のことはルイスって呼んでくれる?あと敬語は禁止。」

「ルイス?名前呼び捨てでいいんですか?」

「うん。あと敬語はどうするんだっけ?」

「あ…使わない?」

「正解。君には是非そうして欲しい。俺で良かったら脱出するの手伝うよ。ここに女の子一人いるのは危ないしね。」


そういうと青年はアルナの前に手を差し出した。アルナは少し迷ったが、その手を取った。


「じゃあよろしくね。」

「君ラッキーだね。1人だと脱出できなかったと思うよ。この棟の住人の学生証がないとフロアの扉が開かず移動できないんだ。」


エドガーが本気で逃亡防止のために自分の学園寮にアルナを連れてきたことに気がついたアルナは背筋がぞっとした。

青年はフロアの扉を開けるとアルナの手を引いて階段で階下におりていく。


「私1人じゃあフロアもでれなかったわ。ルイス、本当にありがとう!」

「いえいえ。ところで俺に見覚えない?」

「え?私達どこかで会ったことある?」

「やっぱり覚えてないか。まあ、今はそれでいいや。いつか思い出してくれたらいいから。」


アルナが混乱していると、2人は階段を下りきり扉を開けた。そこは寮のエントランスだった。


「あの扉がこの寮の出入り口だよ。あそこから出ればいいよ。」


アルナは無事脱出できることに安堵し、笑顔が溢れた。


「ルイスありがとう!これで私無事帰れる!」

「気にしないで。また俺達会うことになると思うけど、その時には思い出してくれていたら嬉しいな。アルナ。」


青年はアルナの片手を取ると手の甲に軽く口づけを落とすとにこりと笑って去っていった。

アルナは口付けに一瞬固まったものの、気を持ち直し寮をでてヴァンのいる保健室に向かおうとして、ふと足を止めた。


「私名乗ってないのに、あの人名前知ってたよね?」


謎が増えたことに頭をかかえるアルナだった。




**********




寮から脱出し保健室にたどり着いたアルナはガラッと扉を開けた。


「ヴァン…先生居ますか?」

「アルナお嬢様、保健室に駆け込んでくるなんてもうホームシックですか?」

「さすがに早すぎない?そうじゃなくて1つ相談があって…。」


ヴァンは書類に何か書き込む手をピタッと止め、アルナの方に顔を向けた。


「…まさかもう何かしでかしたんですか?」

「事故というか…。怒らないで聞いてくれる?」


ヴァンは額のしわを手で押さえアルナに向き直った。


「とりあえず聞きます。何があったか要点をまとめて話してください。」


アルナは図書館での出来事、エドガーとの再会など全てヴァンに話した。


「……。」

「ヴァン、待って!黙って魔法通信機でお父さんに連絡しようとしないで!」

「入学早々、浄化スキルを人前で使ったお嬢様が悪いです。よりにもよって公爵家の子息が相手なんて、私には手に負えないですよ。ビンタに眠らせて逃亡?不敬罪って言われる可能性だって…。」

「私だってやらかしたことは分かってるよ!けどね。お父さんに頼らずとも賢いヴァンなら良い解決策がきっと思いつくかもじゃない?」

「相手に身バレしてるんでしょ?そうなるとお嬢様1人の問題じゃなくハーストン家にも関わってきてるんです。いっそこの通信機でお嬢様自身がハリス様に報告してください!」

「ひぃ!ヴァンの鬼!通信機を私に押し付けないで!まだ覚悟が!」


その時だった。

通信機から着信音が鳴り響いた。

ヴァンは黙って自身の方に通信機を戻して通話の発信元を確認して驚いた顔をした。

ヴァンはチラリとアルナを見て少し思案して何かを決心したようだった。


「お嬢様、今日は私鬼になりますね。はい、どうぞ。」


ヴァンは鳴り続ける通信機をアルナに手渡した。

アルナは恐る恐る通信機の画面を確認すると発信元は『ハリス院長』となっていた。

アルナはまたまた「ひぃ!!」と大きな悲鳴をあげるのだった。

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