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教室を出るとエドガーはひとけのない方向に歩いていく。

手はエドガーに強く握られアルナは引っ張られたままだ。


(こっちは保健室のある方向じゃないよね?どこに向かってるわけ?)


アルナが不安そうに周りをキョロキョロしているとエドガーは誰もいない階段下にでたところで「そろそろいいか」と呟くと空いた手でアルナを自分の方に抱き寄せた。


「ちょっと何するんですか!というか、保健室に行く気あります?方向間違ってますよ!」


アルナは腕に力を込めてエドガーの腕の中から逃げようとするがびくともしない。


「体調が悪い割には元気に見えるが?お前、俺から逃げる気満々だっただろ?」

「…気のせいでは?」

「お前嘘つくの下手過ぎない?それにしても試してみて正解だ。お前抱いてるとやっぱり体の調子が良くなるみたいだ。これなら魔法使える。少しじっとしてろ。」

「え?嫌な予感が…何する気ですか!?」

「俺の命に関わることだから余裕がなくてね。少し付き合ってもらうぞ。」


そう言うとエドガーは転移魔法を発動した。


「あの…ここはどこ?保健室は…?」

「ここは俺の寮の部屋。」


到着した場所はシェリーの部屋と同様、豪華な寮の部屋でさすが公爵家のお坊ちゃんだなとアルナは感心しつつ、あれ?これ拉致られてるよね?とアルナは焦りを感じ始めた。


「助言ですが、転移魔法は魔力を多く消費するから、使うのは緊急時とかだけにした方が良いかと…。」

「誰かさんにまた逃げられるのは面倒だからな。嘘じゃなく本当に体調が悪いなら、話が終わった後に連れて行ってやるから安心しろ。」


エドガーの抱き寄せる力が強くなり、アルナは身をちぢこまらせた。

もうどうにでもなれ!アルナは覚悟を決めた。


「図書館では助けていただきありがとうございます!そしてビンタすみませんでした!」

「それはもういい。お前ビンタした時、俺に何かしただろ。それを教えろ。」


(やっぱり浄化魔法かけたのバレてる?いや、確証はないはず…。自由気ままな生活を守るために浄化スキル持ちは意地でも隠し通す!)


「何もしてないですよ!あの、謝ったからとりあえず離してください!」

「だめだ。正直に話さないならこのままだ。お前逃げ足早いからな。俺としては体の調子も良くなるからこのままが都合いいのもあるが…。」

「人を抱き枕扱いして…。そうだ!あの、私がビンタした頬を見せてくれませんか?

ほら、このソファーに座ってください。」

「…また逃げるつもりか?」 

「逃げませんから!その頰、エドガー様もなんとかしたいでしょ?」


訝しげな顔をしたエドガーだか、アルナを離して黙ってソファーに座り、頬をアルナのいる方に向けた。

アルナはエドガーの前にしゃがみこむと頬についた絆創膏を剥がし頬に手を当てた。


「お前何するつもり…。」

「少しじっとしてくださいね。すぐ終わりますから。」


じっとアルナがエドガーを見つめるとエドガーは顔を赤らめ目をそらした。

アルナはそのまま頬に手を当てたまま治癒魔法を施した。

ビンタの跡は綺麗になくなり、エドガーは頬を何度かさすると驚いた表情をした。


「私治癒魔法使えるんですよ!これで許してもらえると嬉しいんですけど…?」

「何を隠してる?」

「え?」

「治癒魔法が使えるのは驚いたが、それだけじゃないだろ?」


エドガーはにっこり笑ってそう言うとしゃがみ込んだアルナの両脇を持って抱き上げたかと思うと、ソファーに座る自分の膝上に抱き抱えた。

所謂横抱きだ。


「なんでまたこうなるの!」


アルナは手足をバタバタさせて抵抗する。


「正直に話せば離すって言ってるだろ?それかもう一回ビンタするか?それはそれであの時お前が何をしたか検証できそうだな。」


楽しそうにニヤニヤ笑うエドガーは抵抗するアルナを抱く力に力をこめた。


「え、またビンタってもしかしてそういうのが好みなんですか?私そんな趣味はないんですけど…。」

「な…俺もそんな趣味ないわ!けどお前に触れると体の痛みやだるさが和らぐんだよ。これお前が隠してることと関係あるんだろ?」


ハリスによればアルナの魔力は飛び抜けて高く、体内に魔力がたまりすぎると体に不調をきたす魔力過多症にならないように、アルナは無意識に浄化魔法を発動している節があるらしい。

そして浄化魔法は浄化対象に触れることで発動する。

そのためアルナを抱っこすれば触れていることになり、抱っこしているエドガーは浄化魔法の対象となっているのだろう。

アルナは頭上の勘の良い青年に真実を話してしまおうかと悩み、エドガーを見つめているとあることに気がついて手足の動きを止めた。


「やっと話す気になったのか?」

「あの、エドガー様に私も質問があるんですが。」

「話をそらすな。」

「最近ちゃんと寝てます?目の下のクマが酷いですよ。徹夜とかしました?」

「俺のことはいいから!いい加減に…。」

「魔法医見習いとしては、不健康な人は見逃せない性分なんですよ。少し失礼しますね。」


アルナはエドガーの目の前に手をかざすと眠気を誘う睡眠魔法をエドガーにかけた。

エドガーはアルナを止めるためにアルナの手を握ったが間に合わず「またお前逃げるのかよ…。」と呟いたかと思うと瞼を閉じて上半身をソファーにもたれさせ寝てしまった。

アルナはエドガーの拘束から逃れ、ソファーから降りた。

それからエドガーをおんぶでベットに運ぼうとしたものの体格差があり無理だと分かったため、浮遊魔法でエドガーをベットまで浮かせて運んで布団をかけて寝かせた。

少し睡眠魔法をかけるだけで寝るとは余程寝れていなかったのだろう。

呪いのせいで熟睡も難しかったのがアルナには理解できた。

念の為、エドガーの額に手をあてて浄化魔法をかけて、安眠できるようにしておいた。 

軽く睡眠魔法をかけただけだし、長くても明日の朝には目覚めるだろう。


アルナはため息をついてエドガーを見つめた。

今までのエドガーの態度から、これ以上浄化スキル持ちを誤魔化すのが難しいことをアルナは痛感した。

アルナが浄化スキルももっていることをエドガーが秘密にさえしてくれれば、正直に話していいのだ。

問題はエドガーが無償で秘密にしてくれるかだ。

何か対価を求められたら?

この対価がハーストン家全体を巻き込むものだったら?

それはやばい!と必死に思考を巡らすが、いい案を思いつかずアルナにはお手上げ状態である。

「うん、ヴァンに正直に話して怒られて…解決策を一緒に考えてもらおう…。」

アルナはそう呟くとのろのろとエドガーの部屋をでた。

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