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次の日の朝、アルナとシェリーは談話室で待ち合わせてホールに向かい入学式に参加した。
同学年の生徒の数に驚き、これだけいればあの青年にも見つからないだろうと安堵しているアルナはチラチラと周りからの視線が気になった。
こちらを見てひそひそ話をしている者もいる。
「第2王子の婚約者になったシェリーが注目されてる?」
「それもあるけど、アルナは目立つ容姿をしてるからね。見目麗しい一族の箱入り娘を眺めたいんじゃない?」
「こういう視線が苦手だから社交界に顔だしたくないんだよね。特に今は諸事情で目立ちたくないというか…。」
「諸事情?よく分からないけど、アルナも令嬢である以上こういうの慣れないと。ほら!今日は私が傍にいるから安心しなさい!」
そういうとシェリーはアルナの手をぎゅっと握った。シェリーの優しさに喜びつつも目立てばあの青年に見つかるのでは?と内心ドキドキだった。
アルナはどうか見つかりませんように!と祈った。
入学式を終えると、クラス分け発表を確認しに掲示板前にアルナ達はきた。
張り出されたクラス分けの紙をアルナとシェリーは見つめた。
「シェリー!私と同じAクラスだよ!」
「嬉しい!しかも婚約者のロナウド様も一緒だわ。それにしても噂通り今年度の1年生は豪華なメンツね。」
「ロナウド殿下以外にも有名人がいるの?」
シェリーは呆れた目でアルナを見た。
「アルナ、一応令嬢なのだから主要な貴族は知っとくべきよ。さすがに王族を守護する4大公爵家は分かるわね?そのご子息達が同級生になるらしいわ。」
「公爵家のご子息!?下位貴族の子爵家の私とは比べものにならないね。不敬罪にならないように接しないと…。」
「この学校の規則として『身分差別を禁ずる。』ってあるぐらいだし、そんな怯えなくてもいいんじゃない?この学校は魔力持ちで且つ試験さえ合格すれば誰でも入学可能だから平民も多く通ってるしね。」
「未来の妃殿下に言われるとなんか説得力があるね。」
「だってこのご時世、身分にこだわるのは古いわよ。近年の王族は平民と結婚した事例もあるのよ。」
「そうなんだろうけど。けどやっぱり身構えちゃうな。」
「もお、入学早々そんなこと気にしないの!
それで話を戻すけど、その公爵の子息達が美男子揃いなんだって。ロナウド様一筋の私だけど少し見てみたいのよね。」
「うーん。私はあまり興味ないかも。」
「アルナは本当に興味ないのね。まあアルナの周りは既に美男だらけだものね。お父様にお兄様、あと世話役のヴァン様とか。」
「美男?みんな普通だよ?」
「あれは普通じゃない!恵まれすぎであなた顔面偏差値の基準がおかしくなってるわよ。アルナは魔法だけじゃなく異性にも興味をもつべきよ!」
おしゃべりをしながら、教室に向かうと教室の周りには小さな人だかりができていた。
その教室の表札には『Aクラス』と書いてある。
「あそこにいるのがロナウド殿下とエドガー様ですわ。」「私も見たーい!ちょっとどいて!」
「2人とも美男子で眼福だわ。」
「けどエドガー様顔を怪我してるわね。先日の邪龍討伐の怪我かしら?」
そこかしらから女子生徒の声が聞こえてくる。
どうやら教室の中にいる人物見たさに人が集まっているようだ。
「見物人がすごいねえ。さっき聞いたことのある名前が聞こえた気がするけど。」
「…嫌な予感がするわ。アルナ、行くわよ!」
渋い顔をするアルナ達は人をかき分けて、教室の入り口に辿り着くと教室の奥に青年2人の姿が見えた。
2人の周りには女子生徒が数人いて何かを話している。
アルナはその1人の黒髪の青年を見た途端固まった。
自分が今1番会いたくない、ビンタをかました青年がいたからだ。
昨日祓ったはずの瘴気は青年の背後から少し漏れででいるのか見えた。
青年の右の頬には大きな絆創膏が貼ってあるため、アルナは罪悪感を感じざるえなかった。
まさか青年がクラスメイトだとは思っていなかったアルナは落ち着くために一度教室から出ようとシェリーを見た。
「シェリー、私ちょっと緊急事態で退却…。」
「アルナ、あそこに突撃するわよ。」
シェリーはもう1人の金髪の青年ロナウドを見つめて震えていた。
シェリーがわかりやすく嫉妬していることにアルナは気がついた。
「待って!私あの集団の中に突っ込みたくない!」
「だめよ!ロナウド様はアルナにも会うの楽しみにしていたのだから一緒に挨拶しないと!
あと、私のロナウド様にたかるあの子達に婚約者の私の存在を見せつけて牽制しとかないと。」
「絶対後者の方が目的でしょ!シェリーだけで突撃を…。」
「1人で行く度胸はないわ!ついてきて!」
「本音が出てるよ!あのね、私会いたくない人があそこにいて…。」
涙目になりかけているアルナの腕をシェリーが掴み離さない。
2人がもめていると、先ほどの集団が静かになり、2人の背後に誰かの気配がした。
シェリーとアルナが後ろを振り向くと噂の2人が立っていた。
金髪ショートヘアで金色の垂れ目の青年はにこにこ笑ってシェリー達を見ており、一方の黒い短髪で切れ長の赤眼の青年は澄ました顔でアルナの方をじっと見つめていた。
「シェリー、おはよう。同じクラスになれるなんて嬉しいよ。」
「私もですわ、ロナウド様。婚約者同士なのに最近会えなかったんですもの。」
「僕も寂しかったよ、シェーリー。これからは毎日デートできるね。」
「やだ。殿下ったら。」
周囲からはきゃーと黄色い声があがる。
この2人の甘い空気に慣れっこなアルナはそれよりも目の前にある黒髪の青年のじとっとした目線に震えていた。
「アルナ嬢、久しぶりだね。」
「ロナウド殿下、ご挨拶が遅れてすみません。」
「いや、僕たちがいろんな令嬢とお話ししてたからね。そうだ、隣の彼を紹介するね。彼はエドガー。ペンドルトン公爵家の長男だよ。」
「あなたが先日の邪龍退治で活躍したエドガー様?新聞読みましたわ!あ、私はロナウド殿下の婚約者のシェリー•ブライスですわ。」
「シェリー嬢、ロナウド殿下からお話はいろいろ伺っていました。お話以上にお美しい方ですね。」
「まあ、エドガー様ったら!嬉しいですわ。そうだわ。アルナも名乗らないと!」
(普通に挨拶するだけ!落ち着け、アルナ!この人私のことすごく見てくるけど、もしかして私の顔なんて覚えてないかもだし!いや、そうであってください!)
アルナは震えを抑えつつなんとか笑顔をつくる。
「…アルナ・ハーストンです。ハーストン子爵家の長女です。魔法騎士団での素晴らしい活躍、私の領地でも聞き及んでいます。」
「それは光栄だ。ところでアルナ嬢は本がお好きで?昨日図書館で見かけた気がするのですが…。」
エドガーは笑ってアルナを見つめた。
周りの女子生徒から「エドガー様の笑顔!レアだわ!」とキャーキャー聞こえる。
笑顔を向けられたアルナは固まっていた。
(笑顔じゃないよ!目の奥が笑ってないもの!これは新手の尋問かな?)
アルナは身震いした。
(公爵家の子息をビンタって私やらかしてない?今ビンタのこと謝っちゃう?いや、そうなると浄化スキルを話すことになる可能性もあるよね?こんな大勢の前で?無理無理!どうしよう!)
アルナが混乱していると、背後の教室の扉から1人の男性が現れた。
「はーい!みんな教室に戻ってー!オリエンテーション始めるから!」
どうやら先生のようだ。生徒はみんな移動を始めた。
「話はここまでにしようか。また後で話そう。シェリー、アルナ嬢。」
ロナウドはそういうと個々で指定されてた座席に戻っていく。
シェリーも慌てて自分の座席を探していた。
助かった!アルナはほっと胸を撫で下ろした。
するとエドガーはアルナに近寄り距離を縮めた。
「アルナ嬢、お話の続き必ずしましょうね。
今度は逃げないでくださいね。」
エドガーはそのまま座席に向かっていく。
アルナも自分の座席に座り、先生の話を聞きつつ悩んでいた。アルナは浄化スキルはバラさずエドガーに謝罪する案を考えていたが、名案が浮かばない。
幸いにも今日は授業はオリエンテーションだけで、本格的な授業は明後日からだ。
オリエンテーションが終わった後、エドガーとの話を引き延ばせば、良い案を考える時間ができる。
知恵が回るヴァンにも相談したいし、オリエンテーションが終わったら、エドガーを撒いてすぐ保健室に行こう。
アルナがそう決心するとチャイムが鳴ってオリエンテーションが終わった。
アルナはシェリーのところに駆け寄った。
「シェリー、この後なんだけど私ちょっと体調が悪くて…。」
「アルナが体調悪いなんて珍しいわね。大丈夫?」
「念の為保健室に行ってくるね。ロナウド殿下達にはよろしく言っておいてくれる?」
そう言ってアルナは教室から出ようとした時、アルナの肩に誰かが手を置いた。
「それなら俺が連れて行く。」
この甘い低音の声は聞き覚えがある。
恐る恐るアルナは後ろを振り向くとエドガーがアルナの肩を掴んでいた。
「エドガー様がアルナを?」
「あの!1人で行けま…」
「シェリー様はエドガー殿下とお話でもされて下さい。婚約者同士積もる話もあるでしょうから。じゃあアルナ嬢行こうか。」
有無を言わせない笑顔をアルナに向けたエドガーはアルナの耳元に顔を近づけると「ビンタのお礼もしないといけないしな。」と呟きアルナの手を引いた。
自身の秘密をどう隠すか、いい案が見つかっていないアルナは救いを求めてシェリーの方を見たが、シェリーは遅れて来たロナウドと見つめあっていて、こちらの視線に気付いていない。
エドガーが手を引っ張る力は強くてアルナの抵抗虚しくエドガーに引っ張られるままだった。




