1
オルリア王国の南にあるキドニアという都市がある。
キドニアは魔法医学の発展がめざましく、どんな難病や大怪我もキドニアに行けば治ると大評判である。
そのキドニアで最高峰の魔法医学の治療を受けられると言われるハーストン大病院の院長でもあり、キドニアを治める子爵ハリス・ハーストンは愛娘アルナの魔法学園の入学姿を眺めていた。
ウェーブのかかったライトブラウンの長髪をなびかせ、魔法学園の制服を着た綺麗な少女はハリスの目の前でくるりとまわる。
そして宝石のような青い瞳でハリスを見るとにっこり笑った。
「お父さん、私の制服姿どう?似合ってる?」
「アルナ、とても似合ってるよ。
私の母校にアルナも通うことになるなんて嬉しいことだね。」
王都にある名門魔法学校ランドル学園に無事合格し、明日の入学式に備え、15歳のアルナは学園寮にこれから向かうところだ。
「アルナ、いいかい?魔王医になりたいのなら、卒業まではお前の浄化スキルは隠すことは忘れないようにね。面倒ごとは嫌だろ?」
「分かってる!今の生活を守るためだもの。任せてよ!」
アルナの頭を撫でながら注意するハリスにニコッとアルナは笑った。
アルナは父のような魔法遣いのお医者、通称「魔法医」になることを目指している。
魔法医になるには魔法医学を魔法学校で習得することが必須であった。
そもそも魔法使いに必要な魔力を持っている者はここオルリア王国では一握りであり、魔力を持っていれば貴重な人材として魔法学校に通うことが許可される。
ランドル魔法学園はいくつかある魔法学校の中でも優秀な魔法使いを多く輩出した歴史ある名門学校で、入学試験の難易度が高いのだか、父ハリスのスパルタ教育のおかげかアルナは無事合格できた。
ハリスは診察室にある転移ゲートのパネルをいじる。
「行き先はランドル学園の保健室に設定したぞ。」
「まさかランドル学園の連携病院がうちの病院であるのがここで役立つとはね。なんだか職権乱用みたいな気もするけど…。」
ランドル学園とハリスが院長を務めるハーストン大病院は連携しており、緊急時にすぐ治療できるように保健室と病院は転移ゲートがつながっていて、いつでも自由に行き来が可能なのだ。
ランドル学園とハーストン大病院は馬車の移動で最低2日はかかるため、早急な治療が必要な生徒がでた時はこのゲートが大活躍だった。
「学園側に許可は取ってるし、お前がゲートを利用しても問題はないよ。学園が休みの時はこちらに顔をだしてくれると私は嬉しいな。」
ハリスはそう言うとアルナの頭をなでた。
「じゃあいってきます!」
アルナは荷物を手に取りゲートに入っていく。ゲートを抜けると、広々とした保健室が見えた。
「アルナお嬢様、無事来られましたね。」
「ヴァン、元気?保健医、様になってるね。」
ヴァンと呼ばれたアッシュグレー色の長髪の端麗な男は白衣を着て椅子に腰掛け、手に持った書類を机に置くとアルナに目を向けた。
「元気ですよ。アルナお嬢様が学園の学徒になれたのは驚きましたが。」
「大好きな魔法が学べるなんて天国じゃない!親友のシェリーと学園生活が過ごせるの楽しみだしね!」
「まあ、心配はお転婆なお嬢様が問題を起こさないかですね。お上品な貴族様も通う学校ですから、ご実家のように自由気ままなことは控えてくださいよ。魔法の探究はほどほどに!」
「わ、分かってるよ。」
「あと院長から聞きましたけど、魔法スキルの扱いにも気をつけてくださいよ。」
魔法スキルをもつ魔法使いは珍しく、スキル持ちは引くて数多である一方、悪用されるケースもある。
アニスは『治癒』と『浄化』の2つのスキルを持っている。
『治癒』スキルは怪我や病気を治すスキルで魔法医には必要なスキルだ。
そして、スキルの中でもレアな瘴気や呪いをはらう『浄化』スキルは神殿に所属する聖女や聖騎士には必須スキルであり、人手不足で悩む神殿は血眼になり浄化スキル保持者を探していると噂だ。
浄化スキル保持者が行方不明になる事件も発生しているらしい。
これらのスキルを持つアニスはスキル持ちは簡単に明かしてはいけないことはよく分かっていた。
「治癒スキル持ちは公にしていいけど、学園を卒業するまでは浄化スキル持ちは秘密だよね。」
「本当にそこしっかりしてくださいよ。
治癒スキル持ちだけでも注目を集めるのに、浄化スキルなんてレアスキルも持ってるのバレたら神殿から目をつけられて面倒くさいことになるんですよ。
無事学園卒業できれば、魔法医として認められて神殿も手が出せなくなるとは思いますけどね。」
「神殿での監禁生活なんてこっちから願い下げだもん。というかヴァンなんでそんな私に厳しいのよ。」
「アルナお姫様は悪い意味で期待を裏切らないですよ。何年世話係やってると思うんですか!
後処理はいつも僕なんですよ。」
「それはごめん!」
ヴァンはため息をつくとアルナの荷物を持った。
「まあ、小言はこれぐらいにして、ご入学おめでとうございます。とりあえず学園寮まで案内しますね。」
仕方ないと微笑み学園寮まで歩くヴァンにアルナはいそいそと着いて行く。
レンガ造りの校舎は広くヴァンが案内を申し出てくれてアルナは感謝でいっぱいだった。
「そういえば友人のシェリー様はもう寮に到着されているのですか?」
「ううん、魔法通信機で聞いたらもう少しかかるから待ってて欲しいって。」
「それなら時間潰しに学園内をまわってみてはいかがですか?保健医の業務があるので僕も一緒にまわるのは難しいですが。」
「それいいね。ヴァンのおすすめスポットはある?」
「そうですね…ここの図書館はなかなか面白いです。魔法薬に関わる書物が結構多いんですよ。」
「じゃあ図書館目指して探索してみるよ。」
学園寮前に着くとヴァンは荷物をアルナに渡した。
「学生証をこの校章部分にあててください。そうすれば寮の扉は開きますよ。」
「ありがとう。ヴァン。」
「言い忘れてましたが、人前では『ヴァン先生』と読んでください。
公私混同は避けた方がいいですからね。」
「了解!ヴァン先生!」
ヴァンはよくできましたとアルナの頭を撫でるとそのまま保健室に戻っていった。




