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第3章 燃える巣穴と、人間の刃

◆ホブゴブリンとしての日々(増量版)


巣穴に“平和”があった。


ハヤトが進化してからというもの、

ゴブリンたちの態度は明らかに変わった。


小さな幼体たちは、

彼の大きな足にしがみつき、


「ハ……ヤ……ト……」


拙い発音で名を呼んだ。


年寄りのゴブリンは、

巣の修理を手伝うハヤトに

ゆっくりとうなずく仕草を見せた。


食事の時間には、

大人のゴブリンたちが獲物を少し多めに渡してくる。

恐れはあるが、それだけではない。


尊敬。


そんな感情まで混じっているのが伝わった。


(……ここは、思ったより“群れ”として成り立ってるんだな)


炎の前の静かな時間。

幼体たちは木の根を玩具にして遊び、

年寄りは焚き火の残り熱に手をかざし、

大人たちは順番に外の見張りをしていた。


ハヤトはふと、

現実世界の仲間たちを思い出した。


班長の叱声。

同期の笑い声。

安全確認の手順。


そのすべてが、

ゴブリンの世界にも“似た構造で存在する”と気づく。


(守るべき居場所……か)


胸が少しだけ暖かくなった。

ここには、脅威もあるが“絆”もあった。



◆金属音が、森を切り裂く(予兆追加)


ある日。


巣の入口にいた大人ゴブリンが、

耳をぴんと立てて身を固めた。


カン……カン……


乾いた“金属の触れ合う音”。


松明の光。

鎖帷子の揺れ。

人間の声。


(……これは……)


隼人としての記憶が反応する。

この音は知っている。


武器の音だ。


味方の音のはずだった。


なのに、この世界では違う。


周囲のゴブリンたちが震え始める。

幼体は泣き出し、

大人たちもざわざわと後退する。


——くる

——にげろ

——ひとの、あしおと


意味が直接流れ込み、

背中に冷たいものが走った。


(……人間、なのか)


隼人の価値観が揺らぎ始めた。



◆人間による襲撃


巣穴の外が、一気に明るくなった。


松明が投げ込まれたのだ。

乾いた木の根が一瞬で燃え上がる。


「ゴブリンの巣だ! 全員出せ!」


「子どもも逃がすな! 繁殖する!」


人間の声が、

隼人の知っている“言語”で響く。


その内容は、

容赦の欠片もない。


巣穴の出口に、

鎧を着た“人間の兵士”が現れた。


剣が光る。

槍が火を反射する。


(……やめろ……!)


ハヤトは叫んだが、

人間には濁音のうめき声にしか聞こえない。


幼体が逃げようとした瞬間、

駆け寄った人間の剣が振り下ろされた。


「あ……」


幼い体が地面に転がった。

血が土に吸い込まれていく。


他の幼体たちが泣き叫ぶ。


——いや

——いや

——たすけて

——こわい


感情が雪崩のように押し寄せる。


(なんで……なんでだよ……!

 こいつらは……何もしてない……!)


巣穴の天井から土が落ち始めた。

外では複数の声が飛び交う。


「火を焚け! 巣全体を燻り出せ!」


「出口を塞げ! 逃がすな!」


炎が広がる。

焦げた臭いが鼻を刺す。


ハヤトは必死に幼体を抱えて逃げようとするが、

通路にはすでに人間が立ちはだかっていた。



◆ハヤトの反撃と絶望


人間が叫んだ。


「ホブゴブリンだ! 高位個体だ! 囲め!」


一斉に槍が向けられる。


ハヤトは咆哮して飛び込んだ。

腕で槍を叩き折り、

一人を壁に叩きつけ、

噛みつき、引き裂く。


強い。

確かに強い。


だが——圧倒的に足りない。


兵士たちの動きは統率されていた。

戦術がある。

数も多い。


獣ではなく、“軍隊”だった。


隼人の心が震えた。


(……これが……人間の戦い……)


(俺たち、自衛隊が使っている“動き”だ……!)


仲間のゴブリンが次々倒れていく。

悲鳴。

血。

火の粉。


巣穴は地獄と化した。


幼体が小さな手でハヤトの腕を掴んで震える。


「……ハヤト……やだ……やだ……!」


(守らなきゃ……守らなきゃ……!

 だけど……足りない……!)



◆炎の中で、終わり


天井が崩れ始めた。


ハヤトは幼体を庇いながら、

最後の力で人間に向かって吼えた。


その瞬間——。


鋭い痛みが胸を貫いた。


人間の槍だ。


「やったぞ!

 ホブゴブリン撃破ーー!!」


歓声が響く。


炎の熱が肌を焼く。

幼体が泣き叫びながら、

ハヤトの腕を掴もうとするが、

力が入らない。


(……ごめん……)


(守れなかった……)


隼人としての記憶が走馬灯のように流れる。

同期の顔。

家族。

訓練。

谷の夜。


そして幼体の泣き声がすべてを上書きした。


「……ハ……ヤ……ト……!」


手を伸ばそうとした。

だが、届かない。


視界が赤から黒に沈んでいく。


胸が痛い。

熱い。

苦しい。


そして——すべてが消えた。



◆現実世界で飛び起きる


隼人は、自衛隊寮のベッドで跳ね起きた。


「……はっ……はっ……!」


胸を押さえる。

呼吸が乱れる。

涙が勝手にこぼれる。


(なんで……

 なんで“人間”が……怖い……?)


隼人の価値観は、

確実に“揺らぎ”始めていた。

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