第四章:陸上部
中学に入った透は、陸上部に入った。
それは、運動部の中では地味な部類だった。
誰かとボールを奪い合うわけでもない。
歓声が飛び交うわけでもない。
ただ黙々と走るだけの部活だった。
いつだって、運動部といえば野球だった。
運動のできるやつは、みんな野球部に入った。
モテるやつも、だいたいそうだった。
グラウンドの優先使用権も、当然野球部だった。
彼らが練習しているときは、他の部活はグラウンドに入れなかった。
陸上部は、そんな中で、グラウンドの端っこを細々と使っていた。
砂ぼこりの舞う外周を、黙って走る。
ベースのラインを踏まないように、気をつけながら。
「いいよな、あいつら」
「マネージャーまでいるもんな」
そんな言葉が、部員の間でぽつりと漏れる。
羨ましさと、少しの悔しさが混ざった声だった。
透も、野球部を見ていた。
グラウンドの真ん中で、声を張り上げる彼らを。
ユニフォームの白さ。
バットの音。
マネージャーの笑顔。
でも、透は知っていた。
自分は、あの輪の中には入れない。
入らなくてもいい。
自分には、自分の走る道がある。
グラウンドの端っこは、誰にも注目されない。
けれど、そこには風が吹いていた。
誰にも邪魔されない、透だけの風が。