銀ねずの森
銀ねずの森の入り口に
緑の腰布をはいた白い裸身の少年
しばし森の奥眺め
少年は銀の笛を持ち
らりらり笛を吹いて森の奥へと入っていった
らりらり笛を吹いて
怯えた骨の狼を連れて森を出てきた
「狼、狼。お前、僕の兄さん食べたかね?」
狼は答えた
「右腕を一本」
少年は笛を振り上げて
ガシャン、と狼の頭骨をかち割った
銀の笛の少年は
らりらり笛を吹いて再び森の中へ入っていった
らりらり笛を吹いて
骨の熊と骨のネズミの行列を連れて出てきた
「熊よ、熊。ネズミよ、ネズミ。お前たち、僕の兄さん食べたかね?」
「体の大半を腹一杯」
熊が答える
「あっちこっち、そっちこっちを気の向くままに」
ネズミが答える
少年が銀の笛を振り上げる
ガッシャン、パリン、パリンパリン、パリン、パリン……
太ももをかっぱらったイタチ
ほっぺをかじったキツネ
目玉をつついたオオガラス……
少年はみんな銀の笛で砕いた
ねじくれたねずの木の下に動物たちの骨の山
少年が笛を吹く
「 兄さん、兄さん、聞こえるかい?
あんなに森に入ってはダメだと言ったのに」
骨の山から青い煙が立ち上がる
「ああ弟よ、約束を破ってすまなかった
だけど森は見たことのない美しさでいっぱいだったよ」
青い煙の兄さんはちっともこりない様子で答えた
少年は悲しそうなため息をついてから
陽気な旋律をらりらりと吹いた
青い煙は陽気に空を昇ってゆき
動物たちは見る間に、骨格を取り戻し肉を取り戻し毛皮を取り戻すと
一目散に森の中に逃げていった
踵を返しかけた少年の足元に
骨のうさぎが一羽
「わたしはあなたのお兄さんに食べられました」
少年は頷くと銀の笛に唇を押しあて
らりらり笛を吹いた