表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

[5]重い想い(5)




「・・・ゴメンナサイ。反省シテマス」


 ダイニングの床で正座している妹がなんだか不貞腐ふてくされている。反省のセリフが片言かたことだ。流石にタチの悪すぎる嘘に罰を与えたのだが、納得が行ってないらしい。どうやら更なるお説教が必要かもしれない。愚かな妹と違ってイスに腰掛けている僕は、頬杖を突きつつ下手人げしゅにんを見下す。


「いくらなんでも僕が養子とか・・・。オマエはいていい嘘と、吐いたらダメな嘘も分からないのか?」


「さっきのは吐いていい嘘だろ?」


「なんでそうなるんだよ」


「だって、ああでも言わなきゃさ・・・。兄ちゃんはアタシを抱いてくれないだろ?」


 こいつはなにを言っているのだろうか。そんなところに問題の本質はないというのに。


「どっちにしろ抱かないぞ」


「なんでだよ!」


「たとえ血の繋がりがなくても、オマエは妹だからな」


 十五年も兄妹として過ごしてきたのに、今さら男女の仲になんてなれる訳がない。血の繋がりなんて関係ない。僕は妹のことを、妹としてしか見れないのだ。


 しかし、そんな考えは妹には届かない。彼女は頬を赤くして、なんだか嬉しそうだ。


「そ、それって・・・。アタシは特別・・・ってことか?」


 おい、さっきの僕の嘘を引きずるな。真に受けるな。オマエは特別なんかじゃないぞ。とはいえ、この流れに乗った方が丸く収まりそうだ。妹を言いくるめられそうだ。


 しかしまぁ、ある意味では特別なんだろう。僕は妹に手を出すような真似は断じてしない。彼女はわば不可侵領域だ。そう考えれば特別といえる。


「ああ、そうだ。オマエは特別だ。僕たちは血が繋がっていて、心の繋がりもある。だから体の繋がりなんて要らないだろ?」


 心の繋がりなんて断じてない。そんなモノを感じたことはない。


「いや、それも要る。血も心も体も繋がらないと駄目だ。コンプリートしないと!」


 そんな考えはデリートしてやりたいよ。


「なぁ、にぃちゃん。アタシは兄ちゃんのこと、好きなんだよ! 大好きなんだよ! それなのに、なにが駄目なんだ?」


「だから、その好意自体が駄目なんだよ。僕たちは兄妹なんだから」


 あと、オマエの目に余る行為も駄目だ。


「人を好きになるのが駄目なのか? 好きになった相手が、たまたま兄ちゃんだっただけだろ? 兄ちゃんのタマタマを好きになっただけだろ? ・・・あ、間違えた。たまたま兄ちゃんを好きになっただけだろ?」


 おい。本当に間違えたのか? 本音じゃないのか?


「偶然だろうが必然だろうが、駄目なモノは駄目なんだ。僕のことは諦め───」


「死ぬしかない・・・」


「え?」


「生きて結ばれないんなら、死んで結ばれるしかない・・・」


「え? え?」


 おいおいおい、勘弁してくれよ。心中しんじゅうとか、マジでやめてくれよ?


 僕が不安になる中、妹はふらりと力なく立ち上がる。なんだか目がヤバい。虚ろな感じで、こちらをジッと見つめている。これがヤンデレなのだろうか。


「兄ちゃん・・・。アタシと一緒に───」


「諦めるな! 『諦めたら、そこで試合終了』って、どっかの先生が言ってただろ? ほら、太っちょの!」


「・・・でも、兄ちゃんはさっき、諦めろって───」


「言ってない! 僕はそんなこと言ってない!」


 言い掛けてはいたけど。


「とにかく諦めたら駄目だ! 今の僕がオマエを好きじゃなくても、一年後の僕はオマエを好きになってるかもしれないぞ!」


 そんなことは絶対に有り得ないがな。


「そうか・・・。うん、そうだよな! アタシ、諦めないよ! 絶対に兄ちゃんを振り向かせてやるからな!」


 無駄な努力、ご苦労さん。しかしまぁ、これで僕は延命できたようだ。さて、妹の様子も元に戻ったし、洗い物でもするか。


「ん? なにしてんだ、兄ちゃん?」


「食器を洗うんだよ」


 二人分の小さな丼鉢どんぶりばちと箸を重ね、流し台へと運ぶ。そしてスポンジを手に取り、洗剤に手を伸ばそうとしたところで妹が割り込んできた。僕からスポンジを強奪したのだ。


「そんなのいいって。アタシが洗うからさ。兄ちゃんは他のモノを洗ってくれよ」


 なんだなんだ? 【家事できますアピール】か? 【料理はできないけど、洗い物ならできるぜ!】ってか?


「他のモノ?」


 洗い物は他にない───と思ったが、僕は失念していた。カップ麺の容器をゆすがなくてはならないのだ。資源ゴミはなるべく綺麗にしないといけない。食べっぱなしの汚しっぱなしは良くない。妹は中々にしっかりしているようだ。


「そう。アタシの体」


 全然しっかりしてなかった。ちゃっかりしていた。というか、いま洗え、と? ここで洗え、と? どういうことなんだ? まぁ、どうせ僕は洗わないんだけど。


「洗濯機で洗えよ」


「おおっ! それ、楽しそうだな!」


 やめろ、命に関わるぞ。目を輝かせてる場合か。


「でも、やっぱり兄ちゃんに洗って欲しいな・・・」


 こら、頬を赤らめるな。期待も想像もするな。


「オマエの汚い体を僕に洗わせるのか?」


「き、汚い!? それは失礼だろ!」


「はぁ? 汚いから洗うんだろ? 綺麗なら洗う必要なんてないだろ?」


「アタシは未経験だよ! まだけがれてないよ! 兄ちゃんのために取ってあるんだから!」


 そういう意味で言ったんじゃないし、取り置きなんて頼んでないんだけど・・・。っていうか、オマエは精神が穢れてるだろ? 兄である僕に穢されたがってるんだから。


「とにかく、オマエの体を洗ったりしないからな」 


「・・・ケチ」


 妹は唇を尖らせて、淋しそうな顔を横に向けた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ