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ドア  作者: 佑佳
戦乱編
11/43

ある夢の一部、もしくは記憶の断片

   ◆   ◆   ◆


 ある夢の一部、もしくは記憶の断片。

 これがいつのことで、またどこの場所であるのかは見当もつかない。自分の夢、もしくは記憶であることすらも曖昧である。


 それは、真っ白な雪景色。

 高い常緑針葉樹が立ち並ぶ林の中に、ポカンとまるで秘密基地のように空いた空間があった。すべての木々の枝葉にはどっしりとした雪が乗り、地面の土色は一切見えない。

 その中心部に、一人がうずくまっている。

 素足の膝を躊躇(ためら)うことなく雪上につき、がっくりと頭を落し、まるで土下座のような姿勢だ。小刻みに肩を震わせしきりに鼻を啜っているところから、どうやらそうして泣いていたようだとわかる。

 雪の冷たさで赤くなっている膝や掌は、酷く痛々しい。しかし温度など、その人はとっくに感じていない。鼻を啜る音は、常緑針葉樹の木々の合間に虚しく響き消えていく。


「――かえして」


 涙が混じる、低い声。怒り、悲しみ、絶望、悔恨、落胆――あらゆる負の感情が渦となり、まるでその人へ絡み付いているようだ。


「かえしてよォ……」


 ギギュ、とかすかに聴こえたのは、その人が掌に雪を握った音。地についていた手をそのまま拳にしたらしい。

 雪と悔しさはそうして共に握られると、じんわりと体温で溶け、やがて水となった。水は周辺の雪に混ざるが、悔しさだけは混ざらない。

 負の想いだけを両掌に宿し、自身の頬に擦り付ける。まるで、溢れ出る感情を含んだ涙を雪解け水に溶かすような。


「■■■をかえしてぇっ!」


 痛烈な叫びと共に、その人を俯瞰視(ふかんし)していた位置はサァッと後方へ遠ざかっていった。常緑針葉樹の合間を縫い、後ろへ後ろへと『自分が』引っ張られていく。落胆するその人の姿は、そうして瞬く間に見えなくなる。

 あれは誰なのだろう、早く思い出したい――いつもそれだけを、ただ願っている。


   ◆   ◆   ◆



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