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ヤマトコノカタ  作者: キクチ シンユウ
第二章 ー 空間遊戯 ー
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2-5 金鵄夢の島学院の日常


 落ち着きを取り戻していた金鵄夢の島学院の月曜日。

 いつものように朝のホームルームが行われていた。


 教官の松岡に続いて教室へ入ってきたのは、武たちのクラスへの転校生だった。


 松岡に促され、教壇の横に立った小柄な女子の転校生が挨拶を始めた。


「根の堅洲国から来ましたフェン 美優(みゆ)です。

 葦原の国には来たばかりです。

 よろしくにゃ!」


 武はその語尾に聞き覚えがあった。


 転校生は高天原で出会った影康と同じ語尾で話していた。


 武は目立たないように隣の席の錠の方へ身を乗り出した。


「ねえ、あの語尾って猫の獣人の人が使う語尾じゃないの?」


 その言葉を聞いた錠は目を丸くし、思わず笑いそうになったが、前に立つ松岡を気にして必死に堪えた。


「何それ?

 猫の獣人だから“にゃーにゃー”言うと思ってたの?」


 錠は笑いをこらえながら武に聞いた。


 武はそう思っていたが、錠の反応を見てそれが間違いであることに気がついた。


 錠は面白がって手を挙げた。


「はい! 武学生がその語尾について聞きたいそうです!」


「お、おい!」


「あまり根の堅洲国のことを知らない方ですかにゃ?」


 武と美優の目が合う。


「え、その……はい」


 かえって美優の方が興味津々に武を見つめた。


「この学院には、葦原の国で生活をしてきて根の堅洲国を知らずに育った者もいる」


 松岡が淡々と美優に説明した。


「そういうことですね」


 美優は一呼吸置いてから説明を始めた。


「私の育った根の堅洲国のホアの地方では、この語尾を話すにゃ」


 武は影康がもともと根の堅洲国の出身だったことを思い出した。


「そういうことなんだよ、武君」


「わざわざ手を挙げなくてもよかっただろ。しかも俺がって」


「そうかい?

 だったら猫だからだと思ってたくだりもみんなに━━」


「待て待て待て待て待て……!」


 じゃれ合う二人は松岡の視線を感じて口を閉ざした。


 美優はその様子を面白そうに見ていた。


 そして武の顔を、少しだけ興味深そうに見つめていた。



 ホームルームが終わり、教室を去ろうとする松岡を武は呼び止めた。


「松岡教官。ご相談があるのですが、よろしいですか?」


「どうした?」


「おのごろ島の外の人と会いたいのですが、何か申請をすれば可能なのでしょうか……?」


「……そうか。友人か何かか?」


「はい。転校前の学校の同級生です」


 松岡は少し考えてから口を開いた。


「少し確認に時間をくれないか」


「わかりました。お願いします」


 武が一礼すると、松岡は頷いて廊下を進んでいった。


 松岡の後ろ姿を見送る武の背中に話しかける声がした。


「武君、何か教官にお願いしたの?」


 瑛理子の声で武が振り返ると、瑛美と瑛理子が立っていた。


「うん。実は前の学校の同級生に会いたくて」


「そうか。武君、ここに来てからおのごろ島を出たのは学生隊の出動の時だけだよね」


 瑛美が武が来た日のことを思い出すように言った。


「都内の鬼の掃討作戦をしている間は、島の行き来は作戦行動以外は禁止されていたわよね」


 瑛理子が続けた。


「錠と赤松とこの前街の方に行ったんだけど、島の外から来た人がいて。

 今なら出入りができるのかなと思って……」


「確かに今ならできるのかもしれないわね。

 ちなみにその同級生って男子? 女子?」


 瑛理子の遠慮のない質問に、瑛美は武の答えを気にするような顔をした。


「男子と女子の二人だよ」


「そうなんだ。

 その女子の子は可愛いの?」


「え、いや、別にそういうのではないんだけど」


 武は瑛理子の問いに戸惑った。


「普通に仲のいい友達なんだ。

 鬼に襲われた時も、本当に心配をかけてしまっていて」


「だそうよ、瑛美」


「え、だって武君の友達なら会った方がいいでしょ……」


「あら、そう。

 私はもし武君が島の外に帰りたいとか言い出したら困るけど」


「そんなことにはならないよ」


「それなら良いですけど」


 瑛美と瑛理子は感情の出し方が対照的だった。


「あ、錠たちとも街に出かけたなら私たちとも行きましょうよ!」


「え? ……いいけど」


「決まりね。よかったわね、瑛美?」


「からかわないでよ……」


「ははは……」


 武は終始、瑛理子のペースに振り回されていた。


 そこへ、一部始終を待っていたかのように錠が現れた。


 武たちは次の時限の教室へと向かっていった。



 進む廊下に名前のプレートが掛かった掲示板を武が見つけた。


 その中にかつて鬼の空挺部隊の襲撃から救援に駆けつけた岩本の名前を見つけた。


「錠、これって、あの岩本少佐?」


「そう、これは歴代の戦技優秀学生の名前が載ってるよ。

 一学年の終わりに、戦技優秀学生が各期から一名だけ選ばれるけど、岩本少佐は学生の頃から優秀だったんだね」


「え、岩本少佐もこの学院の出身?」


「この学院はおのごろ島ができた時に作られたけど、前身校は根の堅洲国にあったんだよ」


 武は、岩本が空を駆けながら戦闘へ突入していく姿を思い出した。


 その果敢な姿に憧れを抱いていたことを、武は自覚しながら学舎(まなびや)の廊下を歩いて行った。



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