1-27 新宿上空遭遇戦
空にもう一つの葦原の国──世界が現出した混乱の最中、
空間母艦・タケミカヅチの艦上作戦室に新たな報告が入った。
「新宿上空にて、第1艦隊が敵部隊と会敵しました!」
「どこから来た?!」
艦橋内で、艦隊参謀長が通信士に問いただす。
「敵部隊は、高高度からの襲来と確認されています!」
参謀長は即座に艦隊司令へ向き直った。
「大胆な強襲です。
ですが、この警戒態勢に穴があったとは考えられません。
まさか、あの“空の世界”から……」
「威力偵察ではない、と見るか?」
「はい。
敵が離脱経路を持たないとすれば、
目的は我の艦隊のかく乱でしょう」
参謀長は一瞬言葉を切り、続けた。
「新夢の島──おのごろ島沖合の黄泉路。
その動きを警戒すべきかと」
艦隊司令は即断した。
「全艦隊を新夢の島──おのごろ島へ集結。
沖合の黄泉路に対しての警戒を厳とせよ」
命令が艦隊全体へと下達される。
その直後に冨樫が艦橋へ姿を現した。
「新宿周辺の市民避難は、警察・日本軍と連携して対応します」
「局長。当然とは思いますがスサの艦隊は……?」
「この空の状況を見て、根の堅洲国からの進出は現状待機です」
「了解しました。
我の艦隊は新夢の島で迎撃態勢を整えます」
タケミカヅチの艦橋から肉眼で新宿方面の上空で閃光が走るのが見えていた。
第1艦隊は、空間母艦イワイヌシに座乗する山寺中将の指揮下にあった。
イワイヌシを基幹とする第1艦隊は、他4隻の艦艇によって編成されている。
そのうち中央に位置していた巡洋艦モガミが、黄泉軍空挺部隊の強襲を受けていた。
空間母艦から展開した空間戦闘団と、
飛行状態で空挺展開した黄泉軍部隊が、モガミ周辺で激しく交錯している。
きりもみ状態の乱戦。
あまりに入り組んだ空中戦のため、
イワイヌシ艦橋にいる山寺中将ら第1艦隊司令部は、
戦場全体の像を掴み切れずにいた。
戦闘機動参謀は、我方の艦隊運動が乱されて定まらない現状に焦りがあった。
もし判断を誤れば、艦隊の集結は遅れ、
新夢の島──おのごろ島で予定している防衛線の構築に支障をきたす。
今必要なのは敵状の判明に足るだけの情報主要素だった。
「通信士。
岩本少佐を呼び出せるか?」
「岩本少佐より交戦中と信号です!」
「岩本少佐が応答でき次第、こちらに直通回線を回せ」
イワイヌシから飛び出した戦闘機動隊の中には、
第1空間戦闘団の撃墜王──岩本少佐がいた。
岩本は第1空間戦闘団の戦闘機動隊の長である。
戦闘機動参謀は岩本の意見具申を重要視していた。
「岩本少佐と繋がります」
━━敵部隊は雲を遮蔽物にしつつ、
我々より高高度から侵入しています。
空間母艦を伴う編成ではありません。
機動力重視の強襲部隊と判断します。
戦闘機動参謀は、即座に理解した。
必要な情報主要素が揃いつつある。
「敵の空間母艦は確認できない、という認識でいいか?」
━━はい。
確認できるのは高速強襲艦と飛行艇のみです。
目的は我が艦隊の撃破ではなく、
進行の遅延と見ます。
「了解した。
戦闘機動隊は我方からの艦砲射撃に注意せよ」
━━了解。通信終わり。
岩本との通信を終えた戦闘機動参謀は、即座に結論を出した。
「司令。
情報主要素は揃いました。
敵部隊には巡洋艦モガミを撃沈する打撃力はありません。
目的はあくまで艦隊運動のかく乱です」
山寺中将は短く頷いた。
「モガミ周辺の敵を引き剥がせ。
モガミは最大戦速で離脱。
各艦は救援部隊を展開しつつ、
新夢の島──おのごろ島への進路を維持せよ」
命令は即座に艦隊全体へ伝達された。
モガミは最大戦速で乱戦の渦中から離脱を始める。
乱れていた第1艦隊の艦隊運動は次第に整い、
新夢の島へ向けて進路を取った。
それは、黄泉軍空挺部隊の意図を挫く行動であり、
陣頭指揮を執る空挺部隊の指揮官は、歯噛みした。
「くそ……
立て直しが早すぎる。
強襲艦は巡洋艦の推進部を狙え!
足を止めろ!」
その叫びを遮るように、
上空から稲妻が落ちた。
岩本少佐だった。
地上から見える全く新しい空の戦場は、
巡洋艦モガミを中心とした渦を解き、
新夢の島の方角へと流れを変え始めていた。




