表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/33

1-20 超人再び


 「只今より、日本政府による重大発表が行われます。

 テレビの前の方は、お近くの方にこの放送をご覧になるようお伝えください。

 繰り返します──」


 日本政府による重大発表は、すべての民放テレビ局で同時に中継されていた。

 ラジオ、インターネットの生放送サイトでも配信され、全国の企業、学校、病院など、自宅以外の場所でも視聴するよう通達が出ている。

 屋外スクリーンを備える街頭でも映像が流れていた。


 武たちは、教室のテレビでその放送を見ていた。


 司会の合図で官邸の中継に切り替わり、画面に総理大臣が映し出される。

 その背後には大型スクリーンが設置されていた。

 資料映像を用いた説明が準備されていることが、ひと目で分かる。


 総理が短く挨拶を終えて檀上を去る。

 次に現れたのは、ヤマト機関の長──冨樫とがし義人よしひとだった。


 武は、無意識のうちに背筋を伸ばしていた。


 「私は、この日本に秘密裏に存在していた組織の代表です。

 その組織の名は、ヤマト機関」


 冨樫は、しっかりとした声で語り始めた。


 「我々は長年、この国を、そしてこの世界を、侵略的な存在から守るために戦ってきました」


 語られる内容は、武が康彦や白狼から聞かされてきたものだった。


 超人の存在。

 ククリの力。

 神と鬼。

 そして、複数存在する世界。


 それらが、夫婦神の神話から現在に至るまで、人々の知覚から切り離されてきた歴史として説明されていく。


 記者席では、録音機が回り続けているにもかかわらず、メモを取る手が止まっている者も多かった。


 渋谷のスクランブル交差点では、信号が青に変わっても、ただ画面に釘付けになっている人々がいた。

 同じ光景が、全国各地で起きていた。


 武も、視線をテレビから外せずにいた。


 自分たちが、これからどのように世界に認識されるのか。

 それを、見届けなくてはならなかった。


 「……これで、本当に世界が変わってしまうのかな」


 武は、独り言のように呟いた。


 「対応は変わるだろうね」


 錠が答える。


 「でも、世界の本質が変わるわけじゃない。

 きっと、適応できる」


 冨樫の説明が終盤に差しかかった頃、背景の映像が切り替わった。


 夢の島上空。


 雲の中に溶け込むようにして待機していた、複数の“何か”が映し出される。

 次の瞬間、それらの姿が露わになった。


 偽装が剥がれ、宙に浮かぶ巨大なヒイロガネで出来た塊が現れる。


 それは、空間母艦と呼ばれる存在だった。

 通称は、空母。


 全長は、およそ三百メートル。

 人々が知る、いかなる航空機とも異なるフォルムをしている。

 まるで、空そのものに浮かぶ軍艦だった。


 東京湾沿岸では、指を差して声を上げる人々の姿が映し出される。

 その頭上を、母艦は悠然と進んでいった。


 やがて、軍艦のハッチが開く。


 そこから、光を受けて飛び出してきた存在があった。


 人の形をした、空を翔ける者たち。

 第一空間戦闘団の超人たちだった。


 太陽光を反射しながら編隊を組んで進むその姿は、地上に向けた無言の宣告のようだった。


 第一空間戦闘団、ここにあり。


 空間戦闘団。

 空間において空、地、環境を問わず克服し戦闘機動を行う戦闘部隊である。

 その中でも第一空間戦闘団は、頭号戦闘団でありヤマト機関の精鋭部隊だった。


 人々は、それを「初めて見た」と思った。


 だが、正確には違う。


 かつて、情報網が未発達だった時代。

  超人が空を飛ぶ姿は、噂や伝承として各地に残されていた。


  だが、科学と情報網が発達してからは、

  超人が人目を気にせず葦原の国の空を飛ぶことはなくなった。

  その光景は記録されることもなく、

 同時に共有されることもなかった。


 これは、新しい光景ではない。

 人類が、再び“見ることを許された”光景だった。


 教室のテレビにも、その映像が映し出されている。


 「……すごいな」


 誰かが、呆然と呟いた。


 「武。先頭を飛んでる人、見える?」


 錠が画面を指さす。


 「ああ」


 「岩本和之少佐だよ。

 第一空間戦闘団のエースだ」


 武は、その名前に聞き覚えがあった。


 「五年前の地殻変動の時、最前線にいた人だよ」


 「五年前の……」


 この第一空間戦闘団の登場は、単なるデモンストレーションではない。

 発表直後の混乱に乗じて動き出す鬼たちへの、明確な牽制だった。


 超人は、葦原の国の空を再び飛んだ。

 今度は、誰の目からも隠れることなく。


 やがて、冨樫への質疑応答が始まる。

 だが、記者たちの質問は、用意してきた想定を大きく超えていた。


 結局、冨樫の説明をなぞる形でしか進まなかった。


 会見が終了し、画面がスタジオに切り替わる。

 その瞬間、教室のテレビが消された。


 松岡教官だった。


 「これから、ヤマト機関は、鬼たちの動向に最大限の警戒を払う」


 松岡は、ゆっくりと瞬きをする。


 「この発表で、葦原の国でも、超人、ククリの力、神々、鬼、

 そしてヤマト機関の存在が公になった」


 教室は、静まり返っている。


 「だが、学生隊のやることは変わらない。

 学業を修めながら、任務に備える」


 生徒たちは、動揺することなく、その言葉を受け止めていた。


 武は、クラスメイトたちの横顔を見て、胸の奥が熱くなるのを感じていた。


 隣を見ると、錠と目が合う。

 錠は、静かに歯を見せずに笑った。


 「いざという時は、君たち自身が鬼から身を守らなければならない」


 松岡の声に、力が籠もる。


 「そのためにも、訓練には一層、励んでもらう!」


 その瞬間、教室の空気が揺れた。

 室温が、わずかに上昇する。


 ──いや、気のせいではない。


 松岡は、自身の体温を炎のように高める能力を持っていた。

 その事実は、このクラスの生徒たちにはすでに周知のものだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ