1-20 超人再び
「只今より、日本政府による重大発表が行われます。
テレビの前の方は、お近くの方にこの放送をご覧になるようお伝えください。
繰り返します──」
日本政府による重大発表は、すべての民放テレビ局で同時に中継されていた。
ラジオ、インターネットの生放送サイトでも配信され、全国の企業、学校、病院など、自宅以外の場所でも視聴するよう通達が出ている。
屋外スクリーンを備える街頭でも映像が流れていた。
武たちは、教室のテレビでその放送を見ていた。
司会の合図で官邸の中継に切り替わり、画面に総理大臣が映し出される。
その背後には大型スクリーンが設置されていた。
資料映像を用いた説明が準備されていることが、ひと目で分かる。
総理が短く挨拶を終えて檀上を去る。
次に現れたのは、ヤマト機関の長──冨樫義人だった。
武は、無意識のうちに背筋を伸ばしていた。
「私は、この日本に秘密裏に存在していた組織の代表です。
その組織の名は、ヤマト機関」
冨樫は、しっかりとした声で語り始めた。
「我々は長年、この国を、そしてこの世界を、侵略的な存在から守るために戦ってきました」
語られる内容は、武が康彦や白狼から聞かされてきたものだった。
超人の存在。
ククリの力。
神と鬼。
そして、複数存在する世界。
それらが、夫婦神の神話から現在に至るまで、人々の知覚から切り離されてきた歴史として説明されていく。
記者席では、録音機が回り続けているにもかかわらず、メモを取る手が止まっている者も多かった。
渋谷のスクランブル交差点では、信号が青に変わっても、ただ画面に釘付けになっている人々がいた。
同じ光景が、全国各地で起きていた。
武も、視線をテレビから外せずにいた。
自分たちが、これからどのように世界に認識されるのか。
それを、見届けなくてはならなかった。
「……これで、本当に世界が変わってしまうのかな」
武は、独り言のように呟いた。
「対応は変わるだろうね」
錠が答える。
「でも、世界の本質が変わるわけじゃない。
きっと、適応できる」
冨樫の説明が終盤に差しかかった頃、背景の映像が切り替わった。
夢の島上空。
雲の中に溶け込むようにして待機していた、複数の“何か”が映し出される。
次の瞬間、それらの姿が露わになった。
偽装が剥がれ、宙に浮かぶ巨大なヒイロガネで出来た塊が現れる。
それは、空間母艦と呼ばれる存在だった。
通称は、空母。
全長は、およそ三百メートル。
人々が知る、いかなる航空機とも異なるフォルムをしている。
まるで、空そのものに浮かぶ軍艦だった。
東京湾沿岸では、指を差して声を上げる人々の姿が映し出される。
その頭上を、母艦は悠然と進んでいった。
やがて、軍艦のハッチが開く。
そこから、光を受けて飛び出してきた存在があった。
人の形をした、空を翔ける者たち。
第一空間戦闘団の超人たちだった。
太陽光を反射しながら編隊を組んで進むその姿は、地上に向けた無言の宣告のようだった。
第一空間戦闘団、ここにあり。
空間戦闘団。
空間において空、地、環境を問わず克服し戦闘機動を行う戦闘部隊である。
その中でも第一空間戦闘団は、頭号戦闘団でありヤマト機関の精鋭部隊だった。
人々は、それを「初めて見た」と思った。
だが、正確には違う。
かつて、情報網が未発達だった時代。
超人が空を飛ぶ姿は、噂や伝承として各地に残されていた。
だが、科学と情報網が発達してからは、
超人が人目を気にせず葦原の国の空を飛ぶことはなくなった。
その光景は記録されることもなく、
同時に共有されることもなかった。
これは、新しい光景ではない。
人類が、再び“見ることを許された”光景だった。
教室のテレビにも、その映像が映し出されている。
「……すごいな」
誰かが、呆然と呟いた。
「武。先頭を飛んでる人、見える?」
錠が画面を指さす。
「ああ」
「岩本和之少佐だよ。
第一空間戦闘団のエースだ」
武は、その名前に聞き覚えがあった。
「五年前の地殻変動の時、最前線にいた人だよ」
「五年前の……」
この第一空間戦闘団の登場は、単なるデモンストレーションではない。
発表直後の混乱に乗じて動き出す鬼たちへの、明確な牽制だった。
超人は、葦原の国の空を再び飛んだ。
今度は、誰の目からも隠れることなく。
やがて、冨樫への質疑応答が始まる。
だが、記者たちの質問は、用意してきた想定を大きく超えていた。
結局、冨樫の説明をなぞる形でしか進まなかった。
会見が終了し、画面がスタジオに切り替わる。
その瞬間、教室のテレビが消された。
松岡教官だった。
「これから、ヤマト機関は、鬼たちの動向に最大限の警戒を払う」
松岡は、ゆっくりと瞬きをする。
「この発表で、葦原の国でも、超人、ククリの力、神々、鬼、
そしてヤマト機関の存在が公になった」
教室は、静まり返っている。
「だが、学生隊のやることは変わらない。
学業を修めながら、任務に備える」
生徒たちは、動揺することなく、その言葉を受け止めていた。
武は、クラスメイトたちの横顔を見て、胸の奥が熱くなるのを感じていた。
隣を見ると、錠と目が合う。
錠は、静かに歯を見せずに笑った。
「いざという時は、君たち自身が鬼から身を守らなければならない」
松岡の声に、力が籠もる。
「そのためにも、訓練には一層、励んでもらう!」
その瞬間、教室の空気が揺れた。
室温が、わずかに上昇する。
──いや、気のせいではない。
松岡は、自身の体温を炎のように高める能力を持っていた。
その事実は、このクラスの生徒たちにはすでに周知のものだった。




