1-16 友達
教室から男子寮へ向かう道は、校舎と男子寮を直角につなぐ廊下を通って移動できる構造になっていた。
校舎は二つの長方形の棟が並んだ形で形成されており、棟の両側の窓は東西に面している。
そのため教室には、午後になると眩しい日差しと夕焼けが差し込んでいた。
生徒たちが生活する男子寮と女子寮は、日当たりの良い南側に窓が向くよう一列に並び、教室棟とは直角の位置に建てられている。
また、校舎から伸びる廊下の途中、寮へ枝分かれする位置には別の棟があった。
三階建てで、食堂と売店のコンビニ、図書館が入っている棟だ。
この棟の屋上は、寮棟と教室棟の四階をつなぐ通路にもなっており、移動には四階の通路か、一階の廊下を使うことになる。
武たちは四階の教室にいたが、武の靴は一階の昇降口にあったため、一階の廊下を通って男子寮へ向かった。
寮も教室棟と同じく、玄関で靴を脱ぎ、スリッパに履き替える仕組みになっている。
ただし設計は大きく異なり、教室棟にはなかったエレベーターが生活寮には備えられていた。
三人はエレベーターで三階へ上がった。
扉が開くと、廊下の先に武の荷物が見える。
そこが三人の部屋で、エレベーターから三つ目の部屋だった。
「さあ、どうぞ入って。ここが僕たちの部屋だよ」
錠が鍵を開け、武を中へ招き入れる。
「スリッパはここで脱いでね。荷物はとりあえず自分の部屋へ。物部君の部屋は右の一番奥だよ」
「一人ずつ個室はあるけど、何かあった時のために、寝るときは左の寝室で一緒に寝る決まりなんだ」
「個室はあるが、寝るときは集団生活だな。最初は慣れないかもしれないぞ」
「うん。別に大丈夫。じゃあ荷物を置いてくるよ」
武は自分の部屋に入り、荷物を置いた。
部屋には机が一つと、本棚、衣装棚が備え付けられている。
「この部屋は、自分で好きなものを置いていいからね」
「それより、ベランダに出よう。景色がいいよ」
武はリビングを抜け、二人に連れられてベランダへ出た。
眼下には東京湾が広がり、遠く水平線まで見渡せる。
「ここは気持ちいい潮風が吹くんだ。朝日も見えて、すごくいい場所だよ」
しばらく三人は無言で景色を眺めた。
「おい、ジョー。そろそろ能力の話もしておかないか」
赤松が冷蔵庫から飲み物を三本持ってやってきた。
「サンキュー!」
「あ、ありがとう」
三人はそれぞれ飲み物を受け取り、自然と話題は能力のことへ移った。
「遅れたけど、僕の能力を説明するね。僕の能力は爆発を起こすことと、爆発物を創ることだよ」
「爆発物?」
「そう。爆弾やロケットだって創れてしまう」
武は康彦から、ククリの力は可能性の力であり、この世界が認識している情報を操る力だと教えられていた。
つまり理論上、この世に存在するものは能力として発現しうる。
それでも、爆発物を創れる錠の能力は、かなり珍しい部類だった。
錠が話し終えると、赤松が口を開いた。
「俺は痛みの情報を遮断する能力だ。病気の治療中に使えるようになった。これには助けられた」
「体の中の痛みも遮断できるのか」
「ああ。ただし限度はある。骨にヒビが入っているのに気づかない、なんてことになったら危険だからな」
「クラスのみんなも、いろいろな能力を持っているんだよね」
「そうだな。面白い能力のやつも多い。もちろん、そこまで特殊じゃない能力のやつもいる」
「なるほど。二人ともすごい能力を持っているんだな」
「武君は、ククリの力を使えるようになって、どう感じている」
武はすぐに答えなかった。
少しだけ考える。
超人になったこと。
高天原に連れて行かれ、力を使えるようになったこと。
けれど、それを実感する前に知ってしまった。
一郎が、鬼に捕まったという事実を。
「……実は、ちゃんと考えたことがなくて」
二人は黙って続きを待つ。
「高天原に連れて行かれて、自分が超人なんだって知らされた。
そして、自分の親友が鬼に捕まったって聞いた」
「武君の、親友が」
「だから助けたくて、助けるためにこの力を使おうって思ったんだ」
錠は一瞬、言葉を失った。
赤松の視線を感じ、それ以上踏み込むのはよくないと悟る。
「……僕はね」
錠は話題を変えるように言った。
「あの海の向こうの人たちが、僕ら超人やククリの力を受け入れてくれるのかが気になるんだ」
「憧れてくれたら嬉しいけど、怖いと思われたら悲しい」
「錠は、もともと根の堅洲国にいたもんな」
赤松は、根の堅洲国ではククリの力が常識であることを語った。
「ククリの力を知っても、誰もが超人になれるわけじゃない。その間には溝ができる」
短い沈黙のあと、武が言った。
「みんなが、超人になることはできないのかな」
「いや……ククリの力は善良な心に宿るって話だし、人間みんながそうじゃないからなぁ」
赤松が錠を見ると、様子が変わった。
何かに驚いて一度、言葉を飲み込んだような顔をしている。
「……今までに、そういう状態はなかったはずだし。難しいかもね」
そう言って、錠は微笑んだ。
「でも、武君はいい人だよ」
「え?」
「そうやって他人のことを思えるのは、立派なことだと僕は思うな」
「あ、ありがとう。錠君」
「ジョーって呼んでよ」
「わかった。それなら俺も武でいい」
「さっきも言ったが俺も気にせず赤松って呼んでくれよ」
「ありがとう。二人とも。これからよろしく!」
一日の役目を終え、水平線へと降りていく夕日の光が、少年たちを静かに照らしていた。




