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1-15 超人青少年


 竹中に連れられ、武は校内を見渡しながら歩いていた。


 新しい建物だ。


 それだけでなく、これまで経験してきた施設とは、空気そのものが違う。


 竹中は、両親と別れた武を職員室へ案内した。


 竹中が扉をノックすると、中から「どうぞ」と声がする。


 入室した武を迎えたのは、軍服を着た男だった。


「物部 武生徒を連れてまいりました」


 竹中は松岡に敬礼し、武へ向き直った。


「私は松岡まつおかひろし大尉です。

 ヤマト機関の者ですが、この学院では教官も務めております」


「物部 武です。

 よろしくお願いします」


「先日は、お疲れ様でした。

 よくぞ高天原から帰ってきてくれました」


 松岡は一拍置き、続けた。


「とはいえ、鬼に襲われ、怖い思いをさせてしまったことは申し訳ありませんでした」


「いえ……。

 結果的に、僕は無事でした」


 武は正直に答える。


「それに、ご先祖様に会うこともできました。

 どうかお気になさらないでください」


「そう言っていただけると助かります」


 松岡は、握手のために手を差し出した。


 武が握り返した瞬間、掌の奥に燃えるような熱が走る。


 ただの体温ではない。


 松岡の内側にある“熱さ”が、指先から伝わってくるようだった。


 松岡は武を応接用の席へ座らせ、プリントを用いて学院の仕組みを説明した。


 学級は一学年四クラス。


 校舎の別棟には中等部もある。


 武が編入する高等部は、一般的な高校とは異なり二年制であり、この学年は一期生のため上級学年が存在しない。


 さらに、全員が超人というわけではない。


 ヤマト機関関係者の子弟も通うため、非超人の生徒も在籍していた。


 寮は三人部屋で、各自に個室がある。


 原則として、同じクラスの生徒と同室になる。


 武は案内図のプリントを見ながら、教室や洗面所、売店の位置などの説明を受けた。


「次の時限のはじめに、私と一緒にクラスへ行きましょう。

 それまで、こちらに目を通しておいてください」


 そこへ、竹中が一歩引いて言った。


「物部君。

 それでは、私はこれで失礼します」


「竹中さん、ありがとうございました」


「いえ。

 また会いましょう」


 武がプリントに目を通し終えるころ、教室へ行く時間になった。


 松岡は、きびきびと歩き出す。


 武は少し距離を取って、その背を追った。


 握手のときの熱が、まだ掌に残っている気がした。


「今日の授業は、これから始まるホームルームで終わりです。

 転入生を紹介するには、ちょうどいい日になりました」


 松岡は続ける。


「それに、武君にとってもちょうどいい。

 今日は、近いうちにヤマト機関の存在が世間に公開される件についても話しますから」


 世界の常識がひっくり返る。


 松岡の声から、その緊張感が伝わってきた。


 重大な発表には、それだけの時間と覚悟が必要なのだろう。


 教室へ着くと、松岡が先に入室し、武は廊下で待機した。


 開け放たれた扉の隙間から、中の様子を覗く。


 中にいる生徒は、日本人だけではないように見えた。


 だが、その違和感を言葉にする前に、日直の号令が響いた。


「起立!」


 生徒たちが立ち上がる。


 松岡と生徒が礼を交わし、着席する。


 松岡が小さく合図を出し、武は教室に入った。


「今日から転入してきた生徒を紹介します」


 松岡の説明の後、武は自己紹介をした。


 教室がざわつく。


 ━━例の転校生だ。


 期待が、空気に混じる。


 松岡が続けた。


「物部君は先日、鬼に襲われましたが、神使の方に救われ、

 その後、高天原に滞在していました」


 一気に熱が上がる。


「やっぱり高天原から来た転校生だ!」


 そんな声が飛び、教室の雰囲気が弾けた。


 武の胸は、緊張の拍を速める。


 松岡に席を示され、武は視線のアーチをくぐって席へ向かった。


 廊下側から四列目、前から五番目。


 座ると、隣の男子生徒が笑顔で言った。


「よろしく」


 来栖 錠だった。


 松岡は、ホームルームを始める。


「近日中に、ククリの力、超人、鬼、そしてヤマト機関の存在を人間社会に発表します」


 教室が静まり返る。


「発表後、この学院も公開される。

 だからこそ、君たちには注意点━━立ち居振る舞いを教えておかねばなりません」


 プリントが前から後ろへ回っていく。


 前の席の女子生徒が振り返り、武へ丁寧に渡した。


「どうぞ」


 微笑みながら、目を大きく開き、武をしっかりと見つめていた。


 他の生徒より肌の色が濃く、褐色で、頬にうっすら赤みが浮いている。


 武は一瞬、見惚れてしまった。


 プリントを受け取り、後ろへ回す。


「ありがと」


 後ろの席の男子生徒が受け取る。


 がっしりとした体格の生徒、赤松忠だった。


 武は前を向き直す。


 赤松の顔立ちは、どこか大人びて見えた。


 プリントの見出しを、松岡が読み上げる。


 武は文字を追った。


 途中で、富樫とがし義人よしひとという名が出てくる。


 ヤマト機関の代表であり、人間社会への公表を行う人物だという。


 松岡は強く言った。


「発表後、人々の関心がこちらに向くのは確実です。

 君たちは島の外に、友人や知人がいるでしょう」


「しかし、自分が超人かどうかの質問には、一切答えてはなりません。

 携帯端末によるSNSの使用も、十分注意すること」


「執拗に迫られた場合は、すぐ教官や先生に相談しなさい」


 武は、鬼に襲われた日以来、会っていない友人たちの顔を思い出した。


 竹中の説明では、表向き、武は事件に巻き込まれて重傷を負い、入院中という扱いになっている。


 プリントの読み上げが終わり、ホームルームは閉じられた。


 日直の号令が響く。


「起立!」


 武も立ち上がる。


「礼!」


「ありがとうございました」


 生徒たちが上半身を傾ける。


「それでは、また明日。

 それから、来栖、赤松」


「はい」


 二人が返事をする。


「先日言った通り、君たちの部屋に物部が入る。

 よろしく頼む」


「わかりました」


 松岡は出口へ向かい、途中で振り返った。


「物部は、いきなりここに来て慣れていない。

 あまり質問攻めにして、困らせないように」


 そう言い残し、松岡は教室を出た。


 だが、その直後だった。


 クラスメイトが一斉に武へ集まった。


 輪ができ、息をつく間もなく質問が飛ぶ。


「なあ、高天原のことを教えてくれないか?」


「神使の方は、どんな格好をしてた?」


「神様は、どんな能力を使えるんだ?」


 武はうろたえ、言葉がすぐに出なかった。


 その時、救いが割って入る。


「まあまあ、みんな待ちたまえ。

 いっぺんに質問してしまっては、答えられるものも答えられないよ」


 両手を広げて前に出たのは、錠だった。


「それに、物部君は今日引っ越してきて、荷物の整理もある。

 今はそっちを優先してもらうべきじゃないかな」


「おいおい、ジョー。

 お前らは同じ部屋だからいいけど、俺たちは今しか聞けないだろ」


「男子はいいかもしれないけど、女子寮の私たちはどうするのよ」


 錠は落ち着いて言う。


「それなら、まず同部屋の僕と赤松から、挨拶をさせてくれないかな」


 錠は身を翻し、武へ向いた。


「僕は来栖 錠。

 よろしくね」


 続けて言う。


「こちらが、もう一人の同部屋の━━」


「赤松 忠だ。

 よろしくな」


 武が挨拶を返すと、錠はすかさず尋ねた。


「君が鬼に襲われた時、助けてくれたのは、

 この前ここに来ていた猫の神使の方かい?」


「いや……。

 助けてくれた神使の方は、大きな狼の方だよ」


「でも、猫の神使の方も、高天原で一緒にいた」


「なるほど。

 やはり、あれが神使だったんだね」


 武は頷いた。


「猫の神使は影康様。

 俺を助けてくれた狼の神使は、白狼様っていう名前だった」


「そんな伝説的なお方に助けられたのか!」


 周囲の生徒たちも反応する。


 白狼の名は、この学院では常識として知られているらしい。


 その時、女子生徒が一人、輪の中から出てきた。


「荷物の整理を優先したほうがいい、だなんて言って割って入るなんて━━

 ただ、物部君に一番早く質問したかっただけじゃない?

 錠?」


 錠の勢いを挫く、その一言の主。


 武の席の前に座っていた、褐色の肌の女子生徒だった。


「ね、姉さん。

 そんな言い方はひどいな、はは……」


 錠は苦笑する。


 二人とも同じ褐色の肌で、丸く大きな目が光を弾く。


「はじめまして。

 私は来栖くるす瑛理子えりこよ」


「物部くんと同じ部屋の、錠の双子の姉」


「はじめまして。

 似ていると思ったら……双子なんですね」


 続けて、錠が言う。


「武君、ジョーでいいよ。

 みんなには“じょう”じゃなくて、“ジョー”って呼んでもらってる」

「でも、姉さんだけは昔から“じょう”って呼ぶけどね」


 瑛理子が小さく肩をすくめる。


「さて、錠。

 確かに同部屋のあなたたちが最初に挨拶するのは道理だけど、

 そろそろ、みんなに譲ってあげないと」


「そうだな、ジョー。

 俺たちは後で部屋でも聞ける。

 一回、交代だな」


 赤松にも促され、錠は一歩引いた。


 すると、我先にとクラスメイトが武へ質問を浴びせる。


 転入生への質問攻めは、どこでもある。


 だが、武の場合は体験が特殊すぎて、勢いも熱量も段違いだった。


 少年少女たちの快活さには、島の外の同年代とは違う力強さがある。


 だが、乱暴なわけではない。


 武は押されつつも、できる限り丁寧に答えていった。


 ようやく質問の波が落ち着きはじめた頃、赤松が切り出した。


「さあ、寮の部屋に行こう」


「お兄ちゃん。

 待って」


 一人の女子生徒が声をかけると、それに答えたのは赤松だった。


「早奈美か。

 どうした?」


「瑛理ちゃんも挨拶したから、

 私も挨拶をしなきゃと思って」


 明るい表情で現れた女子生徒は、そう言ってから武の方へ向いた。


赤松あかまつ早奈美さなみです。

 お兄ちゃんが同じ部屋ですが、どうぞよろしくお願いします」


 大柄な兄に対照的に、妹は小柄だった。


 揃った黒髪が肩まで伸び、すっきりとした小さな顔立ちをしている。


「こちらこそ、よろしくお願いします。

 というと、赤松君たちも双子なのかな?」


「ははっ。

 思ったことを正直に言ってくれていいんだぜ」


「俺と早奈美が、双子に見えないだろ?」


「実は兄は、超人としてククリの力を得てすぐ、

 超人特有の病気にかかってしまいまして」


 早奈美は続ける。


「一年ほど治療に専念する期間があり、

 回復してから、私と同じこの学校に編入したのです」


「そ、それじゃあ……

 赤松君は、一つ年が上ってこと?」


「ああ。

 そうなんだ」


 赤松は肩をすくめる。


「だけど、そんなの気にしないでくれ。

 みんな赤松って呼んでるし、俺も全く気にしていない」


「むしろ、同い年と思ってもらいたい。

 だから、君付けしないで、赤松って呼んでくれ」


 武が赤松に抱いていた第一印象の理由は、

 実際に、赤松が一つ年を重ねていたからだった。


「さあ、寮の部屋に行こう。

 ……ん?

 どうかした?」


 錠が声をかける。


「え……。

 いや、なんでもないよ……」


 武は、確かに視線を感じていた。


 だが、その視線の主は見当たらなかった。


 武は、錠と赤松と共に、寮の部屋へ向かうことになった。


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