1-13 ヤマト機関へ
武の視界は、数秒のあいだ真っ白に染まっていた。
やがて視界が開けると、先日襲われた神社の鳥居の下に立っている。
空を見上げると、陽はすでに高く昇っており、時刻は午前中であることがわかった。
高天原で十日間を過ごしたと聞かされていた武は、確かめるようにポケットからスマホを取り出す。
表示された日付は、鬼に襲われた日からちょうど十日後を示していた。
肌に触れる空気も、あの日よりわずかに暖かい。
——戻ってきたんだ。
そう実感した瞬間、背後から声をかけられた。
「物部武さんですね」
振り返ると、スーツ姿の男性が一礼して立っていた。
「私はヤマト機関の、竹中勉中尉です」
「ヤマト機関の方ですか?」
「はい。
影康様から話は伺っております。
これから、我々の施設までご案内します」
影康の名が出たことで、武は相手が確かにヤマト機関の人間であると判断した。
警戒心は解かずに、促されるまま車に乗り込む。
後部座席に腰を下ろした武は、車窓から流れる景色を眺めていた。
それは、十日前に鬼に襲われた、あの道だった。
康彦から、葦原の国では自分から原始超人の話をするな、と釘を刺されている。
ヤマト機関の人間だと確認できたとはいえ、口は慎重に選ぶべきだと武は自覚していた。
車はやがて、東京湾岸沿いの道路へと入っていく。
この一帯も地殻変動の影響を受けた地域だが、今では新しく整備され、広くきれいな道が続いていた。
進行方向の先に、巨大なシートで覆われた工事現場が見えてくる。
「この先の工事現場に入ります」
「あそこに、ですか?」
「はい。
このまま新夢の島へ向かいます。
表向きは工事中ですが、橋自体はすでに完成しています」
立ち並ぶコーンのあいだを縫うように進み、完全にシートの内側へ入る。
しばらく走ると、視界が一気に開けた。
目の前には、海上を一直線に伸びる巨大な橋があった。
幅は広く、左右には歩道も設けられている。
——これほどの橋が、誰にも知られずに造られている。
ククリの力による隠蔽技術だと理解しつつも、武は不思議と、もう驚かなくなっている自分に気づいた。
橋を渡り切ると、最初の交差点に差しかかる。
正面の先には街並みが見えたが、車は右折し、海岸線に沿う道へと進んだ。
「竹中さん。
ひとつ、質問してもいいですか?」
「はい。
どうぞ」
「竹中さんも……超人なんですか?」
少し間を置いて、竹中は首を横に振った。
「いいえ。
私はヤマト機関所属ですが、超人ではありません」
「超人じゃない方も、ヤマト機関にいるんですか?」
「ええ。
ヤマト機関には、たくさんの“非超人”の職員がいます」
武は驚き、思わず続けた。
「……どうして、竹中さんはヤマト機関に?」
「私の父が、超人だったからです」
竹中は淡々と続ける。
「私は根の堅洲国で生まれました。
人間の世界と鬼の世界、その中間に位置する地域です」
根の堅洲国には、人間界への出入り口が集まる地域があり、そこには多くの人間が暮らしている。
竹中も、そこに生まれ育った一人だった。
「見えてきました。
あれが金鵄夢の島学院です」
「……学校にしては、ずいぶん大きいですね」
車は学院の横を通り過ぎる。
外観は一般的な学校と大差ないが、敷地は異様なほど広く、運動場や見慣れない施設が点在していた。
「さらにこの先が、ヤマト機関の本部です。
あの建物が見えますか?」
竹中は前方を示した。
「あれは中央作戦室です。
ヤマト機関のすべての行動は、あそこで管理されています」
武は、巨大な建物群を注意深く見つめた。
——康彦は言っていた。
自分は、ヤマト機関と完全な協力関係にあるわけではない、と。
その言葉を思い出しながら、武は胸の奥に、かすかな緊張を抱いたまま、車窓の景色を見送り続けていた。




