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僕が君を守るから4

「協力に感謝する」


 デルカンが手を離すと勝手に色々と思い出すことは止まった。

 一通り嫌なことを思い出したミツナは少し落ち込んだような顔をしていた。


「君たちは帰ってもいい。また明日話を聞くことにはなるだろうけどね」


「立てるかい? おっと」


「……ありがとう」


 差し出されたエイルの手をとってミツナが立ち上がる。

 少しふらついてエイルがミツナを支える。


 あんまり嫌じゃない。

 ミツナはそう思った。


 元々警戒心の高かったミツナは冒険者たちに騙されて以来人に触られるのも嫌だったのに何故だかエイルに関しては触れられてもあまり嫌悪感を感じなかった。

 デルカンに触られた時にはしっかり嫌だったのに。


「ごめん、触っちゃった」


「う、うん……大丈夫」


 エイルは触られるのが嫌だっただろうと申し訳なさそうな表情を浮かべる。

 けれどもミツナは前のように歯を剥き出して触るなという気分にはならなかった。

 

「テメェ! 一体なにもんなんだ!」


 立ち去ろうとするエイルに冒険者が声を荒らげた。


「二等審問官だと……そんなもんどこから引っ張り出してきやがったんだ!」


 拘束されている冒険者たちの顔に余裕なんてものはなく、これからどうなるのだという不安で青くなっていた。


「黙らせなさい。すまないね、騒がしくて。今彼らも移送するところだから」


「いえ、動いてくれただけでもありがたいんですから」


「また食事でもしよう。妻も君に会いたがっている」


「時間が合えばぜひ」


「ふふふ、こうして頼ってくれて嬉しいよ。君に少しは恩返しができたからね」


 デルカンは穏やかな笑みを浮かべて手を差し出す。

 エイルは握手に応じて改めてお礼を言う。


「帰ろう」


 騒ぐ冒険者には無慈悲に口輪がはめられて静かになった。

 エイルはいつでもミツナを支えられるように速度を落としてゆっくりと歩いてくれる。


「……どうして助けに」


「話してくれただろ? フィルディア通りの青い屋根の家って。いなくなって、ナイフもないからきっとここに向かったんだろうって思ったんだ」


「そうじゃなくて。助けてくれた、理由」


 見捨てたってよかった。

 きっと冒険者たちも面倒なことにしたくはなかっただろうしミツナのことは放っておいてもよかったはずである。


 奴隷として買われたばかりだし、反抗的な態度だったし、助けに来てくれるような理由なんて思い当たらない。


「助けに行く理由? そんなもの……必要ないだろ?」


「えっ?」


「君が困ってると思った。だから助けに行った……じゃ、ダメかな?」


 なぜ助けに来てくれたと聞かれても少し困るとエイルは思った。

 怪我をしているミツナでは冒険者たちに勝つのは厳しい。


 それに勝てたとしてもミツナは人殺しで捕まってしまう。

 だから止めに来た、そして助けに来た。


「どうして……」


 どうしてそんなことでミツナを助けようなんてできるのか。

 ミツナには理解できなかった。


 神明の獣人であるだけで蔑まれるのにエイルはただミツナが困っているかもしれないというだけで助けようとしてくれた。

 これまでそんな経験がなくてミツナは少し混乱している。


「……じゃあこうしよう」


「ん?」


「君は僕の奴隷だ。だから助けた。それでいいかい?」


「……それもおかしい」


 奴隷の扱いも人によって様々である。

 しかし問題を起した奴隷を大切に守ろうとしてくれる主人がどれだけいるか。


「それでいいんだよ」


 エイルは優しく笑う。

 こんなことをしてもそんな顔を向けてくれるエイルに対してミツナは複雑な感情を感じていたのであった。

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