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問題を抱えた村2

「今はお金に困っていないしな」


 割りの良い仕事に飛びつくほど困っていない。

 良い金額もらえるなら受けてもいいとは思うのだけど、エイルはその仕事を完全に避けることにした。


「それに割りの良い仕事があるってことは人が多いってことだ」


 お金に困っていないだけなら話を聞きに行ってもいいはずである。

 なのに話すら聞きに行かないで北側に行くことにした。


 当然北側を行くことにしたのには理由があった。


「人はあまり好きじゃないだろ?」


 南側に行かなかった理由はミツナのためでもあった。

 割りの良い仕事のために多くの冒険者が集まるだろう。


 ついでに討伐する魔物目的の商人なんかもくる。

 さらには冒険者が集まるということから他にも冒険者や商人目的の商人や人も集まってくる。


「人は人を呼ぶ。今南側に行けば人が多い」


「私のため……?」


「俺もあんまりたくさん人がいるところは得意じゃないんだ」


 エイルは笑顔を浮かべる。

 人が多いということは神迷の獣人に対してよくない目を向ける人も多くなるということだ。


 ただよくない目を向けるだけならいいかもしれない。

 突っかかってくる人もいる可能性がある。


 割りの良い仕事に集まってくる人だと多少柄の悪い人も多く、自分の取り分を増やそうといちゃもんをつけてくることだってあり得る。

 人が多いとそれだけ宿が取りにくかったりと不都合もある。

 

 割りの良い仕事とやらに興味がないなら避ける理由の方が多いのだ。

 ミツナのためであり、自分のためでもある。


「……何だか機嫌良さそうだな」


「えっ? そ、そうでもないよ」


 自分のために色々と考えてくれている。

 そのことが嬉しくてミツナは尻尾をフリフリとしながら歩いている。


 口では否定するけれど尻尾にも顔にも嬉しそうなのが溢れていた。


「あっ、村が見えてきたよ!」


 歩いていると家が見えてきた。

 エイルはチラリと日の位置を確認する。


 想定していたのとほとんど変わらないぐらいの時間で村に着くことができた。

 全体的な移動でみても順調である。


 ミツナは体力もあるし少し大きめな荷物でもひょいと持って歩いてくれる。

 エイルは思わずミッドエルドのことを思い出す。


 一番初めに歩くことを止めるのは魔法使いのセラシオだった。

 足が痛いだの言い出してエイルに荷物を押し付けるのだ。


 魔法使いで非力だから元々荷物を少なくしてあるのにも関わらずである。

 次に文句を言い出すのはケルンだった。


 まだ日が高くても野宿しようと言い出したりする。

 そのくせ野宿するとそのことにも文句を垂れる。


 かと言って歩かせているとしまいにはエイルのヒールが痛くなければなんて言い出すのだ。

 タンク役のガダは寡黙な人だったので文句は言わなかったが二人を諌めることも荷物を持ってくれることもなかった。


 エイルはパーティーでの立場が弱くて何も言えなかった。

 ただ曖昧に笑って野宿をするのか歩くのかを待つしかなく、どちらにしても出てくる文句を言われながら大人しく従うしかない。


 少し頑張ればその日のうちに宿に泊まれたのにワガママのせいで予定が狂うことも多かった。

 その点ミツナの旅は楽でいい。


 互いに文句を言うことはなく雰囲気もいい。

 サクサクと歩いていくし考えていた予定を早めることも遅くすることもできる余裕がある。


 非常に心地いい旅だとエイルは感じていた。


「今日はあそこに泊まらせてもらおう。早いけど次の村は遠いからね」


 予定は余裕たっぷりで組んである。

 村や町を多く通るようなルートを取り、早めに泊まることも想定している。


 いつまでにどこに行かねばならない旅じゃないから修正も容易い。

 目の前にある村の次の村までは距離があって村を通り過ぎてしまうと野宿が確定する。


 たとえ時間的に早くとも村で休んでおくのが体力的にもいいのだ。


「しかし……宿はあるかな?」


 小規模の村だと宿がないということもたまにはある。

 そんな時は村の人の家に泊めてもらったり、村の端の場所を使わせてもらったりする。


 それでもやはり宿に泊まれる方が楽でいいので宿があることを願いつつ村に辿り着いた。


「何だか雰囲気暗いね?」


「そうだな」


 いきなり他人を大歓迎するところなんてほとんどないけれど道中にあるような村は愛想がいい。

 ミツナのことを神迷の獣人だと警戒されることはあるので一概に愛想がいいとはいえないが、この村はエイルとミツナにも無関心だった。


 意図して無視しているわけではなく、何か別のことに気を取られていてエイルとミツナを気にしていないという雰囲気である。


「まあ気にしないでおこう」


 敵意を向けられないのなら村の雰囲気など気にすることはない。

 少し探してみると村の端っこに宿があった。


「いらっしゃい」


 宿に入ると中年の女性が迎えてくれた。


「部屋ありますか?」


「ああ、あるよ。食事は無し、素泊まりだけど大丈夫かい?」


「台所使っても?」


「構わないよ」


 宿もどんなサービスがあるか色々と分かれている。

 丁寧なサービスが売りのところもあれば、部屋を提供するだけのところもある。


 エイルは部屋があるだけありがたいので最低限のサービスでも何も言わない。

 ケルンとセラシオは割と何でも文句を言っていた。

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