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愛のためなら1

「逃すか!」


 イルージュを抱えて逃げる兵士の一団を追いかける。

 最初は抵抗を見せていたイルージュも今はぐったりとしている。


 どうやら気絶させられているようだ。


「チッ!」

 

 ミツナが一番近い兵士を攻撃しようとした。

 しかし兵士はクルリと振り返るとミツナの剣を防ぐ。


 イルージュをさらっているのはただの下っ端ではなさそうである。

 ただ相手には大きく不利なところがある。


 それはまともな鎧を身につけていないということだ。

 ギャルチビーの兵士だろうことはまず間違いないが、人の領地に侵入して襲撃、誘拐を行うのは大きな問題になりかねない。


 倒されて死体を見られても自分たちではないと主張するために兵士らしい鎧もなく武器も有り合わせのものである。

 多分持ち物もほとんどないだろう。

 

 装備が貧弱だからと実力が落ちることはないが、鎧がないと防御は落ちる。


「はあっ!」


 ミツナが時間を稼ごうと立ち止まった兵士の脇腹を浅く切りつける。

 普段なら鎧で弾かれてしまうような攻撃だったが、今は下に薄い革鎧をつけているだけなので肌が切られて兵士は一瞬顔をしかめる。


 攻撃など受けるものではないが防ぎきれない浅い攻撃は鎧で受けてしまうということも技術としてあるのだ。


「ぐっ……!」


「なんだ?」


「毒か!」


 切られた兵士が白目を剥いて倒れた。

 急に倒れたので他の兵士も驚いたようにしている。


 まさかヒールを受けて気絶したなど思うはずもない。

 兵士たちはミツナの剣に強力な毒が塗られているかもしれないと警戒し始めた。


「隙あり!」


 毒ならば掠るだけでも致命傷。

 エイルがミツナに気を取られている兵士の脇腹をナイフで軽く突き刺した。


「今治してあげるよ」


 自分で刺して自分で治す。

 なんだか矛盾した行為だけど仕方ない。


 エイルにヒールされた兵士が倒れてエイルたちはまたイルージュを追いかけ始める。

 時間を稼がれたせいでまた距離が開いてしまった。


「ミツナ、あれを!」


「分かった!」


 ミツナは懐から袋を取り出すと、その中からさらに小さな袋を取り出した。

 小さな袋を大きく振りかぶると投擲する。


「なんだ!」


 兵士の一人が飛んできた小さな袋に気づいて剣で切り裂く。


「粉? チッ……何がしたいんだ!」


 小さな袋を切ると中から白い粉が落ちてきた。

 兵士は粉を警戒したけれど毒物でもなさそうで大きく舌打ちする。


「何人かあいつらを引きつけろ! いつまでも追ってくるぞ!」


 エイルとミツナが食い下がって追いかけてくる。

 イルージュを抱えた兵士が苛立ったように指示を出す。


「警戒しろ、あいつら毒を使うかもしれないぞ」


 三人の兵士が足を止めてエイルとミツナを足止めする。

 先にやられた兵士の様子はしっかり確認していた。

 

 一瞬で相手が倒れるような毒なんて想像もつかないが、攻撃された直後に他の兵士たちは倒れている。

 エイルたちの武器に毒が塗ってある可能性を念頭において戦い始める。


「こいつ……意外と強いぞ!」


 神迷の獣人とはいってもミツナは女である。

 兵士たちは男であるエイルの方を警戒してエイルに二人、ミツナに一人が向かった。


 エイルは二人を相手にしてもまともに渡り合えていた。

 毒を警戒しているために動きがやや悪いということはあるけれど、エイルの実力が高いから戦えているのだ。


 冒険者パーティーのメンパーとして外に出るヒーラーは多くない。

 魔法使いのように後ろにいればいいなんてことはなく雑用をこなしたり、時には戦わねばならない。


 ミッドエルドは強い冒険者パーティーで戦うとなれば相応の実力が必要だった。

 クビになる前はほとんどヒールなんてさせもらえなかったのでエイルも立派な雑用兼前衛だったのだ。


「なっ!」


 エイルは腰からナイフを抜くと兵士の一人に投げつける。


「マズイ……!」


 咄嗟のことで反応が遅れた。

 投げナイフが頬をかすめて兵士は毒の存在が頭をよぎる。


 しかし次の瞬間襲ってきたのは強い痛みだった。

 傷が浅いので気絶するほどのものではないが体の動きが止まるような激痛が一瞬頬に走った。


 毒の影響かと考えたが実際は頬の傷が一瞬で治っていたのである。


「させるか!」


「悪いな!」


 エイルは痛みで怯んだ兵士に切り掛かる。

 もう一人の兵士がさせまいと剣を振り下ろすがエイルは剣をかわして怯んだ兵士の胸を切り裂いた。


 敵である以上ためらったらダメだと学んだ。

 ただ一撃で絶命はさせなかったので運が良ければ生きられるだろうと思った。


「この野郎……」


「二人がかりなんて卑怯だぞ!」


「ぶっ!」


 仲間をやられて怒りの色を見せた兵士であるが周りが見えていなかった。

 すでに兵士を倒したミツナが横から呼びかかってきていて兵士の頭を掴んで顔面に膝を叩き込んだ。


「助かったよ」


「怪我はない?」


「もちろん。ミツナは?」


「私も大丈夫!」


 ミツナが倒した兵士はうつ伏せに倒れている。

 気絶しているのか死んでいるのか知らないが今は確かめている時間もない。


「だいぶ離されたな……急ごう!」


 イルージュを誘拐した兵士たちは森の中に入っている。

 エイルとミツナは追跡を再開した。

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