きな臭さの正体2
「ギャルチビーは結婚を邪魔しようとしているのですか?」
「そういうことになるな。今はまだ証拠がないから確実なことは言えないが……おそらく君が見た綺麗な身なりの山賊はギャルチビーから送り込まれた連中だろう」
ブラチアーノは深いため息をついた。
ギャルチビーが山賊に少し兵を混ぜただけの手駒に任せるはずがない。
本隊がどこかに隠れているかもしれない。
だから早めに移動した。
さらには他の人にギャルチビーから狙われているということを隠す意図もあった。
もし知られてしまえば冒険者が途中で仕事を投げ出したり士気に関わる可能性もあったからだ。
「他の者は?」
「多分気づいてないでしょう」
エイルだって疑いを持つに留まったぐらいである。
他に死体を漁っていたような物好きはいなかったしエイルの周りで気づいたような人はいない。
「シュダルツは何もしないのですか?」
こんな状況ならシュダルツ側から動きがあってもいいのにとエイルは思った。
シュダルツ側から兵を送ってくれてもいいだろう。
「もちろん婿殿の方もギャルチビーのことは警戒している。向こうからも助けを送ってくれる予定だったのだがギャルチビーがそれを許さなかった」
「どういうことですか?」
「表向きは魔物の討伐ということにして国境近くに兵を駐屯させているのだ。だがシュダルツの側では兵を出して討伐が必要なほどの魔物は確認されていない」
「圧力ですね……」
おそらくだがギャルチビーは魔物を討伐する気などない。
目的はシュダルツに対して圧力をかけることである。
なんの理由もなくいきなり戦争を仕掛けるような真似はしないだろうが、これまでの関係を考えるとギャルチビーが攻め込んできてもおかしくない。
シュダルツはギャルチビーの兵を警戒するために動けず手助けできずにいるのだ。
「卑怯な真似を……事情を隠していたことは謝罪しよう。だが仕事を降りないでほしい。どうか娘を無事に送り届けてやってほしいのだ」
ブラチアーノは父親の顔をしていた。
危険を承知で人をかき集めてこうしてシュダルツに向かっている。
襲撃される恐れがあってもブラチアーノが同行しているのは娘の晴れ舞台を見たいためだけでなく自分が同行することで少しでも多くの護衛を連れて行こうとしたのだ。
「……どうして敵同士だったのに結婚することになったの?」
「ミツナ……」
「いいんだよ」
気になったことをミツナはそのまま口に出してしまった。
失礼になるんじゃないかとエイルは焦ったけれどブラチアーノは優しく微笑んだ。
「婿殿の一目惚れだそうだ」
ブラチアーノは枝を折って焚き火に放り込む。
「おかしいと思ったのだよ。向こうから急に近づいてきた。こちらに有利になるような提案をしてきたり……最初は疑ったものだ。イルージュも何かの裏があるのだと警戒していたものだ」
そう昔のことでもないがブラチアーノは懐かしさを覚えて笑う。
「結局婿殿の一目惚れで動いていたと聞いた時には拍子抜けするほど驚いたよ」
イルージュも相手の誠実さに心動かされた。
ブラチアーノも最終的には相手のことを認めて、二人は結ばれることとなったのである。
「見た目が良いから色々な男性に言い寄られてイルージュは少し人に対して心を閉ざしているところがあった。それを溶かしてくれたのが婿殿なのだ」
「素敵な話ですね」
「うん」
「たとえ何があろうと娘を幸せにしてやりたいのだ。頼む……」
ブラチアーノは頭を下げた。
娘のためでも冒険者にも頭を下げられる貴族はそう多くはないのではないかとエイルは思う。
エイルがミツナを見るとミツナは強く頷いた。
「最後までやり遂げます。僕たちの全力をあげてお守りします」
「ありがとう……感謝する」
なんとなく感じていた違和感の正体は分かった。
エイルたちを騙す意図ではなく理由があったものだった。
ならば最後まで仕事はやり遂げる。
ミツナもそのつもりであるようだしエイルはできる限りのことをしようと思ったのであった。




