追い出され、奴隷を買いました4
「分かった、触らないよ。僕はエイルだ」
ミツナの名前は知っているので聞きはしない。
「一体何があったんだ?」
神迷の獣人が蔑まれていて、そのために同族以外を嫌っていることはエイルも知っている。
ただ何が起きたらこんなにボロボロになってエイルに対しても警戒心をあらわにするのかと気になった。
「お前ら人間は卑怯者だ!」
隷属の魔法があるからそうしないだけでミツナはエイルに噛みつきそうに歯を剥き出している。
「よければ何があったのか聞かせてくれないか?」
それはお願いのつもりだった。
ミツナが話してくれるなら聞くし話したくないのなら別にいいとエイルは思っていた。
しかしエイルの口から出た言葉は命令だとみなされてしまった。
「くっ……私は、裏切られた……」
言いたくないと口を閉じたミツナであったのだが、かけられている隷属の魔法が無理矢理ミツナに何があったのかを話させた。
ミツナは元々獣人の村で暮らしていた。
母と二人で慎ましく生活していたのだが、神迷の獣人ということもあって周りからは良い目では見られていなかった。
ミツナの母はミツナに強くなりなさいと戦い方を教えてくれていて、ミツナ自身も周りのことはあまり気にしないように努めていた。
しかしある時母親が亡くなった。
冒険者としてお金を稼いでいたのだがピンチになった他の獣人を助けようとしてそのまま帰らぬ人となってしまった。
まだ子供だったミツナは一人残されて、なんとか物乞いするような形で生きてきた。
ある程度体が成長して自分でも魔物を倒せるようになったミツナは村を飛び出した。
そして一人で冒険者としてなんとか身を立て始めたのであった。
一人で出来る依頼をこなして身を立てるのは大変だったけれどなんとかミツナはやっていた。
そんな時にミツナに声をかける人間の冒険者がいたのである。
人間にも良い顔をされていなかったミツナは警戒していたのだけどお金も欲しかったので加わることにした。
普通のパーティーならリーダーとなる冒険者を決めてその人が以来の責任を負うことになっているのだけど、その冒険者パーティーは責任者を持ち回りでやっていた。
ミツナもリーダーとして責任を負うことがあったが普通に依頼を成功させていたので最初に抱いていた疑いのようなものもいつしか消えていった。
そんな時に事件が起きた。
「思い出すと今でも悔しい……」
ハイリスク、ハイリターンの依頼がたまたまギルドの方に出ていた。
失敗すると法外なお金を請求される代わりに成功すれば一介の冒険者じゃ手に入れられないようなお金が手に入る。
ミツナはそんな危険なことに手を出したくなかったけれどパーティーの総意で依頼を受けることになった。
そして偶然その時がミツナが責任者となる番だった。
嫌だった。
けれどもはや一人で冒険者を続けていく勇気もなくてミツナは依頼書にサインしてしまった。
結局依頼は失敗した。
依頼の内容としても高難度でミツナたちではとても成功するものじゃなかったのだ。
「私は見捨てられた……魔物の前に捨て置かれて、あいつらは逃げたんだ」
全滅しかけた状況で冒険者が取った行動はミツナを犠牲にすることだった。
突然仲間の冒険者に目を突き刺されたミツナはそのまま魔物の前に置き去りにされた。
ただ運がいいのか悪いのかミツナは痛み無効というスキルの持ち主で腕を食いちぎられながらもなんとかその場から逃げることに成功した。
「ただ……あいつら最初からそのつもりだったんだ」
命からがら逃げたミツナだったが受けたダメージが多すぎて高熱を出して寝込んだ。
なんとか熱が下がって冒険者ギルドに行ってみると依頼失敗の責任者としてミツナに多額の請求が来ていたのである。
どこからそんなことを考えていたのか分からない。
けれど冒険者は最初からどこかのタイミングでミツナに責任をなすりつけるつもりだったのだとその時に理解した。
お金を払えるわけもないミツナは他の冒険者たちにも負担させようと冒険者が拠点としていた家に向かったのだけどすでにもぬけの殻であった。
ミツナは冒険者たちのことを探した。
「フィルディア通りの青い屋根の家……」
必死に探してようやく隠れていたところを見つけたタイミングで支払いの期限が訪れてしまい、お金を払うことができなかったミツナは奴隷として拘束されたのである。
「……そいつらのことをどうするつもりだ?」
「殺す……私をこんな目に合わせた責任を取らしてやる」
当然の怒りであるとエイルは思う。
けれど片腕もなく、複数人相手にミツナが勝てるとはエイルには思えなかった。
それにただ襲い掛かれば悪者はミツナになってしまう。
「まあ復讐するのもいいけど……ふぁ……」
お酒のせいなのか眠くなってきてしまった。
ミツナの話を聞いてそんな卑怯な真似をする連中は許せないなとエイルも思った。
しかし単純な暴力で解決することはできない。
「まあとりあえず好きにしててくれ。テーブルの上の袋にはパンとかあるから食べてもいいし。俺は少し寝るよ」
どうにも眠気に抗いがたい。
エイルは少し寝ることにしてベッドに横になった。