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追い出され、奴隷を買いました1

「お前のヒール痛えんだよ!」


 そう言って殴られた。

 依頼をこなして町に戻ってきて、パーティーリーダーであり前衛で戦う剣士のケルンの腕の傷を治してあげた直後のことだった。


「もうお前はクビだ! 俺のパーティーから出ていけ!」


「なっ……ヒールなんて痛いのが当たり前……」


「こっちが死ぬほど痛いヒールなんてお前のものぐらいだよ!」


 周りにいる他のパーティーメンバーにすがるような視線を向けるけれど、みんなと同じ気持ちなのか冷たい視線を返してくる。


「そんな……俺のおかげで……」


「はっ、お前のおかげ? こっちはお前の痛いヒールも耐えてやってたんだよ!」


「ヒールだけじゃない……俺だって戦ったり……」


「そうね。私もあなたのヒール痛くて嫌い」


 反論の言葉も聞いてもらえず魔法使いのセラシオが吐き捨てるように言った。


「……有用なのは分かっているが時として耐えがたいこともある」


 一番痛みに強いはずのタンクであるガダもゆっくりと首を振りながらみんなの意見に同意する。


「出ていけ。お前はもう俺たちの仲間じゃない」


 冷たく突き刺さるような言葉。

 どんなものよりも今一番心が痛い。


「もうお前のヒールは受けられない」


 歯を食いしばり、血が滲むほど手を握り締めて涙を堪える。

 色々と出かかった言葉はあるけれどみんなの意思が固くて聞く耳を持ってもらえそうになかった。


 ヒール以外もしていた。

 戦ってもいたし身の回りのこともしたし、みんなのことを支えられるようにと努力もしてきた。


 それなのにヒールが痛いということだけをあげつらって責められたことに大きなショックを受けざるを得なかった。


「分かった……今までありがとう」


 なんとか絞り出すように別れの言葉を口にした。

 こうしてエイル・クルイロウはパーティーを追い出されたのであった。


 ーーーーー


「んだよ……俺がしたくて痛くしてるわけじゃねぇっての」


 酒場で強めの酒を一気に飲み干す。

 普段はあまりお酒を飲まないので知らなかったけれど意外と自分が酒に強いようだとエイルは初めて知った。


 めんどくさい体質だとため息をつく。

 さっさと酔い潰れられれば気持ちも楽になったかもしれないのに。


「ミッドエルドが新しいヒーラー募集してるってよ」


「へぇ、なんだ、ヒーラーやめたのか?」


「さあな。まあ俺らヒーラーじゃねえけど」


「嫌われる職業だからな。でもミッドエルドならいいかもな」


 ふと近くで酒を飲む冒険者の話が聞こえてきた。

 上級冒険者パーティーミッドエルドは多くの人の注目の的である。

 

 彗星の如く現れた新進気鋭のパーティーでこれまで一度の失敗もなく魔物の討伐依頼をこなしてきた。

 エイルは少し前までそのミッドエルドの一員だった。


 もう噂が広まっているのかと驚く。

 あまりに話が早い。


 もしかしたら前々からクビが決まっていたのかもしれないなとエイルはため息をついた。


「すまない、もう一杯くれるか?」


 この世界にはスキルというものがある。

 人は最低でも一つスキルを持っていて、スキルが人生を決めるなんていう人もいる。


 最大三つまでスキルを持てるとされていて、魔物を倒したり修行していたりすると新しくスキルが増えたりすることがある。

 多くの人にとってスキルは大切なものである。


 一部の職業においてはスキルが絶対的な存在にすらなっている。

 魔物と戦うことになる冒険者という職業でもスキルは非常に大切で、スキルによって役割が決まってきてしまう。


 特定のスキルが必要な職業の代表としてヒーラーが挙げられるだろう。

 ヒールを行うためにはヒールを行えるスキルが必要となる。


 そのために人の怪我などを治すヒールの力を持つヒーラーは世界において人数が少なく希少である。

 貴重なのにも関わらずヒーラーは割と嫌われる傾向にあった。


 なぜならヒールが痛いから。

 怪我を治す代償として大きな痛みが伴うのである。


 その場ですぐに怪我を治してくれることはありがたい。

 けれども怪我と同じような痛みが全身に走るものだからみんなヒーラーを利用したがらない。


 エイルもヒーラーだった。

 ヒールの能力だけでいったら誰にも負けない自信がある。


 どんな怪我でも、あるいは手足が無くなっていようと治してやれる。

 だがその代わりエイルのヒールには激痛が伴った。


 他のヒーラーよりもはるかに痛く、エイルが全力を出してしまうと痛みによるショック死が起きてしまうぐらいだったのである。

 だからクビになった。


 ヒールが痛すぎるという理由からエイルはミッドエルドを追い出されたのだ。


「どうしろってんだよ……」


 新しく運ばれてきた酒はゆっくりと飲む。

 決して美味しいなんてことは思わないが、酒が喉を通り過ぎる時の熱さがほんの一瞬だけ辛さを忘れさせてくれる。


 普段からヒールの強さは抑えていた。

 しかしエイルのヒールは強すぎて抑えてもなお痛い。


 わずかな時間の痛みに耐えれば跡もなく傷が治るのだからいいではないかと思うのだけど、人はヒールの痛みにも耐えられない。


「何するかな……」


 良く悪くもミッドエルドは有名である。

 エイル自身は影が薄い方だったのでエイルの顔を見てすぐにミッドエルドの一員だと気づく人は少ないだろうけど、調べようと思えば簡単に調べられてしまう。


 そもそも痛すぎるヒールのヒーラーを雇ってくれるところなんかあるのだろうかと頭の中で諦めにも似た考えが浮かんでくる。

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