第3話 奴隷を買ったクズ男
朝の光が窓から差し込む。
私は静かに目を開け、天井を見つめた。見慣れない部屋。古びた木の壁と、少し湿った空気。どこか薄暗いけれど、奴隷市場よりはずっとマシだ。
男は、まだ眠っていた。
ぐうぐうと大きな音を立てて寝ているその姿は、滑稽に見えた。顔はくしゃくしゃで、髭も剃っていない。昨日の酒の匂いがまだ漂っている。
私はそっと体を起こし、部屋の中を見渡した。簡素な家具に、散らかった机。生活感はあるが、決して裕福な暮らしではないことが一目で分かる。
この人、本当に何を考えてるの?
昨夜の出来事を思い返す。あの人混みの中で、なぜ私を選んだのか。私に何を期待しているのか。
私は奴隷だ。命令されれば従う。それが私の役割。
しばらくすると、男がうめき声を上げながら目を覚ました。
「う、うう……頭いてぇ……」
彼は顔をしかめながら、のろのろと体を起こす。その様子を私はじっと見つめていた。どうするべきか分からず、ただ静かに。
男の目が私に気づいた瞬間、その顔が凍りついた。
「…………は?」
私は何も言わず、ただ見つめ返した。すると彼は額を押さえ、昨日の記憶を必死に辿っているようだった。
「お……お前、誰だ?」
その質問に答えるべきか迷ったが、私は口を閉ざしたまま、首を少し傾けるだけに留めた。彼は混乱した様子で、ぶつぶつと独り言を呟き始める。
「買った……俺、こいつを……買ったのか……?」
自分で言っておいて、今さら何を驚いているのだろう。私は心の中で小さく溜め息をついた。
しばらく沈黙が続いた後、男は深く息を吐き、顔をしかめた。
「……ああ、もう……どうすりゃいいんだよ……」
その言葉には、心底困り果てた様子が滲んでいた。私は少しだけ興味を持ち始めた。この人は、普通とは違う。私をどう扱えばいいのか、本当に分かっていないのだ。
すると突然、男が立ち上がり、私の前にしゃがみ込んだ。
「……決めた。」
彼の目は、ようやく何かを見つけたように輝いていた。
「お前を育てて、高く売る。」
その言葉に、私は少しだけ眉をひそめた。
――やっぱり、この人はクズだ。
私はただ静かに、彼の顔を見つめ続けた。
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