第1話 お前を育てて、高く売る
「う、うう……頭いてぇ……」
朝の光が容赦なくカイルの顔を照らしていた。乾いた喉と鈍い頭痛が、昨夜の飲みすぎを物語っている。布団の中でうめきながら、彼は無理やり体を起こした。
視界がぼやける。
頭が重い。
吐き気がこみ上げてくる。
「……最悪だ……もう酒なんて……」
そう呟きながら、水を求めて台所へ向かう。だが、そこに見慣れない影があることに気づいた瞬間――彼の思考は一気に冴え渡った。
「…………は?」
部屋の隅。
小さな影が静かに座っている。
少女だ。
昨夜、奴隷市場で見た、あの少女。
「お……お前、誰だ?」
少女は無言のままカイルを見上げる。表情は読めない。だが、その存在感だけは確かにそこにあった。
カイルは額を押さえた。昨日の記憶が断片的に蘇る。
酒場。
奴隷市場。
そして――
「買った……俺、こいつを……買ったのか……?」
現実を受け入れるのに、しばらく時間がかかった。だが、逃げても仕方がない。事実は事実だ。
深いため息をつき、カイルは頭をかきむしる。
「……ああ、もう……どうすりゃいいんだよ……」
部屋の隅で黙って座る少女を見つめながら、カイルはしばらく黙り込んだ。頭の中で計算する。養う金も余裕もない。返品なんてできるわけがない。
だが――ふと、一つの考えが頭をよぎった。
「……決めた。」
カイルは立ち上がり、少女の前にしゃがみ込んだ。
「お前を育てて、高く売る。」
無言の少女の瞳が、わずかに揺れた。
だが、カイルはそれに気づくこともなく、大きなため息をついて立ち上がった。
新たな生活が、静かに、しかし確実に始まろうとしていた。
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