閑話 魔法具と作業台(現在)
リィナは、カイルの作業台を覗き込みながら、小さな部品を指先で転がした。
机の上には、魔力を帯びた金属片や、水晶の欠片、細かい魔力回路が彫り込まれたプレートなどが無造作に置かれている。
以前なら、それが何の役に立つのかもわからず、ただのガラクタにしか見えなかった。
しかし、今は違う。
「カイルさん、これってどういう仕組みなんですか?」
興味津々といった様子で、リィナは小さな水晶のような部品を手に取る。
カイルは煙草をくわえたまま、ちらりと彼女を見る。
「どれのことだ?」
「この魔力増幅石の部分です。魔力を集める役割があるんですよね?」
カイルは少し驚いたように目を細めた。
「……お前、そんなことまで覚えたのか」
「はい。カイルさんの仕事を見てるうちに、気になって」
リィナは照れくさそうに笑う。
「昔は、魔法具なんて使うものだと思ってました。でも、壊れるものなんですね。そして、それを直す人がいる」
カイルは煙を吐き出し、指先で水晶を回した。
「お前がそんなこと言うとはな」
「どういう意味ですか?」
「いや、昔はお前、こんなの見てもさっぱりわかんねぇって顔してただろ」
リィナはくすくすと笑う。
「そうですね。でも、見てるうちに少しずつ覚えてきたんです」
彼女は慎重に水晶を光にかざした。
かすかな傷があるのがわかる。
「これ、ちょっと欠けてませんか?」
カイルはそれを指で弾き、満足そうに笑った。
「お前、よく見てんな」
「え?」
「この傷が原因で、魔法具が動かなくなってるんだよ」
リィナは目を丸くした。
「えっ、本当ですか?」
「本当だ。こういう小さなひび割れが、魔力の流れを阻害する。だから、適当に直せばいいってもんじゃねぇ」
カイルは慎重に水晶を削り、新たな魔力回路を形成していく。
リィナは、その作業を目を輝かせて見つめていた。
「……カイルさんって、本当にすごいですね」
「そうか?」
「はい。私、もっと勉強してみたいです。いつか、カイルさんの役に立てるように」
カイルは少し驚いた顔をしたが、すぐに飄々とした笑みを浮かべた。
「まぁ、気が向いたらな」
リィナは微笑み、作業をじっと見守る。
かつては未知の世界だった魔法具の修理が、今では”知りたいこと”になっていた。
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