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ラビット•レコード  作者: 怒雲
零章『始まりの雨』
1/3

プロローグ

 そこは<地獄>だった。









 尤も──。少女はそこが地獄だとすら知らなかったが。









 仲間が。家族達が。そこで死んでいた。




 生き物から、ただの物に成り下がったモノたちは──。凄まじい速度で綻び、腐り、溶けて。泥へと変わる。










 腐敗した肉の水溜り。腐肉の湖。死の海。膿。




 腐った汚物に消毒液と消臭剤を吹き散らした様な臭いが、鼻腔を突き刺す。









 もそうなる。しもそうなる。


 あたしもそうなる。いずれ、きっと。




 それは当たり前だった。



 でも、だから、願って、祈った。





 そんな小さな手を、祈りを。ちょっと大きな掌が包み込んだ。




 救い出してくれる手。自分よりかは大きくて優しい背中。










 闇の中で走る足音。引かれる身体。





 不意に、暗闇の中で力が消えて。だらりと少女の身体ごと、力なく闇の中に落ちる。






 優しい背中は、消えていた。









 倒れた小さな少女には、手だけが。その小さな手には、まだ手が握られていた。


 そして、意識を手放して………救われる様に、その小さな身体は誰かに拾い上げられて───。














 





 ───ふぅ、と息をひとつ。部屋から出たエリエルは天を仰ぎ、少し目を瞑る。




 思ってるよりずっと、異常なモノをあの子は背負っているみたいだ。



……どれだけの事をしてあげられるだろうか?



 不安はあるが、とりあえず今はまだ大丈夫。だと思う。



 よし、と一言。エリエルは階段を降りて厨房へと向かう。



 芳ばしい香りが鼻腔を満たす。



 パンの焼ける匂い。丁度いい感じだなと、エリエルは思った。



「…………あの子、落ち着いたか?」



 のほほんとした調子で厨房にやって来たエリエルに、丁度一仕事終ったキールは軽く息を吐いた。



「まぁ、一応。ただ、あの子は随分とヘビーそうですねぇ」



 そう言って、エリエルは少し目を細めた。



「……あの子、ブイって名乗りました。でも、ブイって言うのはどうやら、番号の事らしいです」



 番号、という単語に、キールもまた顔をしかめた。



「……それは、なんというか……想像してたより、ずっと……」



 言葉に詰まっているようだ。平和な世界で暮らしてきた自分たちにとっては、余りにも、場違いすぎる。それはエリエルも言葉にせずとも、感じていることだった。



「未来は現実的ですか?」


「車もしばらく、空を走る予定もなさそうだしな」



 茶化すエリエルに、応えるキールは珍しい反応だ。



「もう少ししたら、迎えに行きましょうか。ブイちゃんを」



 エリエルはいつも通りの笑顔でおどけて見せたのだった。



























 

〈ラビットレコード〉


 プロローグ『脱兎』










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