第32.5話 幕間 中学生の頃の話~お兄ちゃんは友達が少ない③~
「やぁ優愛ちゃん! こんにちは!」
何度目かはもう忘れたが、今日も優愛ちゃんのお見舞いに来た俺とノノ、そして勇人。
「こ、こんにちは……」
今日の優愛ちゃんはウィッグを付けていた。
ピンクと水色の凄いカラーリング……。
「それってもしかして!」
「え? あ、うん……レイジさんが好きなゲームの――」
うはっ! まじ感動なんですけど!
「おはこんバイハオ!」
「……お、おはこんバイハオ……」
そのキャラの有名なセリフ!
高まるーっ!
「に、似合う……?」
「似合う! めっちゃ似合う!」
「か、かわいい……?」
「かわいいってレベルじゃないって!」
「……そ、そう……」
「元々かわいいけど! それに輪をかけてぐべっ!?」
な、なぜだノノさん……?
「落ち着け」
「……」
た、確かに興奮しすぎたかもしれん……。
◇
「それでね、お兄ちゃんたらね――」
他愛もない会話、病室もなんとなく明るい気がする。
「え、よくそれで生きてたね」
「お兄ちゃん、体だけは昔から丈夫なの!」
轢かれそうになっている猫を助けるためにトラックの前に飛び出した勇人、何の冗談かトラックの方が吹き飛んだらしい。
残念ながら異世界転生とはならなかったようだ。
「丈夫すぎ」
「ほんとに! きっと私はお兄ちゃんに体力を吸われたんだわ!」
「あははっ!」
反応しにくっ!
ノノは笑ってるけど!
「あ、あれはたまたまだよ!」
「たまたまでトラック吹き飛ばせてたまるかよ」
そんな会話が続いていたが――。
「……」
ふいに勇人が病室を出ていく。
トイレだろうか。
それにしては……。
「ちょっとトイレ行ってくるね!」
「いっトイレ」
「いてらっしゃーい!」
ノノと優愛ちゃんの声とともに病室を出る。
優斗は……?
いた、やはりトイレではなく階段の方へ向かっている様子。
「……追いかけよう」
余計なお世話かもしれない、勘違いかもしれない。
それでも、何となく放っておけなかった。
「おい、勇人! どこへ――」
「――っ! す、少しだけ外の空気をね!」
そう言って走り出す勇人。
一瞬振り返ったその顔は……。
「お、おい! 待てよ! 何で泣いてんだよ!」
「泣いてなんかないさ! 零士は優愛と一緒にいてくれよ!」
「いやいや、何を言って……って、速っ!」
病院の階段をあっという間に駆け下りていく勇人。
俺が玄関に着いた頃には……既に100mは離れているであろう歩道を走っていた。
「えぇ……」
体が頑丈とかそんな次元じゃなくない……?
そいえばあいつ、空中で体勢を変えてたりしたっけ……。
「……もう間に合わないか……」
小走りで玄関を出たものの、既に勇人の姿は見えなくなって――。
「いてっ! いててててっ!? な、何だぁっ!?」
「ガァー! ガァー!」
あきらめて呆然としていた俺をカラスが突っついてきた!?
「はぁ? 何だよお前ら――いでっ!」
「ガァー!」
何となく、どうかしてると思うが本当に何となく、勇人を追えと言われている気がした。
「ちくしょー! カラスだけに!」
「ガァッ!? ガァーッ!」
勇人を追って走り出した俺を尚も激しく突っつくカラス!
ふざけんなよもう……。
◇
「……ふぅ」
どれほど走ったか、見たこともない公園のベンチ。
勇人はそこにいた。
「……何か光るものでも見つけたかい?」
「……零士……」
まるで出会ったときとは逆、勇人が世界を呪う勢いで暗い顔をしていた。
「……どうしてここが……?」
「カラスに追いまわされ、猫に威嚇され、犬に追い回されてだが?」
最後のワンちゃんの飼い主が会釈して帰っていくのを、手を振って見送る。
……一体どういうことだってばよ……。
「……少し、1人にして欲しかったんだけど……」
「……」
うむむ……追いかけてこない方が良かったかな……。
けど……放っても置けなかったんだ。
「優愛ちゃんの言葉を気にしてるのか? あんなの冗談じゃないか」
「……優愛は冗談だっただろうね……」
「だったら――」
「君も……君も知っているだろう!? 僕の異常な身体能力を!」
体育でも見かけた足の速さやここに来るまでの速さ、そして以前俺を助けた時のことを言っているのだろう。
トラックの話も本当ならば……それは確かに異常なことだ。異常すぎる。
「そんなことないってわかってる! ありえないってわかってる! だけど――!」
「……」
「だけどっ! 僕が妹の分の力を……体力を奪ったんだって! 思わずにはいられないんだよ……っ!」
「……」
「優愛が病気で苦しんでるのに! 僕は風邪ひとつ引かない! 優愛の病気が治ってまた再発して……それなのに僕は車に轢かれても怪我ひとつしない!」
「……」
「何で僕だけこんななんだよぉ! おかしいだろ! 優愛にあげてくれよっ! こんな力いらないっ! 僕なんか……僕なんか――っ!」
「――ッ!?」
その言葉の先を聞いてしまったら……そう思ったら、殴ってしまっていた。
「――っ、はは……君も失望したよね……僕なんかのこと……」
「――っ!」
もう1度殴りつける。
不思議と涙が出てくる。
「……さすがに痛いよ……」
「うるせぇっ!」
今度こそ、どうして殴ったかわからない。
わからないけど……。
次第にユートもやり返してくる。
「いっでっ!」
「痛いのは僕の方だ!」
いやほんと! こいつのパンチまじで痛い!
「殴れば解決するとでも思ったのかい!?」
「そうだよ!」
「浅はかだ! まさかそんな浅はかなことを君が考えるなんて!」
「浅はかで結構! 俺は馬鹿だよ!」
「何で優愛はこんな奴なんか……! くっそぉーっ!」
……。
……。
……。
殴りつかれた2人、互いに仰向けに倒れている。
辺りはすっかり真っ暗だ。
今日のところは……どうにか引き分けだぞ!
「……本当に、強いな」
「……」
「もし俺にそんな力があれば……いつでもノノを守れるのに」
「……羨ましいかい? あげたいくらいだよ」
本当に欲しい。何ならノノに分けてやって欲しい。
だけど……。
「……どうして、優愛ちゃんのための力をくれるんだ?」
「……優愛の、ため……」
「退院してからの生活も大変だろうし、危険は病気だけじゃない……何ならお金も楽に稼げそうだし……」
「……」
難しいことはわからない。けど……こいつが自分のことを卑下するのは許せない。
こいつはいつだって優愛ちゃんのために全力で――。
「――あ、そうか! わかったぞ!」
「……何だい急に……」
「お前が優愛ちゃんの体力を奪ったんじゃなくて……体の弱い優愛ちゃんが、こいつのところなら大丈夫だな、安心だなって! お前のところに来たんだよ!」
「……ぁ……」
きっとそうだ! 優愛ちゃんは……ユートのこと大好きだもの!
「……ぁ……ぁぁ……ぁ……ああああああっ!」
「お前は強いし優しいからな!」
「あああああああっ!!!」
「それでも悩んだり大変だったら、言えよ!」
俺たちは……。
「友達、だからな!」
読んで下さりありがとうございます(/・ω・)/
今回の小話は以上となります。
今日はまた夕方以降に更新しますので、ぜひぜひまた来てください!
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