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第十三話 嫌なやつ

「これにて職業:ゆうしゃ試験を終了する!合格した者は後日発行される免許証を受け取りに来るように!」


 その一言を以って、職業:ゆうしゃ試験は無事終了とあいなった。

 結局、今回の勇者タイプ試験における合格者は僕のアルスくんの二人の他は、三人だけだった。


 合格した者、不合格だった者。

 悲喜交々の中、僕はというと見事合格を掴み取った喜びに舞い上がり、口角が吊り上がるのを止められない。


 そうなるはずだったのだが、


「どうなってやがるユウ、テメェ!?」

「ひえっ」


 勝利宣言をかまされたことで怒りが頂点に達したのか、悪鬼羅刹の類を思わせる形相をしたアルスくんに詰め寄られていた。

 だが疑問が湧くのも理解できる。

 無能なはずの僕が何故。昔の僕を知っていればいるほど、そう思って当然だった。


「聖剣もない、魔法も使えないテメェにどうしてあんな芸当ができんだ、あぁ!?」

「それはまあ色々あって出来るようになったというかなんというか」

「色々ってなんだ!?」

「様々なこと……?」

「様々ってなんだ!?」

「……色々なこと?」

「循環論法で誤魔化してんじゃねぇ!」


 流石は座学でも学園トップクラスの天才児。この程度で煙に巻けるような相手ではないらしかった。

 しかしどうしたものか。

 今の僕なら無理矢理抜け出すことも訳ないが、執拗に後を追ってきそうで怖かった。


 どう対処すればいいか悩んでいた、その時だった。


「よう、ユウ。合格おめでとさん」

「お疲れ様です、ユウ様」

「し、師匠!?それにボンゴレちゃんも……」

「あ!?ンだテメェら!?」

「いきなり口悪いなコイツ」


 賢者とボンゴレちゃんが現れたのだ。

 迎えに来てくれたのだろう。どうすればいいか困っていたので本当にありがたかった。この流れに乗じておさらばさせてもらおう。


「ぼ、僕の知り合いだよ。二人とも迎えに来てくれてありがとうございます。じゃあアルスくん、僕はこれで」

「おいおいどうして逃げるんだ?自分より格下の元いじめっ子に背を向ける理由なんてないだろ」

「ちょ」


 去ろうとしていたのに賢者が余計な一言をぶち込んでくれた。

 この人は下手に自分が圧倒的強者だからと怖いもの知らずなところがあるが、それで被害を受けるのが僕である時は心底大人しくしていてほしかった。

 というか、何故彼がいじめっ子であることを知っているのか。問いただしたかったが、そんなことより気になる人が目の前にいた。


 案の定アルスくんは頭にキたようで、傍から見ても分かるくらい額に青筋を浮かべてブちぎれていた。

 170㎝半ばの体躯が賢者を見下ろし、ガンを飛ばす。


「ガキはそっちの方だろが!俺が誰だか分かってンのか?王立勇者学園を主席卒業し、就職早々Bランク確定で、将来はあの『賢者』すら超える天才勇者だぞ!?」

「ほー、賢者を超えるねぇ」

「四属性に適性があり、上級魔法も扱える!その俺に向かってよくもまぁ偉そうにできるなぁ?」

「すごいすごい」


 字面だけでも相当馬鹿にした風だが、音声をつけるとすごいすごいという言葉の合間合間に明らかに相手を馬鹿にしたような半笑いの語調が追加される。

 あからさまに煽っていると誰もが理解できた。

 当然煽られているアルスくんも、怒りが骨の髄まで焼き尽くすくらいに理解できたようだった。


「テメ──」

「ちょ、師匠!なんでそんなに煽るんですか!?」

「決まってんだろ。不肖我が弟子の成り上がり物語における序盤の試練其の一だ」


 賢者は僕とアルスくん、二人を指し示すと、


「こんな試験じゃロクに強さ比べなんてできねぇだろ。どうだ?どっちが上か、戦って白黒つけるってのは」



 職業:ゆうしゃの合否を決める試験の演習場は、普段は勇者同士の模擬戦闘や周囲に多大な被害を及ぼす技や魔法の試し打ちの場として活用されていた。

 というより、そちらが主目的として建設された。

 当然と言えば当然だ。年に一度しか開かれないイベントの為にわざわざ巨大な建造物を建てるのはコスパが悪すぎる。

 人口過密地域で土地もそう広くはない王都だからこそ、土地建物は有効活用していかなくてはならない。


 そんな演習場にて、一つの模擬戦が開かれようとしていた。

 その当事者の片割れである黒髪の少年こと僕は、控室で頭を抱えながら震えていた。


「ま、まままままさか僕がアルスくんと戦うなんてててててて」

「可哀想なユウ様。同情します(^▽^)」

「帽子の顔めっちゃ喜んでるんだけど……?」

「気のせいでしょう」


 気のせいなら仕方ない。


「なにビビってんだ。オマエが試験会場に入ってから一部始終見てたが、啖呵も切れたし本番でも目にもの見せてやった。十分張り合ってたじゃねぇか」

「やっぱ見てたんですね……その、間接的な勝負ならまだしも直接戦うとなるとやっぱりまだ怖いといいますか」


 勇者学園は他の教育施設と照らし合わせると、初等教育と中等教育に力を入れており、高等教育以降は重要視されていない。

 名門故か、成人年齢となる15歳を過ぎれば一人前の勇者として羽ばたくべしという昔ながらの思想が強い学園なのだ。


 そんな中で、彼は中等部から入学してきた途中入学者だった。

 難関試験を突破して才能があると見込まれたから入学できたのだ。相応の実力は持っているが、やはり初等部からの進学組に比べれば劣る。

 平民と貴族という家柄の差もあれば尚更だ。

 それが昔からの常識だった。


 しかしアルスくんはその常識を覆した。

 途中入学でありながら類稀なる才能で他を圧倒し、入学から一年で学年どころか学園でも主席の成績を叩き出したのだ。

 四属性適正持ち。

 剣技と魔法の両方において一位。

 学生の身でありながら中級攻撃魔法を修め、上級魔法すら操る天才。


「……本当に嫌なヤツです、けど。実力は本物なんです」

「まあな。オレも試験を見てたから知ってるよ。あの歳で混沌魔法に行き着いてんのは紛れもない天才だ」

「混沌魔法?」

「火、水、風、土の基本四属性の魔法を全く同じバランスで混ぜ合わせることで発生する反発力を攻撃に転化する魔法だよ。オレでも習得にはちょっと苦労した」

「具体的には」

「一週間くらいだったかなぁ」


 賢者も賢者で天才マンだった。


「そんな相手に勝てるんでしょうか」

「勝てる」


 零した弱音を、賢者は真剣な顔つきで否定した。

 そこに虚偽や虚飾はなかった。心から僕の勝利を信じて、否、確信しているようだった。


「四属性適正がなんだ。オレは全属性適正持ちの賢者様だぞ?そのオレが勝ちを保証してやってんだ、胸張って行ってこい」

「私も応援しております。初対面の相手への口の利き方がなってないあの失礼人間を分からせてやってください、ユウ様(`^´)」

「師匠、ボンゴレちゃん……!」


 後者の台詞は純粋な応援として受け取るには少々私怨が混じりすぎていたように思えるが、細かいことは気にしない方がいいとこの三か月の生活で思い知らされたので、素直に受け取っておくことにした。


「信じてるぞ、ユウ」

「……はい!」

 

 学園主席の天才、アルス。

 昔の僕では逆立ちしたって勝ち目のない絶望的な強敵。

 けれど、今の僕には聖剣がある。培ってきた経験と、積み重ねてきた努力がある。

 勝ってみせる。

 その思いの下、僕は演習場の方へと一歩を踏み出した。

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