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第七話 根暗な私と許嫁!?

前回までのあらすじ!

 根暗な私に突然、許嫁ができました………………。


『だって日和は俺の“許嫁”だぜ?』

 そう私に言ってきた男子がいた。金髪でチャラくて、俊介くんとは正反対な性格をしてそうな男子…………そんな人が私のことを“許嫁”と呼んでいた…………。

「まさか、ヒヨリンに“許嫁”がいたなんてね〜」

「そ、それは私も知らなかったというか……」

 私と佐山さんはそんな会話をしながら、図書室で勉強をしていた。野上竜也と名乗る彼に突然抱きつかれた私はその光景を俊介くんに見られ、その上、俊介くんの前で彼は私を“許嫁”と呼んだ。そして、俊介くんは私たちと勉強会をするはずだったが、そのまま帰ってしまった………………。

「俊介くん……大丈夫かな……」

「だ、大丈夫だよ! きっと…………」

 帰り際の彼はなぜか悲しい目をしてた。

「ん〜! もういい! 今日はもう終ろう!」

 彼の顔を思い出して私まで悲しくなっていると、佐山さんが声を荒げて言った。

「え、でも……まだできてないんじゃ……」

「もうそんなのどうでもいいよ!」

 ど、どうでもいいことはないはずでは……?

「俊介くんが来るまで勉強会はなし! いい?」

「え、あ、はい…………」

 何という提案なのだろう…………まぁ? 私が勉強を教えるって名目だったから、それはそれで助かったけれど(私は勉強ができません)…………。


「ただいま〜」

 結局、勉強会は一時中止となり、私は家に帰った。

『あとで親に聞いてみたらいいよ』

 あ、そういえば、あの人、そんなこと言ってたような…………。お母さんにでも聞いてみるか…………。

 私は許嫁? の彼が言っていた言葉を思い出し、母親に聞いてみることにした。

「お母さ〜ん」

「な〜に、ひより?」

「私に“許嫁”なんていたの?」

「え? 何を言ってるの?」

「え?」

「“許嫁”なんて、いるわけないじゃな〜い。まったく、いつの時代の話してるのよ〜」

「え?」

「え?」

 え? どういうこと? “許嫁”なんているわけない? 今そう言ったよね?

「え? 本当にいないの?」

「ええ、いないわよ」

「本当の本当に?」

「本当の本当に」

「本当の本当の本当に?」

「本当の本当の本当に」

「本当の本当の本当の本当に?」

「いつまでするのそれぇ?」

「あ、ごめん……」

 私に“許嫁”がいない………………。じゃあ誰なんだよおおおおおおおおおおッ!

「“野上竜也”って人、知らないの?」

「ん〜。全然知らないよ〜。誰なのその人?」

「うんうん、知らないならいいよ」

「そう?」

 もう何なの? 一体どういうことなの? 何であの人は私を“許嫁”って言ってるんだろう………………。

 自分の部屋に戻った私は、ベッドに顔を沈めた。

「ど〜すればいいのぉ〜」


「え!? 何それ!?」

 佐山さんの声が教室内で響き渡る。私はお母さんから聞いたことを彼女に言った。

「ちょっと、佐山さん、声が大きいです……」

「あ、ごめん……」

 すぐに謝ると、彼女は続けて言った。

「竜也くんとは“許嫁”じゃなかったの!?」

「そう、みたいなんです…………」

「本当に?」

「本当に」

「本当の本当に?」

「本当の本当に」

「本当の本当の本当に?」

「本当の本当の本当に」

「本当の本当の本当の本当に?」

「もう良くないですか……なんかデジャブな気が……」

「あ、ごめん……」

 佐山さんもしっかりと私と同じ反応してる…………。やっぱりそうなるよね。昨日いきなり「俺の“許嫁”だから」なんて言ってたのに、私の家族は全然把握してなかったし…………。あの人、何がしたいんだろう…………。

「おはよー。俊介くん!」

「おはよう」

 私たちが話していると、後ろの扉から俊介くんが入ってきた。

「あ…………」

 彼と不意にも目があってしまった。しかし、彼はいつものように笑顔を振り撒くと思いきや、視線を変えて仲の良い男子友達のいる席へ向かっていった。

 あ…………終わった…………。

「ど、どうしたんだろう……俊介くん……」

「さぁ〜。昨日からだよね?」

「はい……」

 昨日から彼は様子がおかしい、それは私の“許嫁”と名乗る男子が現れてから…………。

「ヒヨリンに“許嫁”がいたからかな……」

「え……? それってどういう……」

「え? あ、何でもないよ!」

「そ、そうですか……」

 佐山さんがちょっと慌てつつ、何かを誤魔化していた。

「あ! そうだ!」

「な、何ですか……?」

「昨日の人は“許嫁”でも何でもないって言ったらいいじゃん!」

 彼女はそんな提案をしてきた。

「だ、誰に……?」

「俊介くんにだよ!」

「え……?」

 それは確かに俊介くんもあの現場にいたわけだから言ったほうがいいけど、言ってどうなるのかな…………。

「言わないと誤解されたままになっちゃうよ?」

「…………でも……」

 言っても別に俊介くんは私のこと恋人として好きなわけではないし、私に“許嫁”がいたところで俊介くんには関係のないことで…………。

『言わないと誤解されたままになっちゃうよ?』

 確かに誤解されたままは嫌だ。

「ちょ、ちょっと……言ってきます……」

「あ、今!?」

 佐山さんの声を無視して私は俊介くんのいる席まで歩いて行った。

「あ、おい、俊介、お前じゃないか?」

「ん?」

 私がこちらに向かっていたことに気づいたのか彼の友達が彼に呼びかけた。

「あ……赤瀬さん……」

「……ア、アノ……」

 少し彼の顔は暗かったが、私の声を最後まで聞こうとしていた。

「キ、キノウノ……ヒト……ジツハ……」

 がんばれ私! ちゃんと言わないと!

「ジツハ…………」


「おっはよ〜日和ッ!」


 私と彼の横から扉を開けて昨日の“許嫁”を名乗る男子が現れた。

「エ…………」

「よかったよ〜ちゃんと来てて。ってあれ? もしかしてお取り込み中だった?」

「………………」

 何で入ってくんだよおおおおおおおおおおッ!

「ごめんね〜。またあとで来るわ〜」

 そう言って“許嫁”を名乗る男子……ってこの呼び名長いから変えよう。よし、“偽男”と呼ぶことにしよう。そう言って偽男は自分の教室に戻って行った。

「ア……アノ……」

「ごめん……赤瀬さん、そろそろ席につかないと」

「ア……ハイ……」

 彼は再び暗い顔をして自分の席に座った。と言っても席隣なんだけど…………。


一時間目の休み時間

「ヤッホー日和! 勉強教えて!」


二時間目の休み時間

「おす! 日和! さっき俺のクラスでさ……」


三時間目の休み時間

「ねえねえ日和、この問題解ったりする?」


そして昼休み————————。

「よし! 日和! 購買行こう!」

 って、何で毎回こっちに来るんだよおおおおおおおッ!

 偽男は休み時間のたびに私の教室に来ては私に勉強を教わりに来たり、世間話をしに来たりしていた。

 何で毎回来るの…………勉強教えてって言われても教えれないし(バカなので)…………。しかも来るたびに私に対するクラスの人たちの視線が怖い…………。

「…………ハイ……」

 結局、断れないまま偽男と共に購買に向かうことになった…………。


「何食べたい?」

「…………ダイジョウブ……デス……」

 お母さんの弁当あるし…………流石に悪いし…………。

「そう? じゃあ俺の買ってくるね」

「……ハイ…………」

 ああああああああああッ! どうしよおおおおおおおッ! このまま私、この人と付き合わなちゃならないの? 顔は整っててかっこいいけど…………なんか嫌だ!


「うお! その弁当すげぇ〜美味しそうじゃん!」

 いつものように私は屋上に来ていた。偽男がいるが…………。

「…………ア、アリガトウ……ゴザイマス…………」

 お母さんの作った弁当、褒めてくれた! いい人ではあるんだけど…………。

「俺にも少しちょうだい!」

 そう言って偽男は私の使っていたお箸を使ってだし巻き卵を口に運んだ。

 ちょっと、流石にそれは…………。

「今日の放課後、ちょっと行きたいところあるんだけどいいかな?」

「…………ハイ……」

 こんな時に断れない自分が本当に嫌になる。放課後も付き合わなきゃいけないのか…………。


「よし! 日和! 帰ろう!」

 放課後が来てしまった。偽男はいつものように私の教室に入ってきて、私を呼んできた。

「……ハイ…………」

 そう言って私は偽男の行きたいと言っていた場所へ一緒に向かうことになった。

「ド……ドコニ……イッテルンデスカ……?」

「ん〜。もうちょっとで着くかな」

 学校から少し離れた街の方まで来た頃、偽男が口を開いた。

「着いたよ! ここだよここ!」

「ココ……デスカ……」

「そう! ここ! 一回行ってみたかったんだよな〜」

「ココッテ…………」

 偽男の指さす建物の方を向き、その建物の名前を見た——————————。

“ホテルリゾートイン”

 ラブホじゃねぇえええええかッ!

「俺たち“許嫁”何だし、こういうとこには行ける時に言っとかないと」

 行ける時に言っとかないとって、そもそもまだテスト期間中でしょうが! それに私…………。

「コンナトコロ…………キタコト……ナイ……」

「大丈夫だって、俺に任せてくれればいいから」

 私がそういうと、偽男は私を安心させようとしたのか、私の手を握ってきた。

「嫌ッ!」

 私は咄嗟に偽男の手を振り解いた。

 こんなのいきなりなんて嫌だよ。心の準備ができてないし。

 手を振り解かれた偽男は、一瞬戸惑ったが、すぐに顔色を変えて言った。

「俺に任せろって言ってんだろ? いいから大人しくしろよ、“許嫁”のくせに」

 だから“許嫁”じゃねぇって何回言わせんだあああああああッ!

 偽男は再び私の手を強く握った。

「イヤッ……デス……」

「いいから来いよ!」

 私の言葉を聞きもせず、偽男は私をホテルのロビーに入れようとしていた。

 何で私が…………。神様はこう言う時さえ味方をしてくれない………………。神様なんかじゃなくて…………誰か…………助けて…………。


「手、話せよ」


 偽男の手首に別の人の手が握られていた。

「いッ、いてーなッ! 誰だよ……」

 偽男は痛かったのか、握られていた手を振り解いた。

「お前…………」

 握られていた手首を触りながら偽男は自分の手首を握っていた人を見て驚いていた。それと同時に私もその人を見た。

「野上竜也だっけ? お前、ここで何してんの?」

「しゅ……しゅんすけ……くん……」

 私は驚きと同時に安心した。まさか彼が来てくれるとは思ってもいなかった。

「そうだけど、お前に関係ねぇ〜だろが!」

 偽男は彼の質問に対して怒りながら否定した。

「関係なくねぇよ。赤瀬さんは俺の“大切な友達”なんだから」

「“大切な友達”…………」

 彼の言った言葉が素直に嬉しかったが、少し悲しくもあった。

「あとお前、“許嫁”とか嘘なんだってな」

「はぁ? 嘘じゃねぇ〜よ!」

 彼の言葉に疑問を抱いた偽男は再び否定した。

「全部聞いたよ、佐山さんから……赤瀬さんの親がお前のこと知らないってこと……」

「知らねぇはずねぇだろ!」

「ホ……ホントニ……シラナイデス…………」

「はぁ…………?」

 二人の会話に口を挟んで言った私の言葉に偽男は疑問を抱いた。

「知らないって……日和も“覚えてない”のか……?」

「オボエテ……ナイ……?」

 覚えてないって言われても…………本当に誰よ? 友達の一人もいなかった私が話してた人がいたとしたら覚えてるはず…………。

「本当に覚えてないのか?」

「ホントニオボエテマセン……」

「幼稚園の頃、一緒に劇してたさ!」

 ん? 劇? 幼稚園…………劇…………一緒に…………。

「ほら、一緒に『シンデレラ』したじゃんか!」

 シンデレラ……………………幼稚園…………劇…………シンデレラ…………あ。

「日和がシンデレラで俺がその王子」

 思い出した。確かに幼稚園の頃、発表会で『シンデレラ』の劇をした。その時はコミュ力絶頂期というか何というかなぜか私はシンデレラ役を任された。その時の王子役が偽男だったのだ。

「オモイダシマシタ…………デモ……ソレガ……“イイナズケ”とカンケイガ……?」

「確かに、幼稚園の頃しか会ってないのに何で“許嫁”になるんだよ」

 私と彼は同じ疑問を抱いた。

「いや、日和が言ってくれたんじゃん『お願いします』って」

「エ……?」

 私が言った? 何を?

「劇の時————————」

『このくつはあなたのだったのですね』

『はい……』

『ここでであったのはうんめいだったようです。ぼくとけっこんしてください』

『はい……お願いします』

「って言ったじゃん!」

「ハ……?」

「は?」

「え?」

「お前、劇のセリフを真に受けたのか?」

「はぁ? 真に受けたも何も、俺はその時から日和のことを好きになったんだよ!」

 お願い! もうやめて! …………笑いが…………我慢できないぃ…………。

「でもその後、俺は引っ越しちまって、それっきり会わなかった…………だから俺はやっと会えて本当に嬉しかったんだよ!」

 偽男の顔は真剣だった、私も理由は何であれ、誰かにこんなにも好きになってもらえてたなんて正直嬉しかった…………でも……。

「でも、お前は赤瀬さんが嫌がることをしようとした」

 私が思っていたことを彼が弁明してくれた。

「…………確かに、それは俺が悪かった……ごめんな、日和……」

「…………ア、ハイ……ダイジョウブデス……」

「……日和は……俺のこと、好きじゃないのか……?」

「…………ハイ……ゴメンナサイ……」

 偽男の質問に私は素直に答えていた。正直、顔も良くてさっきの件も含め、本当に私のことが好きなんだとわかった………………でも私は、他の人が好きだから………………。

「………………そっか……」

 偽男は、そう言って私達の間を通って帰っていった。


「赤瀬さん…………」

 偽男が帰り、私と彼の二人だけになった時、彼が口を開いた。

 ああああああああッ! 絶対怒ってる…………。怒られるよね…………。仕方ない、私が断れなかったからこうなってしまったのだから…………。

「ほんっとに良かった!」

「へ?」

 彼から出た言葉は私の思っていた言葉とは違っていた。

「赤瀬さんが無事で本当に良かった…………」

 彼は精一杯の声でそう言っていた。そんな彼の目からはうっすらだが涙が溢れていたような気がした。

 本当に優しい人だな…………私のためなんかにここまで来てくれて……………でも、何で私のために来てくれたんだろう…………。本当は私のこと、好きなのかな…………。今朝、佐山さんもなぜか話を逸らしてたし…………。

「ナ……ナンデ、ワタシ……ナンカヲ……タスケテクレタンデスカ…………」

 ふと私はそんなことを口にしていた。

 ちょっと、何言い出してるの私! 前みたいに言われるだけだよ! …………でも、もしかしたら…………。

「勉強、教えてあげるって言ったでしょ?」

 あ。

「ア」

 あ…………そんなこと、話してたような…………。

「明日、教えてあげるね!」

 やっぱりそうですよねぇ〜。そうなりますよね〜。好きなのかと勝手に勘違いしちゃったじゃん!

「……ハイ……オネガイシマス…………」

 そう言って私は彼に背を向けて帰っていった。

 はぁ……やっぱりそうですよねぇ〜。でも勉強教えてくれるのかぁ………………………………ん? ………………明日? 明日って…………学校、休みなんじゃ…………?

 嵐のように現れた男に振り回された私だったが、ここからまた、嵐のような日々が来る………かもしれない…………。

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