第五話 根暗な根暗な私は呼ばれる
前回までのあらすじ!
友達ができた根暗な私は、お出掛けしました。
「いやー。初の友達とお出掛け……これは一生の思い出だな……」
佐山さん(私の人生初の友達)とお出掛けした私は、いつもより元気に電車に乗った。
いやー。本当にいい友達を持ったよ…………根暗隠キャの私なんかの為に友達になってくれて、しかもお出掛けまでしてくれて…………これは、もう私、“脱・根暗隠キャ”なのでは? よし! じゃあ早速————————————。
「ヘイみんな! 元気してるかい?」
「「「「………………………………」」」」
や…………やっちまったあああああああああ!
「ヒ〜ヨリン! おはよ〜ってどうしたの?」
「あ、おはようございます…………私、死にたいです…………」
「なんでよ!」
「あはははははッ! 何それ、おもしろ〜い」
「そんなに笑わないでくださいよ…………」
「あ、ごめんね。笑うつもりはなかったんだけど……」
なんで私はいつもこう選択を間違ってしまうんだろうか、本当に自分が嫌になる………………。
「でも、ヒヨリンはそういうとこが可愛いよ!」
か、可愛い? 私が? ふへへへへへへへへえぇ……う、嬉しいな…………。
「あ、もうすぐ授業始まるので、お手洗い行ってきます…………」
「ふ〜。さっきの失敗は水に流そ…………トイレだけに……」
き、決まった〜! 私なりのダジャレ。これはおもしろいぞ〜!
トイレの個室から出ようとした時、女子トイレの入り口から数人の女子生徒の声が聞こえてきた。
「あの子最近調子乗ってない?」
「あ〜確かに〜」
あ、あの子? 一体誰なんだろう…………?
普段は気にせずに個室から出るはずの私だったが、この時はなぜか用もないのに個室に留まっていた。
「最近、ゆきちゃんと話してるし」
ゆきちゃん? 誰のこと言ってるんだろうか…………?
「この前、俊介くんと教室で二人っきりで話してたよ?」
しゅ、俊介くんと教室で!? ふ、二人っきりで!? しかもゆきちゃんって人と仲が良いなんて………………一体誰の話をしてるんだろうか………………。
「名前誰だっけ?」
「知らな〜い」
この人たちも名前が知らない人か……………………………………ん? ………………………………ゆきちゃん………………俊介くんと教室で………………二人っきり………………名前も知らない……………………これって……………………私じゃね…………? いやいやでも、まだわかんないし………………。
「でも確か、俊介くんの隣の席の……」
「あーあの静かそうで何考えてるのかわかんない子ね」
ああああああああああ! 私のことだったあああああああああ! 今思えばそうじゃん! ゆきちゃんって、佐山さんのことだし(佐山由紀)! 俊介くんと教室で二人っきりだったし、しかも静かで何考えてるのかわからない子って、完全に私じゃん! でも、名前知られてなかったのは、少し寂しいな…………いやいや、そんなこと今はどうでもよくて、ど、どうしよう…………せっかく友達もできて楽しく過ごせそうって時に、こんな陰口言われて! しかも私がいるとこで! 本当にどうすれば…………あ…………。
「キャ! 誰よいきなりって……あなた……」
し、しまったー! なんで私、ドア開けちゃったの!? この人たち出ていってからでよかったじゃん! バカじゃん私!
「もしかして、盗み聞き? 趣味悪すぎ」
ほら言われた、言われちゃったよ。ラブコメでよくあるシチュエーション第3位のこれ、『女子トイレで主要キャラが盗み聞き、それがバレる瞬間』。別に私はラブコメ主人公なんかじゃないですけど…………。
「あなたのこと言ってんのよ。あなた、最近調子乗りすぎなのよ」
「……………………」
調子乗りすぎ…………私……調子乗ってたか〜。そんな自覚、全然なかったけど…………。
「あなた、ゆきちゃんとか、俊介くんとか誑かしてるらしいじゃない」
「……………………」
た、誑かす? 私が? そ〜んなことしてないですよ〜。
「あなた女子たちの間でなんて呼ばれてるか知ってる?」
知らないです。てか、私、女子の中で噂になってるの?
「“淫魔”よ」
“淫魔”ッ! な、なんで淫魔?
「“隠キャの魔女”だからよ」
“隠キャの魔女”ッ! 略して“淫魔”ッ! え? なら普通、“隠魔”じゃない?
「“淫魔”くせにゆきちゃんや俊介くんに近づかないでくれる?」
「……………………」
「ちょっと、聞いてるの?」
「……………………」
「な、何か言ったらどうなの?」
「……………………」
「ちょっと、どこ行くのよ!」
私は何も言わずに女子トイレを後にした。
「あ、ヒヨリンおかえり〜。遅かったね……ってあれ?」
私は教室に戻るやいなや、自分の席に座り、机に顔を沈めた。
私、何してるんだろう…………。あの人たちの言う通り、調子乗ってたのかな…………。佐山さんや俊介くんと話してたから、妬まれてたなんて…………。やっぱり私みたいな根暗隠キャは誰とも関わらずに静かに過ごしてないとね…………。
「ヒヨリンどうしたの? 元気ないけど? また何かやらかした?」
「あの…………もう……私に話しかけないでもらえますか…………?」
「え?」
私何言ってんだろう…………。佐山さんに思ってもいないことを…………いや……多分、心のどこかでは思ってたことなんだろうな………………。
「………………」
佐山さん、ごめんなさい…………。
彼女は何も言わずに自分の席に戻っていった。結局その日は、お互い一言も話すことはなかった。
「私…………何してんだろう……」
家に帰り、私はベッドに横になっていた。
「まあ、流石にロインも来るわけないか…………」
私と佐山さんとの会話は昨日以降、続いていない。
私本当に何してんだろう…………ちょっと噂させれたぐらいで、佐山さんとの仲を断つ必要なかったんじゃ? しかもまだ、5話だよね? っとこれは触れてはいけないっと…………。せっかく友達になってくれて、それに今度ピズニー行こうって約束してくれたのに…………。
「ひよりちゃ〜ん。ご飯よ〜」
あ、お母さんだ。もういいや。考えてもしょうがない。明日、仲直りしよう。
次の日、私は佐山さんと学校の下駄箱の前で会った。
「………………」
「………………」
6月18日。天気・快晴。私…………無事、終わりました。
お、終わったああああああああ! ついに佐山さんと挨拶さえしなくなっちゃった! いつもなら佐山さんから挨拶してくれてたのに、昨日の私の一言のせいで、何も話してくれなくなった。私が悪いんだけど…………。
「そうだよね……」
私は小声でそう言って、教室に向かった。
「………………」
私の悲しそうな背中を誰かが見ていた。
「一人なの……久しぶりだな…………」
結局誰とも話すことなく、昼休みを迎え、私は一人屋上にいた。いつも食べているはずのお弁当の味が、今日はなぜか美味しくなかった。
「なんでだろう…………前まで、いつものことだったのに……あれ……」
お母さんが作ってくれたお弁当に数滴の何かが掛かった。
「なんで私…………泣いてるの……?」
おかしい…………。なんで私泣いてるの? お母さんの作ってくれたお弁当が美味しくないから? 先週発売された新刊買い忘れてたから? …………違う。きっと、いつも一緒にいた友達がいないから…………。昔ならこんなことで涙を流すわけがなかったのに…………そっか……今と昔は違う。今の私には、友達がいた。佐山さんがいた。その佐山さんに酷いこと言っちゃったから、それを謝りたい。でも…………。
「はぁ……はぁ……」
下の階から屋上に繋がる扉から、誰かが出てきた。その誰かは、私の方へ歩いてくるのがわかった。でも私は、泣いているせいでその人の姿を見ることができない。
誰か…………来た……? 誰だろう…………佐山さん……かな…………?
「赤瀬さん」
え…………? この声…………。
私は名前を呼ばれて声の主が誰なのかがわかった。ずっと、私をそう呼んでくれてた人…………。
「シュ……シュンスケ……クン……?」
なんでここにいるの? 私、何かしたかな? 俊介くんにこんなところ、見られたくなかったな…………。
「赤瀬さん…………何かあった?」
彼は私に優しく声を掛けてくれた。
あぁ…………やっぱり俊介くんは優しいな…………。声でわかるよ…………この人は本当に優しい人なんだって…………。
「ナ……ナンデモ……ナイデス……」
「…………じゃあ、なんで泣いてるの?」
私が否定すると、彼は私が見える高さに合わせて言った。
「佐山さんと喧嘩した?」
「チ……チガイ……マス……ワタシガ……ハナシカケナイデ……ッテ……イッチャッテ…………」
「そっか……」
言っちゃった。私が佐山さんに「話しかけないで」って言ったこと。このままじゃ私、自分で言って自分で泣いてるただの痛い人って思われちゃうんじゃ……?
「赤瀬さん…………」
あ……怒られるのかな…………私…………。
「一緒に来て」
そう言って彼は私の手を取って屋上の扉を開けた。
どこに連れてくの…………? まさか、警察!? まぁ私……それくらいの罪を犯しちゃったし…………。
「ちょっと、ここで待ってて」
「エ……?」
私の手を引いて歩いていた彼は教室の外で私を止めて言った。
なんで私たちの教室の前で待つの? 何をするんだろう…………。
「あ…………」
「あ…………」
教室の前で待っていると、反対側から佐山さんが歩いてきた。
え、これ、どうしたら…………。
「赤瀬さん」
佐山さんと私がお互いにどうすればいいか困惑していると、教室の扉から彼が出てきた。
「ちょっと何? 俊介くん。私たちに用事って……」
彼と共にこの前あった女子トイレの二人組が出てきた。
「え? なんでこの子がいるの?」
き、気まずい…………何この空気…………。私と俊介くんと佐山さんに女子トイレの二人組…………すごい組み合わせ…………。
「二人とも、ちょっといい?」
気まずい空気の中、彼が二人組に話を切り出した。
「君たち、赤瀬さんに何か言ってたよね?」
「「え?」」
え? なんで俊介くんが知ってるんだろうか…………。なんでこの二人だってわかったんだろう…………。
「赤瀬さんが俺や佐山さんを誑かしてるとか……」
「「あ…………」」
最初は何を言ってるのかわかってなさそうだった二人組は、彼が内容を言い出すと、全てを悟ったかのように顔色を変えた。
「な、なんで俊介くんが知ってるのよ! あなた、もしかしてチクったの?」
二人組の一人が私に顔を変えて睨みつけた。その顔を見て私はすぐに首を横に振った。
「違うよ」
彼は静かにそう言った。
「女子トイレで話してたこと、全部外に聞こえてたよ?」
「「え?」」
え? 聞こえてたの? そんなに声デカかったのか…………この人たち…………。
「俺も佐山さんも別に誑かされてないよ」
「そ、そんなことないでしょ! だってこの子、いつもおかしなことしてるのよ!」
お、おかしなこと? そんなこと私してるっけ?
「休み時間になるといつもノートに何か書いてて、この前覗いたら…………」
『俊介くんを落とす方法
・面白い人……お笑いの勉強をする!
・綺麗な人……化粧の勉強する!
友達としたいこと
・お出掛け……できればピズニーとか。
・プリクラ……やってみたい。』
「こんなこと書きながら何かにやけてたし!」
どああああああああッ! なんでバレてんのおおおおおおおお! まさか私がノート書いてるとこ覗かれてたとは…………。あ、終わった……俊介くんと佐山さん、下向いちゃってるし…………。絶対引かれてる………。
私が唖然としていると、下を向いていたはずの彼が顔を上げて言った。
「それがなんだって言うの?」
「え?」
「別に書いてたって誑かしてる理由にならないし」
「そ、そうだけど…………」
「それに…………」
彼は少し間を開けて再び言った。
「そんなに熱心に考えてる人が、俺たちを誑かすわけないじゃん」
「…………俊介くん……」
彼の一言に私は自分にしか聞こえない声で彼の名を呼んだ。
「な、なんでその子を庇うのよ! 俊介くんに関係なくない?」
耳と頬を赤くした二人組の一人が彼にそう怒鳴った。
確かにこの人の言うこともわかる。私を庇う必要なんてないはず…………それなのになぜ…………。
「関係なくなんかないよ」
「は?」
彼は言葉に一人は口を開けて戸惑っていた。
なんで? 私、俊介くんに迷惑しかかけてないよ? しかもおかしなことばかりしてるし…………。
「だって赤瀬さんのこと…………好きだし……」
「すッ————!」
す、好き…………? 誰のことが? 赤瀬……って…………私ッ!?
突然の発言に私含め、その場にいる彼以外の人が驚いていた。
「こ、この子が……好き!?」
「嘘でしょ!?」
「…………やっぱりね……」
「うん。好きだよ」
いやああああああああッ! やめてええええええええ! もう心臓がもたないよおおおおお!
「だからさ……赤瀬さんのこと傷つけたら、許さないから」
彼は二人にそう言い放った。
「わ、わかったわよ……」
「ごめんなさ〜い……」
彼の一言を受け入れたのか二人はそう言って教室に入っていった。
な……何が起こったのか……理解できない…………。私、告白された…………?
「ヒ、ヒヨリ〜ンッ!」
「あッ、ちょっ……」
顔を赤くしていた私に、佐山さんが私に涙を流しながら抱きついてきた。
「ごめんゔぇ〜。私が知らないとこで一人で悩んでたなんてゔぇ〜。なのに私、ヒヨリンに話しかけないでって言われたの傷付いちゃったよゔぉ〜」
「あッ、私も……ごめんなさい…………」
「ゔんゔん。私の方こそごゔぇんねぇ〜」
彼女の涙が私の服を湿らせていた。こんな彼女の姿を見ていると、私の目からも涙が出てきた。
うええええええ〜ん! ごめんなさああああい! 佐山さあああああん!
「だ、大丈夫? 二人とも……」
抱き合って泣いている私たちに彼は静かに尋ねた。
「ゔぁ、うん……ありがどね、俊介くん……」
私の代わりに佐山さんが返事をしてくれた。
正直、今は俊介くんと話すことができない…………それもそのはず…………。
「そういえば、さっき言ってたことって本当なの?」
泣き止んだ佐山さんが彼にそう聞き出した。
あ、私が聞きたかったことを聞いてくれたが…………なぜか胸がドキドキする…………。
「あー好きだよ? 友達として」
本当に私のこと好きなのかあああああああ! やったあああああああ! これで私は俊介くんの彼……女………………ん? 今…………なんと……?
「エ…………ト、トモダチ……?」
「うん……友達として……」
「ソ……ソ……ソッチダッタカアアアアアアアアアッ!」
さっきまで泣いていたはずの私の顔から涙は消え、代わりに恥ずかしさが一気に浮かんできた。
もおおおおおいやああああああッ! 何回繰り返すのよ私いいいいいいいい!
恥ずかしさが限界を超えた私は二人を置いて走っていった。
「あ、ヒヨリン行っちゃった……」
「そうだね……」
取り残された二人は私の背中を見ながら言った。
「…………」
「…………」
「…………友達としてって嘘でしょ……」
「…………うん…………嘘……」
「……やっぱりね……」
「…………赤瀬さんには言わないでね…………」
「…………しょうがないわね……いいよ……」
今の私にこの会話は聞こえてなかった……………………。
この話の展開……………………早すぎない? まいっか…………。