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遺跡から町へ戻ってきた頃、いつもより人の流れが緩やかな道を歩きながら、まっすぐに向かうのは通いなれた飲食店、コスモス亭。町の中でも「安さと提供の早さ、なによりも美味しいものをご提供」を謳っているその店は、押し寄せる客が多いことで有名だ。
昼時のピークが過ぎたからか、店内に入れば顔なじみの客が各々好きな席でくつろいでいる。自分も慣れた足取りで、いつも座るカウンター席に着けばタイミングよく水の入ったコップが置かれた。
「いらっしゃいませー……って、アルバ!お仕事お疲れ様!」
「ありがとう。注文はいつものやつでお願い」
「はーい。じゃあ空いてるとこ好きに座って待ってて」
そう言って快活な笑顔で対応するのはこの店の看板娘のエレナ。自分よりも二つほど年上の彼女は、平均よりも小柄な自分のことを頼りなく思っているのか、なにかと世話をやいてくれている。そのことに申し訳なさと不甲斐なさを感じながらも、居心地の良さに甘えて、仕事終わりのご飯はいつもここに来てしまうのだ。
「おまちどおさま。コスモス亭定食になります」
「ありがとう」
ホカホカと美味しそうな湯気が立ち昇る料理に、くぅぅと腹が鳴る。焼き立てのパンに人参のグラッセが添えられたオムレツ。歯ごたえが軽く瑞々しいサラダに、飴色の綺麗なオニオンスープ。仕事終わりにいつも頼む定番の定食だが、いつ食べても飽きることがない。それらを黙々と味わいながら食べる。
あらかた食べ終えた頃には、店内の客は自分ひとりになっていた。満たされたお腹をさすりながら、もう少ししたら席を立とう。そう思っていた頃合いに、暇そうにしていたエレナが声をかけてきた。
「そういえば今日はいつもより遅かったけど、まーた町の皆に捕まってたかんじ?」
「ちょっとお手伝いしたくらいだよ」
彼女にそう言われ、仕事が終わってからここに来るまでにあったことを思い返す。とはいっても、特別大したことはしていない。荷台に積んでいた商品が転がり落ちていたのを店主と一緒に拾ったこと。脱走癖がある子猫を見つけたので飼い主のもとへ送り届けたこと。道案内を必要としていた人に声をかけて連れて行ったこと。そういった困っている人の手伝いをした程度のことだ。
「ほんっと、お人好しなんだから。たまには自分のことで時間をつかいなよ?」
「好きでやってることだからいいんだよ」
この店に来るまでの、ちょっとした手伝いなのだから構わないというのに、エレナはここに来るたびになにか手伝いをしてくる自分に対して、もっと自分の時間を大切にしたほうがいいと言う。その気持ちは有難いけれど、性分なのだろう。自分が出来そうな範囲であれば手伝おうと身体が動いている。
だから、なんど口酸っぱく言われても改善するつもりはなかった。
「……ご馳走様、またくるよ」
「もう!……ありがとねー。この後は真っすぐ帰るんだよ!」
「わかってるよ」
まだ続きそうな会話を打ち切るように席を立ち、金を支払う。釣り銭が出ないように渡して、振り向きもせずに手をあげて店を出たのだった。
R6.4.26.
投稿に思ったよりも時間がかかってしまいました(;'∀')
プロットの練り直ししていたら、結構な時間を使ってしまった……。
次の話はもう少し早くに投稿できるように努力します。