秋の味覚秘密の調味料…
「小説家になろう公式企画 秋の歴史2023」 参加作品(短編小説)です。
咲ちゃんは、幼稚園に通う五歳の女の子。
秋香る十月の連休。お父さんとお母さんの三人で、
おじいちゃんとおばあちゃんの家に向かいました。
車に乗って三時間。咲ちゃんが車の中から手を振ると、
畑にいるおじいちゃんとおばあちゃんも笑顔で、
手を振ってくれました。
車から降りてご挨拶。
「おじいちゃん、おばあちゃんこんにちは」
「こんにちは。よく来たね」
「咲ちゃん、こんにちは」
「ちょっとお手伝いしてもらいたいんだけど…
一緒に来てくれるかい?」
おじいちゃんが言いました。
咲ちゃんは「はーい」と元気に返事をして、
二人は近くにある倉庫に向かいました。
倉庫の中には、おじいちゃんが大切に育てて
夏に収穫した大きなかぼちゃがたくさん。
「わぁーすごい!」
「おばあちゃんに持って行こう。一つ選んでくれるかい?」
「どれがいいかな?」
咲ちゃんは、少し迷いながら…かぼちゃを選びました。
一緒に運んでいる時に、おじいちゃんに質問をしました。
「おじいちゃん、かぼちゃのつるってたべたことある?」
おじいちゃんは、少し驚いた顔で…
「良く知っているね。食べた事はあるよ」
「せんせいがおしえてくれたの。むかし、せんそうがあって…
おじいちゃん、おばあちゃんは…かぼちゃとかおいものつるを
たべていたって」
「凄いお勉強をしているんだね」
お家に着いて、おばあちゃんにかぼちゃを渡した咲ちゃん。
すると…おじいちゃんが、教えてくれました。
「国と国で喧嘩をしなければならないことが
あったんだ。それが戦争なんだよ。
お腹が空いても、食べるものがなくて大変だった…だから
おじいちゃん、おばあちゃんは一生懸命生きるために、
かぼちゃやさつまいものつるを食べていた時があるんだ。
そして…お父さん、お母さんがいて今、咲ちゃんが
ここにいる。みんな繋がっているんだよ。
生きる…命は一人に一つしかないんだ。
だから、大切にしないといけないんだよ」
「せんそうってこわいんだね…」
「今は戦争をしないようにしようとみんなで努力しているから、心配しなくても大丈夫。
咲ちゃんは、幼稚園で元気に仲良く楽しく
お友達と遊べば良いんだよ」
「おじいちゃん、おばあちゃんこれからも元気でいてね」
「優しいね…元気でいるよ。ありがとう」
「さぁ、出来ましたよ」
おばあちゃんとお母さんが、お昼ご飯をテーブルに
並べています。肉じゃが、炊き込みご飯…
秋の味覚。どれもとても美味しそうです。
「今日は、咲ちゃんが選んでくれたかぼちゃもありますよ」
ところが…なぜか元気がない咲ちゃん。
実は、かぼちゃが苦手だったのです。
咲ちゃんは「ごめんなさい…」と正直に言いました。
「そうだったんだね…じゃあこれはまた、今度にしようね」
おじいちゃんが畑で育てて、おばあちゃんが作ってくれた…
「ちょっとだけ…たべてみる」勇気を出して言いました。
「無理しなくて良いからね」
綺麗な黄色いかぼちゃのスープ。
少しだけお皿に入れてもらって
「いただきます」
そっとスプーンですくって一口…
「………あまくておいしい!」
咲ちゃんの言葉には、おばあちゃんもお母さんもびっくり!
「本当に大丈夫?」とおばあちゃんは心配しましたが…
咲ちゃんは美味しそうにスープを飲みさらに、
おばあちゃんに「おかわりしてもいい?」と
お皿を渡しました。
「たくさんお食べ」おばあちゃんも、おじいちゃんも大喜び!
お父さんとお母さんも、とても嬉しそうです。
家族みんなで賑やかにテーブルを囲み、
笑顔で食べる食事は、本当に美味しくて…
苦手だったかぼちゃは…1番のお気に入りになりました。
咲ちゃんは、にこにこ笑顔で言いました。
「おいしいかぼちゃだいすき!
おじいちゃん、おばあちゃん、
おとうさん、おかあさんみんなだいだいだ〜いすき!」
美味しく食べられたのは、きっと…
目では見えにくいけれど、
しっかりとした秘密の調味料が入っていたから。
それは…家族の愛情と優しさと咲ちゃんの勇気。
みんな幸せでとっても嬉しい食欲の秋です。
最後までお読みいただきありがとうございました。