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第三話① ついに異世界の首都にやってきました。

 牧場から街までは、緩やかな勾配がある平地を道なりに進めばよかった。簡単な道のりで、歩いてでも行けそうに思うだろう。だが、いかんせん距離がある。ただ助手席に乗っている身としても遠いと思うほどに道のりは長かった。

 トラックか馬に乗れない限り、一人で街に行くのは無理だとしのぶは悟った。



 最初はのどかな景色を楽しんでいたが、農地や牧場ばかりで飽きてきた。時々ウマミ牧場のような建物があるだけで、地上には村や人が住んでいる痕跡がない。


 サブローによると、一部の農家を除き、近隣住民はすべてフリエフの街内に住んでいるとのこと。いつ魔王軍が攻めてくるかわからないので、防衛を一拠点にまとめているそうだ。

 首都フリエフのあの独特の地形も、一般魔族(歩兵)の侵入を防ぐため。ちゃんと考えられて街づくりが行われたのだ。


 ちなみに、がら空きとなった平原は、王宮や備蓄物資を納めることで、農家に無償で貸し出されている。しかし危険な地上で働きたいという物好きは少ないため、農家の数は少なく、また広大な土地を持っているとのことだった。



 さて、そんな街の近くまで来たのはいいものの、どうやって街の中に入るのだろうか。下街にあたる第一層(最下層)でさえ、飛ばないと入れないほど高い位置にある。

 しのぶが尋ねると、サブローがダッシュボードから何かを取り出した。手のひらほどもある、金色のメダルだった。


「これが通行証さー」

「どうやって使うんですか?」

「まあ見てなってー」



 サブローはそのまま車を走らせ、第一層の下までやってきた。

 頭上に大地があるような、変な錯覚を覚える。もし今街を浮かせている動力が消えれば、しのぶたちは一瞬にしてペチャンコになるだろう。しのぶは身震いした。


 しかしサブローは平然として、どこかに向かって運転している。そして車を止めると、窓の外からメダルを出した。

 天に向かって何度かメダルを傾けていると、カッとトラック周囲が光り出し、車体がふわりと宙に浮いた。


「なになに何ですかコレ!」


 突然の事態にしのぶは混乱したが、サブローは平然としている。外を見ると、先ほどトラックが停まった場所が光っていた。

 多分魔法陣か何かを仕込んでいたのだろう。それがメダルによって起動され、動力が発現したに違いない。なぜそうなのかの仕組みはわからないが、しのぶとしてはそう理解するより他はなかった。



 車はぐんぐん高度を上げ、第一層にぶつかりそうだ!


 しかし近づいて気づいたのだが、第一層の大地には都合よく穴が開いており、トラックは何にもぶつかることなく、ひょいっと地表に出ることができた。



「ここが街だよー」

 街を見たしのぶは、息をのんだ。そこには中世ヨーロッパのような、いかにも異世界といわんばかりの街並みが広がっていたからだ。サブローが出たのは市場の外れなのだが、ここまで届くほど活気に溢れた声。声。声。


 トラックで街を走ると、多くの人が街を行き来して様々な買い物を楽しんでいた。街角ではお茶を楽しむ人、昼間から酒を煽る人など、色んな人が各々楽しんでいる。

 人間のみでエルフや妖精はいないが、街並みだけで「異世界に来たー!」としのぶは胸を躍らせた。


 最下層である第一層は、市民の街だ。しかも街半分を覆うように、空には都市インフラと魔法を管理する第二層が浮いている。

 見えないが、さらに上には政治機能を担う第三層と王族が住む第四層も控えている。改めて街の大きさにしのぶは舌を巻いた。



 サブローのよどみない運転に、しのぶは尋ねた。

「どこに向かってるんですか?」

「いつもの卸先だよー。これから数件回るんだー」


 サブローはとある露天商の前に車を止めた。色とりどりの布や糸を売る紡績商だった。

「ちょっと待っててねー。すぐ終わるからー」


 しのぶは助手席に座ったまま、サブローが働く様子を見ていた。


「おう、今日はサブロー!」

「まいどー」


 サブローは慣れた手つきで羊の毛を露店の脇に並べていく。


「その人は誰だ? 嫁さんか?」

「違うよー。外からのお客さんー」

「そうかそうか。お嬢さん、この街はすごいでしょう!」


 いきなり話しかけられて、しのぶは戸惑った。


「え、ええ、はい、そうですね」

「いい男がたくさんいるから、たくさん見てってください。ガッハッハ」

「あはは……」



 なんかこの感じ、懐かしい。しのぶは前に働いていたコンビニのことを思い出した。時々馴れ馴れしいおじさんが来て、セクハラ一歩手前のことを言ってこちらの反応を楽しんでくるのだ。今の発言は別にセクハラではないが、ノリというか雰囲気があのおじさんと似ていた。


(異世界でも、セクハラっぽい人はいるんですね)

 しのぶは少しがっかりした。でも気づいた。

(まあいますよね。人間ということに変わりないんですから)


 そう思ったら、目の前にいる人々が「異世界の人」ではなく、急にもっと身近な存在に思えた。

 今まではどこかで「キャラクター」だと思っている節があり、不適切ではないにしてもどこか礼節に欠ける態度を取っていたように思う。まるでプレイヤーなのだから、ノンプレイヤーキャラクターは受け入れて当然だと言わんばかりに。

 しかし相手が生身の人間だと思えば、接し方は自然と改まる。「これから関係を築いていく相手」として、付き合い方を考えなければならないと思ったのだ。


 小さなことだが、しのぶは早い段階で気づけてよかったと感謝した。まあそれに気づかされたのが、セクハラくさいおじさんということにはショックだったが。



 運転も配達もサブローがするので、しのぶは車窓から街を眺めるだけでよかった。見慣れぬ街を眺めるだけで十分楽しかったが、しのぶはあることに気づいた。

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