第二話③ 異世界トラックは割といい感じです。
「これってトラックですか?」
「そーだよー」
「ちゃんと走るんですか?」
「失礼だなー。それより手伝えよー」
サブローが持つチーズは両手で抱えるほどに大きい。さすがにしのぶは持てなかったが、それよりも小型のチーズをトラックの荷台に積み込んだ。他にもベーコンやら肉塊やらを積んで荷台がパンパンになると、二人は出発した。
サブローが運転し、しのぶが助手席に乗る。サブローは現代の車同様の手順で運転していた。スピードは遅いしガタガタ揺れるが、乗った感想は現代の車と遜色なかった。
「燃料は何を使うんです?」
「動力だよー」
「いや、それはわかります。石油ですか、電気ですか?」
「だから動力だってー。動力は動力だよー」
「……」
このままでは埒が明かない。
そこで聞き方を変えて何度も質問すると、次のことがわかった。
この世界には現実世界のようなインフラ設備はない。厳密には水やガスといった天然資源もあるのだろうが、魔族が握っているので安心して使えないそうだ。
だから魔法使いが社会的インフラを支えている。
水系魔法使いは水道管理を行い、炎系魔法使いがガスにあたる部分を管理しているのだ。昨日サブロー宅で「水道局に知り合いがいる」というのは、こういう意味だったらしい。
この世界でも魔法使いは数が少なく、ほぼ全員が役所のような機関で働いているというのだ。
だから魔法使いに会うのはレアで、知り合いがいるとは心強いことなのだと知った。
さて、その中で異質なのが「動力」だ。
現代でいう電気に近いものだろうが、何度聞いても仕組みが理解できない。サブローいわく「物を動かす力」で、電気のように周囲を照らしたりできないらしい。(灯りは炎系の担当で、この世界ではロウソクを愛用している)
水・火・動力以外は「その他」として管理されることからも、動力がこの世界では欠かせない魔法であることがわかる。
「じゃあこの車はサブローが魔法で動かしてるんですか?」
「いやー、これは交換式だよー。動力タンクを交換するんだー」
「その動力タンクはどこから持ってくるんです?」
「シローだよー。あいつはうちで唯一の魔法使いだからねー」
「え、じゃあ今シローくんが通ってる学校って、魔法使いの学校ですか?」
「そーそー。長い休みの時に帰ってきて、まとめてタンクを作ってくれるんだー」
「へえ!」
しのぶは驚くと同時に、あることに気が付いた。
「だったらシローくんに魔法使いを紹介してもらったらいいんじゃないですか? 学校には色んなジャンルの魔法の専門家が集まっているでしょうし」
「ダメだよー。国の機関だから、許可なく入ったら処刑されるよー」
「そうなんですね。でもシローくんが帰ってきたら、色々と進展しそうですね」
「どーだろーなー。それに次帰ってくるのは夏だから、あと三カ月は帰ってこないぞー」
「それじゃあ結局待つしかないですね」
この時点で、しのぶは現実世界に戻りたいとは考えていなかった。しかしなぜ自分がこちらに転移したのか、理由を知りたくはあった。だから魔法使い自体には会いたい。また同じ世界から転移した人がいるなら会ってみたいと考えていた。
ただし今のように、毎日家畜の世話があるなら、元の世界に帰ろうかとも思っていた。現実世界より厳しいなら、より楽に生きられる世界を望むのは当然のことである。
それもこれも、これからこの世界で上手くやっていけるかどうか次第だ。まだ先は全然見えていないが、街で何か手がかりを掴めればいいと考えていた。