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第二章② しのぶ、(肉体労働がつらすぎて)自立を決意する。

 サブローが手伝ったおかげで、掃除は早く終わった。


「もうこれで終わりですよね」

「まだまだだよー」


 牛舎を出ると、二人は母のハナコとすれ違った。ハナコは卵は満載の籠を手にしている。

「おはよー、サブロー。しのぶちゃんー」

「おはよー」

「おはようございます」

 ハナコは母屋に向かっていた。あの卵で朝食を作るのだろう。そう思うと、食欲はないのに腹がキューっと鳴った。



 豚舎近くを通ると、中で誰かが作業しているのが見えた。父のタローだ。一人で必死に餌やりをしている。

 てっきりタローを手伝うのかと思ったがスルーして、サブローは厩舎にやってきた。そこでは末弟のゴローが、一人で馬二頭の世話をしていた。


「おはよーゴロー。変わりないか?」

「んー、大丈夫ー」

「そっかー」


 それだけ言葉を交わすと、サブローはさっさと厩舎を出てしまった。

 いくら二頭とはいえ、児童一人で馬の世話を全部させるとは。よその家庭なので口出しするつもりはないが、しのぶは驚いてしまった。



 サブローは羊舎まで来ると、牛舎同様の世話をした。しのぶも掃除を頑張った。

 こうしている間にすっかり太陽は昇り、終わった頃にはすっかり朝の雰囲気に包まれていた。


「さー、朝の仕事を終えたら美味しい飯が待ってるぞー」

 サブローは朝日に向かって伸びをした。一仕事やり終えた感じで、清々しい表情をしている。


「その前にシャワーを浴びて着替えたいんですけど」

 しのぶが呟くと、サブローは声を上げた笑った。しのぶは糞尿で全身ドロドロになっていたからだ。


「あははー。すっかり酪農家の顔になったなー!」

「揶揄わないでください!」

「まーまー。ゆっくり浴びておいでー」



 しのぶは一旦離れに戻り、入念に体を洗った。身体はすっかり綺麗になったが、しばらくは悪臭が鼻から抜けなかった。


「なんで異世界の方が、現実世界よりキツイんでしょうか?」


 頭を洗いながら、しのぶは考えた。まさか異世界に来て、早朝からゴリゴリの肉体労働をさせられるとは思ってもみなかった。手伝っている間は衣食住の心配をしなくていいが、元の生活の方が何倍も楽だと思った。


「早いところ自立するしかありませんね」

 そう決めたものの、しのぶは困っていた。何をしたらいいかわからないからだ。


 魔法は使えないし、剣も論外。街に行けば仕事があるかもしれないが、魔力も体力もない自分に何ができるか甚だ疑問だった。最悪サブロー宅に残ればいいというセーフネットはあるが、現状打破するために何かしなければならない。しかしそれが「何」なのかは、ちっともわからない。

 何度も思考がループして、すっかり長湯してしまった。



 着替えて急いで母屋に向かうと、馬で駆けるゴローとすれ違った。

「いってきますー」


 そう声をかけてくれたが、しのぶはあっけにとられて声が出せない。振り返った時には、はるか彼方を走っていた。


「小学生でも馬に乗れるんですか……」

 我ながら子供みたいな感想だと思ったが、異次元なものを見るとそれくらいしか感想が出てこなかった。


 後にサブローから聞いた話だが、ゴローは学校があるので一人だけ別待遇とのこと。馬の世話を終えたら先に食べて、一人で馬に乗って街にある学校へ登校しているそうだ。

 異世界に来てから驚きっぱなしだが、しのぶ的には、あののんびりした小学生が馬で登校していることが一番衝撃的だった。



 さて、ゴローを見送って母屋に行くと、すでに美味しそうな朝食が用意されていた。

 新鮮な卵は黄身がプルプルで、半熟の目玉焼きが輝いて見えた。パン、牛乳、目玉焼きとシンプルなメニューだが、どんなホテルバイキングよりも豪華に思えた。


「そういえば、イチローさんは?」

 食卓を囲んでいるのは、サブローと両親、そしてしのぶの四人。朝からイチローの姿を見ていない。


「イチローは乳しぼりしてるよー」

「牛の世話ってサブローさんがしたんじゃないんですか?」

「オイラたちがしたのは、乳牛以外の世話さー。イチローは乳牛の世話が全部終わったら来るよー」


 牛舎内に小さめの牛が多いとは感じていたが、成牛もいたので乳牛が別区画にいるとは思ってもみなかった。


「え、一人で大変じゃないですか? 手伝わなくていいんですか?」

「今は乳牛が少ないから大丈夫さー」


 そう言われて、しのぶは、はたと気づいた。

 種類は多いが、どの家畜も頭数が少なかったことに。どの獣舎も半分ほど空いていたのである。「のびのび育てている」ということで贅沢に空間を使っているのかと思ったが、素人ながらどこか不自然さに思ったことに納得がいった。


「母ちゃん、しのぶを街に連れて行きたいんだけど、行ってきていいかー?」

「いいよー。頼まれてたチーズも仕上がったから、持っていきー」

「あいよー」



 食事を終えた後、サブローから外出用の服に着替えるように言われた。

 とはいってもしのぶには元着てた服しかなく、洗濯中であったため、同サイズのシローの服を着ることになった。

 ちなみに、今までしのぶが着ていた服は、全部シローのサブローたちのおさがりである。くたびれた白シャツにシミのない黒ズボンを履いただけの服装だが、サブロー家の人々が街へ出かける時はこの格好をしていた。


 サブローと一緒だとペアルックみたいで恥ずかしかったが、金がないので仕方ない。しのぶはここでも「自分で稼がねば」と密かに決意した。



 しのぶが着替えて母屋に戻ると、ハナコから裏手の小屋へ行くよう言われた。そこはチーズ工房で、サブローが丸く形成されたチーズをトラックに積みこんでいた。


「なんでトラックがあるんですか!」

 しのぶは叫んだ。てっきり牛馬が轢く荷車だと思っていたのに、そこにあったのは自走式のトラックだったからだ。

 デザインは現代のものと違うし性能は旧式レベルなのだが、異世界に機械があることに驚いた。

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