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第一話④ なんとか異世界で暮らしていけそうです。

 二人が母屋に入る前に、ここでサブロー家族について改めて紹介したい。


 現在サブロー家では、母屋に五人が住んでいる。父タロー(四十八歳)、母ハナコ(四十八歳)と、イチロー、サブロー、ゴローが住んでいる。

 兄弟のうち二人が家を出ている状態だ。次男のジローは家を飛び出した後は行方不明で、四男のシローは学校の寮に住んでいる。

 その五人の他には、牧羊犬のコロと、ネズミ捕り用に猫のタマが母屋に住んでいる。コロは常に父タローの傍につき、タマは家の中で好き勝手に過ごしている。そんな家族構成になっていた。



 さて、しのぶたちが母屋に入ると、他の四人がすでに揃っていた。だがその顔ぶれを見て、しのぶは思わず吹き出しそうになった。全員同じ顔をしていたのだ。心なしか、犬と猫まで顔が似ている。


「父さんー、母さんー、お客さんだよー」とサブロー。

「おかえりー。そしていらっしゃいー」と父。

「まあまあー、よく来てくださいましたねー」と母。


 喋りまでそっくりで、しのぶは笑いを堪えるのに必死だった。幸いサブロー家族はしのぶを温かく受け入れてくれたので、無礼な行為にも気が付いていないようだった。


「まずはご飯でも食べましょー。みんなお腹空いたでしょー」

 母が座るようにすすめた。


 家族五人としのぶを入れて、六人は食卓を囲む。

 帰るまでの道のりで聞いたチーズとソーセージが本当に出てきて、しのぶは大感激。「異世界で見慣れた食べ物に出会えたから」という喜びもあるが、本当に美味しそうだったのだ。自家製なので形は無骨で売り物にならない半端ものだったが、どれも味はピカイチ。一口ごとに口内で旨味が弾けて、どれも蕩けるほどに美味しかった。

 そして野菜も上手い。近所の農家とおすそ分けし合うので、ウマミ牧場では常に新鮮で旬の食材が食べられた。

 お腹が痛くなるのでしのぶは牛乳が苦手だったが、ウマミ牧場の牛乳は美味しすぎて、思わずおかわりした。食後に少しお腹がゴロゴロしてが、後悔など微塵もなく、腹も心もすっかり満たされていた。



 楽しい食事を終えた後、お茶を飲みながら、しのぶはこれまでのことを話した。

 自分が別世界にいたこと。こちらの世界に転移してしまったこと。サブロー家族は不思議そうな目でしのぶを見つめているが、しのぶ自身もよくわかっていないので、わかっていることを言葉を変えて繰り返し説明した。


「つまり魔法だろうなー」

 父が口を開いた。


「イチローの友達に、水道局に勤めてる子いなかったかー?」と父。

「それはジローの友達だよー、父さん」とイチロー。


 なぜここで水道局が出てくるのだろう。疑問に思ったがしのぶは口を挟まず、ひとまず場の流れに従った。


「オイラの友達に、管理局の子がいるよー」とサブロー。

「おー、じゃーその子を紹介してあげなさいー」と父。

「でも春だし忙しいんじゃないのかー?」とイチロー。

「あー、そういや視察に行くっていってた気がするー」とサブロー。

「じゃー戻ってきてからだなー」と父。

「しのぶちゃんー、食べないんならコレちょうだいー」としのぶの皿にあるクッキーに手を伸ばすゴロー。

「こらー、ゴロー。お客さんのものに手を出すんじゃないのー。ごめんなさいねー、お茶でもどうー?」と母。


 なんだかサブロー空間に迷い込んだようで、しのぶはただ笑っているだけしかできなかった。



 結局「管理局のたっくんが帰ってきたら紹介する」ということで話がついた。しのぶには何が何だかわからなかったが、とにかく「管理局のたっくん」がキーパーソンということはわかった。


 幸いにも「身辺が落ち着くまでの間、家業を手伝う代わりに家にいていい」と許可が出た。しのぶはありがたくサブロー宅に住まわせてもらうことになった。


 しかし母が浮かない顔をしている。


「しのぶちゃんは女の子だしー、男の子と一つ屋根の下って問題があるんじゃないかしらー?」

「いえ、お気遣いなく」

「うちは鍵も客間もないからねー。男連中と雑魚寝になるわよー」

「……あ、そうなんですか」

「離れを用意しましょうかー?」

「お、お願いします」


 離れというのは、サブローから聞いた使用人用の宿舎だった。


 長年使われていないのか、建物に入った瞬間、かび臭さを感じた。廃墟かと思ったが、ほこりを払えばそれなりに普通に暮らせそうだ。

 台所と居間、風呂やトイレといった基本的な設備の他に、六畳の小部屋が一階に二部屋、二階に四部屋ある。最大六人住める造りだ。それほどにサブロー家は大規模に牧場を営んでいるのか。しのぶは感心した。だがどの部屋も使われておらず、快適で広々とした造りが今となっては逆に寂しく見えた。


 しのぶは二階の一番奥の部屋を選んだ。単純に人が来にくい部屋を選んだのだが、角部屋なので他の部屋より窓が多い。西に面しているので、毎日夕暮れを楽しめる部屋だった。母屋から布団を運ぶのは面倒だったが、いい部屋を選んだと思った。



 ふと窓の外を見ると、異世界に似つかわしくない光景が目に飛び込んできた。

「な、何あれ!」


 小さな光が点在し、山のような形を形成している。まるで高層ビルの夜景だ。しかし大きさはビル群とは違う。まるで天を突くほどに巨大な一つのビルが煌々と輝いているようだった。



 布団運びを手伝ってくれたサブローに尋ねると、サブローは平然と答えた。

「あー、アレは街だよー。明日連れてくなー」

「え?」

「見た方が早いからねー。だから今日は早く寝ろー」


 しのぶは気になって仕方なかったが、サブローがいうのも一理ある。今は灯りだけで全体像すら見えないし、説明されてもよく理解できないだろう。そ


 れに一階でシャワーを浴びて借りた寝間着に着替えてベッドに飛び込んだら、すぐにぐっすりと寝入ってしまった。よく考えたら異世界転移する前から寝不足だったのだ。余計なことを考える暇など、今のしのぶにはないのである。


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