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第四話 しのぶ、書くと決意する!

 配送からの帰り道。平坦な地上を走りながら、しのぶはサブローと色んなことを話した。そして色々とわかってきた。 



 魔王出現の預言を受けて、地方から腕に自信がある冒険者たちが押し寄せた。そのおかげで首都フリエフはバブル状態。冒険者たちは立身出世できるといきり立ち、住民たちは街に好景気がやってくると喜んでいた。


 だが、それは幻想で終わった。一気に人が増えたせいで、街の受け入れ状況はパンク寸前。宿屋も飲食店も対応できず、ビジネスチャンスを逃しているのだとか。

 物資が足りないのはもちろん、首都内の一部の労働者が冒険者に転向したため、働き手が足りず営業自粛する店もあるとか。


 一方、冒険者たちはなかなか預言の続報が出ないため、ただ街で遊ぶ日々を過ごしていた。

 本当ならバイトでもして安定した収入基盤を作るべきだが、彼らは「勇者パーティーとして名を上げる」という夢があるため、真面目に就職する気はない。


 だから資金不足になる冒険者たちが増え、ホームレスとなった冒険者たちが続出。街の一部がスラム化しているそうだ。

 しのぶが見た冒険者たちは勝ち組の一部で、金がある者たちは大通りで酒を飲んでいるが、その何倍もの冒険者たちが路地裏で息をひそめているとのことだった。

 世界の安全を守る冒険者が首都の治安を悪化させるだなんて、とんだお笑い種である。



「冒険者がちゃんと働いたら、全部解決する問題じゃないですか!」

「そうなんだけどさー」

「他の会社は、求人を出さないんですか?」

「それなんだけど、多分しのぶが言う求人とオイラたちの求人って違うと思うんだよなー」


 そういって、サブローは次のことを話した。



 この世界にも、もちろん求人はある。ただ働き手を求める会社はあるが、人手不足に陥ること自体が少ないそうだ。

 採用しても一人二人なので、従業員や知人の紹介で十分穴埋めできる。それに欠員が一人なら、残っている従業員が頑張ればそれなりにフォローできる。

 立ち行かなくなるほど人手不足になることは、滅多に起こらないのだ。


 一方、働きたい人は、誰かに「仕事はないか」と声をかければ、高確率で何かしら紹介される。仲介者の信用があるため、即採用されることが多いのだとか。

 ダメでも「うちの仕事がダメ」ということで、人づてでまた別の職場に移っていく。だから「仕事が欲しい」とさえ呟けば、勝手に仕事が舞い込んでくるのだ。



 それが今になって、この急激な人手不足が起きた。だからどの会社もどうしたらいいかわからず、頭を悩ませている状態だった。



 ちなみにウマミ牧場はもっと条件が悪い。都市内に店がないから、誰かに伝えてもらわない限り、求人の存在すら知られない。

 だからマリノの店に貼り紙を掲示させてもらっている。

 ただ、貼り紙で求人を募ること自体がレアらしい。その上、本来掲示板には物品の交換や引っ越しの手伝いなど、日常生活のちょっとした困りごとを書くためのものだ。だから見る人も貼る人も自分が困った時しか見ず、思うように応募が来ないとのことだった。



「こんな求人で、今まで応募があったんですか?」

「前に応募した時は来たって言ってたよー。じいちゃんの時だから、オイラはよくわからないけどー」

「もしかしてベビーラッシュとかで、人がたくさんいた時代じゃないですか?」

「いーやー。むしろ食料難で、バッタバタ人が死んでく時代だったらしいよー」


 食料を求める人が酪農家に身を寄せたいのは、当然だろう。しのぶは納得した。


「だからさー。もししのぶが得意だってんなら、貼り紙を作ってほしいんだよなー」

「え、私が?」

「プロなんだろー?」


 しのぶは答えに困った。確かにプロではある。ウェブ媒体とはいえ、求人広告は多数書いてきた。

 自分的にはベテラン新米といった感じでようやく求人広告のイロハを理解し始めたレベルだけど、それでもこれまで書いた経験から色々とアドバイスできそうだとは思った。

 しかしチラシや紙媒体は初めてだ。果たしてうまくいくだろうか。



 仕方ないので、しのぶは事実を伝えることにした。

「まあ、向こうの世界では仕事にしてましたけど……」

「だったら頼むよー」

「でも貼り紙じゃなくて、ウェブですよ。作り方が違うから、力になれるかどうか」

「全然いいよー。好きにしていいからさー」



 本来この申し出は嬉しいものだった。牧場仕事から解放されるには、求人広告を書くことが一番の近道だ。その実績作りとして、ウマミ牧場を利用できる。

 採用の可否に関わらず「こんなものが作れます」と見本にして、さらなる仕事を獲得することができるだろう。どこも人手不足なので、代わりにチラシを作れるだけでも十分に仕事はたくさんあるはずだ。



 だが、本当に自分にできるだろうか。

 異世界の人が現実世界と同じように、求人広告で心を動かしてくれるだろうか。

 自分はチラシを作ったことがないし、アナログで本当に効果があるのだろうか。


 もし失敗したら、自分がプロ失格だと落ち込んでしまうだろう。

 ダメで元々と思いつつも、しのぶは取り組むのが怖かった。



 しかしだ。


 右も左もわからないこの世界で、最初に優しくしてくれたのはサブローである。そしてウマミ牧場のみんなが助けてくれたからこそ、しんどいながらもこの世界でも生きていけると安心できた。


 そんな彼らに、自分の得意分野で恩返しができるなら。彼らが一番困っている問題を、自分が解決できるなら。これほど嬉しいことはないだろう。


 しのぶは覚悟を決めた。



「わかりました。お引き受けします」

「ありがとー」

「その代わり、制作中は牧場のお仕事を休ませてください。じっくり考えて、より効果が出る原稿を作りたいからですから」

「いいよー。父さんにはオイラから言っとくー」



 こうしてしのぶは初の異世界で求人広告を作ることになった。きつい重労働から解放されることに安堵しつつも、内心はドキドキが止まらなかった。

 これが不安からくるものなのか、喜びからくるものなのか。しのぶにはわからなかったが、その日はずっと興奮していた。

【お詫び】

 いつも本作を読んでくださり、誠にありがとうございます。

 大変申し訳ないのですが、本作はここで一旦休載となります。誠に申し訳ございません。


 先日腱鞘炎になりまして、執筆が滞っております。現在治療しているのですが、かなり長引きそうです。継続的な投稿が難しいので、休載を決意しました。これからしのぶが本領発揮していく展開なのに、本当に申し訳ないです。

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