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第一話① 魔法陣+衝突=異世界転移

 すべての元凶はこの魔法陣トートバッグだ。音無しのぶは右肩にかけたトートバッグを睨んだ。


 キャンバス地で黒色のバッグには、片面に魔法陣がプリントされていた。

 もちろんしのぶには何の魔法陣かわからない。雑貨屋の「魔法陣フェア」という痛さ全開の期間限定コーナーに置かれていた市販品なのだから。先月の給料日にテンションが上がってつい買っただけで、特に何も考えていなかった。


 でも絶対にこの魔法陣が原因に違いない。そうでなければ、異世界に転移した理由が思いつかないからだ。



 しのぶは現代日本に住む普通の社会人だった。いや、正確には半社会人といえようか。


 しのぶの職業はライターとして、自宅で求人広告の文章を書いていた。求職サイトに出ている「やりがい」や「こんな仕事です」と書いている文章といえばわかるだろうか。つまり求職サイトに出ている文字全般を書く仕事をしていた。


 しのぶは求職サイト「アゲイン」の二次請け企業の外部ライターとして、企業への取材から執筆までを担当していた。

 二次請け企業のディレクターと取材する企業担当者としか交流がなく、しかも完全在宅なため、しのぶは自分のことを「半社会人」と呼んでいたのだ。



 こう書くと「完全在宅で食い扶持を稼ぐなんて!」とスゴイ仕事だと思うだろう。しかし実態は違う。

 求人広告の単価を知っているだろうか。依頼主である企業は、アゲインに対して数百万円を支払っている。しかし末端ライターには百分の一しか支払われない。だからかなりの数を書かないと、家賃すら払えない状態なのだ。



 そんなだから、しのぶは寝る間も惜しんで求人広告を書いていた。努力──いや、厳密には自己犠牲なのだが──次第で収入が上がるので、しのぶとしては救いがある仕事に思えた。


「仕事に慣れれば書く本数が増えて、さらに収入アップできる。今つらいのは修行の一環なのだ」

 そう自分に言い聞かせながら、なんとか一山上げようと必死だった。だがそのせいでしのぶは常に寝不足だった。そして悪夢の日(今日)を迎える。



 昨日の夕方、新規案件の依頼が来た。資産ファンドマネージャーの募集だった。

 はじめて聞く職業だった。きっとただ書くだけなら問題ないだろう。しかし今回は取材がある。ある程度の知識がなければ、先方から「コイツわかってねーな」として話を聞けなくなる。

 原稿執筆が滞ったら書く本数が減り、収入が減り、家賃が払えなくなる。その可能性に気づいたら、しのぶは一気に不安になった。


 ネットで調べたがよくわからず、やむなく図書館に資料を借りに行くことにした。「○○になるには」という学生向けの本が職種の理解に役立つのだ。



 だから眠い目をこすって外出の用意をした。

 折角なので、買ったものの使う機会がなかった魔法陣トートバッグを使うことにした。平日日中の図書館は人気が少ないので、痛さ全開でも恥ずかしくない。

 せっかくだからと全身オシャレもすることにした。


 なめらかな素材の白ブラウス。細かいプリーツが入ったパールピンクのスカート。靴も可愛くしたいが、遠出なので白スニーカーに妥協する。

 寝不足の目にコンタクトレンズはしんどいので、メガネのままでオーケー。どうせマスクで隠すから化粧はしない。

 ただ髪だけは整えよう。最近美容室に行っていないので、髪は伸び放題でアホ毛が何本も出ている。櫛で梳いたらイイ感じの黒髪ロングヘアになったが、少し動くとアホ毛が揺れる。これはもう仕方ないので、次の休みに美容院で何とかしようと思った。



 さて、おでかけは準備万端! 外に出ると、太陽光が目に染みた。でもしっかりと目を開けて楽しいお出かけを満喫しよう。

 そう思いアパート前の通りに出た途端、右から車が突っ込んできた。


(あれ、私どうして飛んでるんだろう?)


 最初、しのぶは何が起きたのか理解できなかった。気がつくと自分の身体が飛んでいて、その事実を冷静に観察していた。


(これって着地する時はどうしたらいいんだろう?)


 いつの間にか飛んだのだから、着地もいつの間にか終わっているのだろうか。なんてぼんやり考えているうちに意識を失った。


 そして気づいた時には、見知らぬ森の中で、とある木の根本に寝そべっていたのである。

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