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無知な令嬢に罪があるのなら真実を明らかにしましょう  作者: NALI


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第73話 校外実習Ⅲ




 森の中を地図を頼りに駆ける。胸が焼けるように苦しく、呼吸は乱れているのに、足は止まらなかった。


「変だな……」

 走りながら私は思考を巡らせる。


「フレデリク様、何が変なのですか?」

 後ろでジュリアンが肩で息をしながら問いかけてきた。


「アベル殿下の班は、もっとも安全な位置に割り当てられていたはずだ。それなのに野犬に襲われるなど……不自然すぎる」

「……つまり誰かの策略?」

「断定はできない。だが注意すべきだ」


 森の奥から甲高い悲鳴が木霊した。ぞくりと背筋が凍り、胸の鼓動が跳ね上がる。


「ジュリアン、のろしを上げろ! 先生方に異変を知らせろ!」

「わかりました! でも……すぐに駆けつけてくださるでしょうか」

「必ず近くにいるはずだ。あの班は高位のご令息ご令嬢ばかりだからな」

「なるほど……。フレデリク様やセリーヌ様も侯爵家で高位ですが」

「あぁ。だから我々にも護りはついているはずだ、クロエたちは大丈夫だろう。……頼むぞ、ジュリアン!」


 私はさらに速度を上げ、枝葉をかき分けて走った。


✧••┈┈┈┈┈┈••✧


「殿下、危険です!」

 クリストフが剣を抜き放ち、アベルの前に立つ。


「俺も退かない!」

 アベルは一歩も引かず、唇を引き結んで剣を構えた。


 四方から低い唸り声が響く。群れは統率され、ただの野犬ではなく、まるで訓練された狼のようだった。


「囲まれてます!」オリヴィエが叫ぶ。

 背後ではミアが青ざめ、アメリーとカトリーヌにしがみついている。

「く、来ないでっ……!」ミアの声は震え、今にも泣き崩れそうだった。


「先程近くの班に助けを頼んで来たのですぐに援軍が来るはずです」


オリヴィエには異変に気づいてすぐに近くの班に助けを頼みに行かせていた


(しかしこんなにも野犬が来るとは、この人数では厳しい……援軍が来るまで、どうにか耐えきるしかない!)



ザザッー


「殿下! お待たせしました!」

 剣を構えながら私は輪に飛び込んだ。


「フレデリク!」


アベル殿下が目を見開く。

「途中でのろしを上げました。すぐに先生方も来ます!」

「……助かった!」

「殿下の援護に参ります!」


 その言葉に、少年たちの顔に希望の色が差した。

「背中を合わせろ! 散るな!」

 私の号令に従い、彼らは必死に剣を握りしめて輪を作る。


 少し遅れてジュリアンも到着した。

「うわ……思ってた以上に多い!」

 彼は軽口を叩きつつも、しっかりと剣を構えた。


「一人二匹を仕留めれば半分になる!」

「簡単に言ってくれるな……」

 アベルは小さく笑みを浮かべ、深呼吸して仲間を鼓舞した。

「俺に構うな! 目の前の敵に集中しろ!」

「はいっ!」


 剣戟が火花を散らし、必死の攻防が繰り広げられる。汗が滝のように流れ、腕は震え、息は荒い。それでも誰一人として退かなかった。


「はぁ……もう、持たない……!」

 弱音が漏れた瞬間、私は声を張り上げた。

「大丈夫だ! 援軍は必ず来る!」


✧••┈┈┈┈┈┈••✧


 だが群れは止まらない。獣の数匹が令嬢たちへ回り込み、飛びかかろうとしていた。


「きゃあっ――!」


「伏せろ、ミア!」

 アベル殿下が叫び、駆け出した。

 剣閃が走り、獣の牙より速く首筋を断ち切る。血飛沫と共に野犬が呻き声をあげて倒れた。

 続けざまにもう一匹が跳ねかかる。アベル殿下は咄嗟に身を翻し、肩にかすり傷を負いながらも渾身の力で斬り下ろした。


「殿下!」ミア嬢が涙声で叫ぶ。


 荒い息を吐きつつ、アベル殿下は堂々と剣を構え直した。

「俺がいる限り、誰一人傷つけさせない!」


 その姿に少年たちは息を呑み、再び剣を握り直した。

「殿下のために!」

 士気が一気に高まっていく。

 ミア嬢は震えながらも、その瞳をひたすらアベル殿下に注いでいた。


✧••┈┈┈┈┈┈••✧


 その時、森を駆け抜ける影。


「もう大丈夫だ、下がれ!」


 先生方が一斉に飛び込んできた。黒い外套が風を切り、影が舞い踊るように群れへ突入する。


 ひとりの教師は、構えも見せぬまま刃を閃かせ、三匹をまとめて斬り伏せた。鋭い金属音と共に獣が絶叫し、土煙を上げて倒れる。

 別の教師は詠唱を口に乗せ、杖を振り下ろす。蒼白い光が地を這い、狼の群れを呑み込んだ。火花のような閃光が弾け、獣たちは悲鳴をあげて後退する。


「す、すごい……!」

「動きが……見えない……!」

「これが……本物の騎士……!」


 少年たちは呆然とその戦いを見つめた。彼らが必死に数匹を退ける間に、大人たちは一瞬で十数匹を薙ぎ払っていく。


 さらに別の教師が声を張り上げる。

「押し込め!」

 号令と共に前列の二人が同時に突進。剣閃が交差し、血の筋を空に描いた。残った野犬は尻尾を巻き、悲鳴をあげながら森の奥へと逃げていった。


 静寂――。荒い呼吸だけが、輪の中に残った。


「……助かった、のか」

「俺たち……生きてる……」

 誰かが安堵の声をもらし、膝をついた。


 私は剣を収め、殿下に向き直る。

「殿下、ご無事で何よりです」

「……ありがとう、フレデリク。皆も、よく耐えた」


 森に静けさが戻り、少年たちは互いの無事を確かめ合いながら、深く息を吐いた。


空を見上げ

(クロエ……大丈夫だよな。)



呼吸を整え

「ジュリアン、班に戻ろう。みんなが心配だ」



くたくたになっているジュリアンに声をかけ、今ある力を全て使い切るように私とジュリアンは、自分たちの野営へと駆け出した






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