第57話 モーリスの家族
セドリック様は怒りと悲しみと入り交じった表情をしていた
「モーリス……この屋敷で1番長く仕えてくれたお前が……信じがたい」
セドリック様の悲しみが溢れ出ている
モーリス様は無表情のまま
「信じがたい?……ハハッ」
何故かモーリス様は吹き出した
「実際は信じていなかったでしょ。もし信じていたら私があなたの専属執事になっていたはず。そうだったならこんな危険な方法であなたを襲わずに済んだのに。毒で少しずつ何も知らずに人を信じて幸せに死ねたのに」
「モーリス……私に少しの忠誠心はなかったのか?」
「……あるわけがない。私は家族の命を守ってこれまで生きて来たのだから」
「……そうか。では質問を変えよう。お前は何故この公爵家に来たんだ?それは誰の指示だ?」
「素直に答えてくれたらお前の命は助ける。答えなければ拷問してでも吐かせる」
セドリック様の目は本気だった
「言うわけがないでしょ。私も家族を守らなければならない。今すぐ私を殺してください」
家族……モーリス様の本当の……
「セドリック様、僕にひとつ提案があります」
僕はセドリック様に耳打ちした
「できるのか?」
「分かりませんがやってみます」
僕はモーリス様に近づいた。
モーリス様は椅子に鎖で繋がれているので、僕を殴ることも触ることもできない
「モーリス様、僕があなたの家族をたすけます。そうすれば全てを話していただけますか?」
「子爵家の子供に何が出来るっ」
横にいたマクシムが急に声をあげた
「できるかできないじゃないのです!やらなければいけないのです。モーリス様の本当のご家族の居場所を教えてください……私が……」
マクシムも悲しみでいっぱいだった
モーリス様は少し考えて……
「私はアルフォンス国に忠誠を誓っているこの命尽きても何も話すことなど無い」
モーリス様の目に迷いが見えた気がした
少し沈黙が続いたあと
「私も歳をとりすぎたのでしょうか」
モーリス様が話し出した
「ベルジック家を潰すことが私の使命。それが遂行出来なければ祖国に帰っても死があるのみ。私が帰らなくても今年中にセドリック様を殺せなければ私の家族の命はないのです。だからどう足掻いても終わりなのですよ……ただ……」
ただ……?
「ここでの暮らしが私にも心地よかったのかもしれません。私は結婚せず子供もいないのですが ……マクシム……息子がいたらこんな気持ちだったのだろうか。お前には知られたくなかったな。お前を殺さずに済んで良かった。マクシムは道を間違えるなよ」
モーリス様の瞳が少し潤んでいた。
「だったら!……最初から俺に相談してくれよ……モーリス様を一発殴って……それから一緒に……一緒に罪を償ってやったのにモーリス様のかぞ……く……だって……」
マクシムは涙が溢れ出して最後の方は言葉になっていなかった
「マクシム……ルディスはまだ生きているだろう。ただ私の正体がバレたと分かれば始末される。急いでアルフォンス国の港町カラにペシャーワル子爵家の屋敷に捕らえられてるはずだ。すぐに行けば間に合う」
セドリック様は慌てて警備隊に指示を出した
「ただ私にも見張りがいます。どこで見ているか分かりませんが毎週買い出しに行く先の商人です。明日は普通に買い出しに行かないと怪しまれるでしょう」
「セドリック様、僕が明日モーリス様と買い出しに行きます。子供が一緒なら怪しまれないと思います。数日それで誤魔化しましょう。アルフォンス国行きの船に乗れれば間に合うと思います」
「そうだな……」
アルフォンス国へはマクシムと数名の護衛が行くことになった
お屋敷でのモーリス様の見張りはセドリック様と私と警備兵が24時間体制でみはる。
今回の事件に加担したであろう執事のレックス
は事情を聞いて解雇という形になるだろう




